第65話
俺は今一つ重要なことに悩んでいる。
それはミヤビをどうするかだ。
従魔はテイマーの近くに置くか学校の預り所に預けるかの二通りある。
前者だと俺と一緒の部屋に暮らすことになるのだがそうなるとエミリーの嫉妬も怖いし何よりミヤビとオクタの相性は最悪だろう。かと言って後者だと獣がたくさんいるところにミヤビを放置するのはかなり可哀想だ。
悩みに悩んだ末とりあえず一人部屋になるまではおばあちゃんの家にいてもらうことにした。
そんなことを考えているとお昼にはそれなりにいい時間になってきた。
「なあオクタ、お前昼飯どうすんの?」
「拙者は備え付けのキッチンで自炊するでござる、ちなみに今日の昼食はナポリタンでござる」
おお、見た目に似合わず女子力高いな、俺はいつもおばあちゃんかエミリーが作ってくれていたから料理に関してはからきしだ。
「そうか、じゃあ俺は食堂に行ってくるわ」
◇◇◇
食堂は思いの外人が少なく大分席が空いていた。
その数少ない食堂を利用している人たちを見回したが残念ながらエミリーは見つからなかった。
まあエミリーは料理もできるしさっきもユリエたちと共に行動していたから放っておいても大丈夫だろう。
この食堂では日替わりのメニュー一つだけ。朝晩であればトレイを持って適当に出来ている列の後ろに並べば食事にありつけるらしいが、昼の場合はその都度食券を買わなければいけないらしい。。
という訳でさっそく券を買い料理と交換する。
「おや、君新入生かい?小さいのによく入学できたねぇ、早く大きくなれるようにお肉いっぱいいれてあげる♪」
「ありがとうございます!」
よく入学できたも何も新入生主席なんだけどな、割烹着姿のふくよかなTHE食堂のおばちゃんがよそってくれた料理を手に端の方の席に向かった。
今日の献立はバターロールのような形をした固めのパンとシチューとサラダだ。
パンをちぎってシチューに浸して食べる。
うん、悪くはないけどおばあちゃんやエミリーが作った方が美味しいな。
誰と話すでもなくただ一人でもくもくとモグモグする。
高校ではぼっちで昼食はいつも一人で食べていた俺だ、いまさら寂しいとも思わない。
そして誰かが話しかけてきたり因縁をつけられたりといったイベントは起こらずに本当に食事だけをして食堂から出た。
さて、午後からは何かやらなきゃならないこともなく暇だ、と言っても俺はもう何をやるかは決めているがな。
俺が食堂の次に向かった場所は図書館だ、ちなみにこの『図書館』は校舎の中にある一室ではなく本当に校舎とは別に図書館の建物が学園の敷地内に存在する。
体育館のような形をした第三訓練場と似た造りの図書館の扉を開く。
建物の中には数え切れないほどの、本がびっしり詰まった大きな本棚があった。
これだけあると目的の本を探すだけで日が暮れちゃうなぁ。
「何か本をお探しですか?」
隣から聞こえた声の方を向くとそこには丸いメガネをかけクリーム色の髪を三つ編みにしたのんびりとした印象を受けるエプロン姿の美少女が立っていた。
「はい、ゴーレムに関する書物を探そうと思ったのですが如何せん本の量が多く困り果てていたところです」
今回俺が探している本はゴーレムに関する物だ。
オクタに聞けばわかるのではないかとも考えたのだが、あいつに聞いたら100%聞いてもないことを話し出すだろう、それに読書家な俺はこの世界の創作物にも興味があるしな。
「ゴーレムに関する本ですね、少々お待ちを」
そう言うと彼女はどこからか分厚い本を魔法を詠唱せずに取り出した。
魔法名すら唱えずに魔法を発動させるのは至難の技だ。
俺でさえそれができるのは『空間属性』と『無属性』だけ、つまり彼女がもし『空間属性』の魔法を使って本を出したのならば『時空魔術師』である俺と同レベルの使い手と言うことになるな。
「ありました、ゴーレムに関する本はこちらです、ついてきてください」
歩を進める彼女の一歩後ろをついていく。
「この本棚の下半分ほどがゴーレムに関する本になっています」
「教えてくださりありがとうございました」
「いえそんな、そういえば自己紹介がまだでしたね、私は図書委員会委員長イヴ・ラリアンと言います」
「僕はケイト・パルティナです、今後も図書館は度々利用すると思うのでよろしくお願いします」
自己紹介を終えるとイヴはどこかへ行ってしまった。
本棚を見上げる、高さはだいたい3メートルくらいかな、種族によってはそれに届くものもいるが俺の今の身長は140㎝程度、下半分ほどならてを伸ばせば届く高さだ。
とりあえず上から10冊程度抜き取り近くにあるテーブルに腰掛け本を読みふける。
『高速思考』で速読し『記憶操作』で内容を脳に固定する、そうすることによって大量にある本がどんどん消化されていく。
その本棚にあるゴーレムの本を半分ほど読み終わったところで俺はあることに気がついた。
書いてあることどれも一緒じゃね?
それに気づくと途端に読む気が失せ、ゴーレムのお勉強はここまでにすることにした。
机の上にある本を片付けながら読んだ内容を思い出す。
『ゴーレムは魔力の貯まった魔法石を原動力にして動きそれが何故動くのかは未だにわかっていない』……っておい!ちゃんと仕事しろよ科学者!
まあ携帯の原理を知らなくても使うことはできるみたいなことかな?うん、いや専門家がわからないとか致命的だろ。
『魔法石は純度の高いものほど良い』
当たり前だろ、何故そんなことをあんな分厚い本に書いてんだよ。
『ゴーレムの器は人の形でも動物の形でも良いが魔法石は心臓の位置に取り付けなくては動くことはない』
ようやくそれっぽいことが出てきたよ、でも何故心臓の位置じゃなくちゃいけないのかはわかっていないのだろうな。
『なお何故心臓の位置に魔法石を取り付けなくてはならないのかと言うと、生物の全身にある血管は全てが心臓に繋がっている、これと同じで魔法石からもゴーレムの体に『魔管』と呼ばれる管が張り巡らされ、それを通してゴーレムの全身に魔力が供給される。もし心臓以外の箇所に魔法石を取り付けても魔管全身に張り巡らされずゴーレムは起動しなくなる』
おお、なんかごめんなさっきちゃんと仕事しろとか言って、ちゃんと仕事してたね専門家の皆さん。
その他にもたくさんのことが書いてあったが今はこれくらいでいいだろう。
さて、図書館に来た第2の目的を果たそうとするかな。
と言ってもこういう図鑑とか専門書じゃない物語系の本がどこにあるのか探さないと、
「何か本をお探しですか?」
読んでいただきありがとうございました。




