第58話
翌日俺はミヤビと二人で合格発表を見に行った、と言うのも現在俺とエミリーは別居中だからだ。
昨日エミリーに辱しめを受けそうになった俺は『テレポート』で森の中を逃げ回っていたのだがエミリーは俺の転移する場所がわかっているかのように追いかけられ、らちが明かないと判断した俺はミヤビを拉致してここベルフォームで夜を明かすことにした。
泊まった宿はなかなか良いところでちゃんとお風呂も設置されていてルームサービスも頼むことができた。残念ながら俺はこの世界でお金を使ったのは初めてで相場がわからなかったがミヤビいわく、
「一晩で庶民の一ヶ月分の収入と同じくらいですね」
だそうだ、まあ『未知の洞穴』をクリアした俺からしたらこんな宿死ぬまで泊まってもお釣りが来るがな。あ、俺死ねないんだった。
そしてようやく、五年ぶりに一人で寝れると思ったら、「一人では寂しいでしょうから添い寝してあげましょう」とミヤビに言われこのまたとないチャンスを逃してしまった。
合格者の受験番号が書かれている紙を見る、まあ当たり前だが俺もエミリーも合格だ。だいたい合格したのは200人くらいだろうか。
そして俺たちは教科書などを受けとるために受付まで向かった。
「受験番号682番ケイト・パルティナです、教科書と制服を受け取りにきました」
「682番パルティナ君ですね、合格おめでとうございます。こちらが教科書と制服になります」
制服はブレザーでなかなか生地がしっかりしている、前世では中学も高校も学ランだったからブレザーは初めて着る。
「それからパルティナ君は新入生主席なので明日の始業式に全校に向けて話す言葉を考えてきてください」
「え?流石に明日って言うのは早すぎませんか?」
「そうですか?どこの学園も同じだと思いますが、それと寮を使用するかどうかも明日までに決めておいてくださいね」
どこの学園も同じか、まあここは地球じゃないしな、おばあちゃんの家がなかなかハイテクだから文化の違いをあまり感じれていなかった。
それにしても主席か、実技テストだとエミリーやユリエさんの方がすごかったと思うが二人ともテストが悪かったのかな。
「そうですか、わかりました」
そして俺は受付の場から離れた、後ろの人からの早くしろオーラが半端なかったからな。
さて、これからどうするかな、家に帰ってもエミリーがまだ怒ってたら怖いしなぁ。と考えながら歩いていると道端にぼろぼろな灰色の外套を着た人が倒れていた。姿は見えないが体格からして男だろう。
女ならともかく俺は路上で行き倒れしている男を介護してやるほど優しくはない。
そのまま気にせず素通りしようと思ったのだが、
「ゲイドォォォォオオ」
後ろからものすごい鼻声で俺を呼ぶ声が聞こえ振り向こうとしたがそれよりも早く何にタックルされた。
「ゲイドォ、ごべんだざいぃぃ、もうケイトに何をされても受け入れるから逃げないでよぉぉ、」
「エミリー!?」
タックルしてきたのはナイヤガラの滝も真っ青な勢いで泣きじゃくるエミリーだった。
予想外の出来事に戸惑う俺に顔がやつれたおばあちゃんが説明してくれる。
「昨日お主はベルフォームで泊まるって言ってミヤビを連れて転移してしまったじゃろ、はじめはよかったんじゃエミリーも「ケイトなんてもう知らない!」って言っていたからの、しかし夜中に突然エミリーが「ケイトがいないよぉ」って泣き出してのそれがうるさくてうるさくて、かといってこんな状態のエミリーをここに連れてきたら目に入る建物全部壊してお主を探すかもしれんからここに来るわけにもいかないからわしがエミリーの話を一晩中聞いとったんじゃ、本当に大変じゃったんじゃぞ」
「御愁傷様です」
ミヤビが心底同情しながら言う。
今回の出来事は完全に俺に非があるからエミリーにこんな泣きながら謝られるのはおかしいよな。
「エミリー、今回のことは俺が悪かったからさ、もう謝らなくていいよ」
「ううん私が悪いの、ケイトが出ていったってことは私がケイトの嫌がることをしたってことでしょ、だから私が悪いの。だからほら」
エミリーは俺の首に手をまわし、俺の頭を抱き締める。
俺は頬で未発達の胸を堪能しているとなんだかブブブブブと聞き慣れない音がする。
「昨日のぶるぶる震えるやつで今も自分にお仕置きをしてるの」
「やめなさい!」
胸が揺れてないってことはつまりアソコなのだろう。
「エミリー、昨日も言ったがそれは子供が触れていい物ではない、俺の影の中に入っていいからさっさと外しなさい」
俺の言葉に素直に従ってくれたエミリーは闇属性の魔法で俺の影の中に入った。
俺がため息をつこうとすると、
「本当に仲がいいんだな、羨ましいよ」
灰色の外套を着た男が起き上がり聞いたことのある声で話しかけてくる、
「お前だってユリエさんと結婚はできてなくても付き合ってるんじゃないか?と言うかそんなにぼろぼろになって何があったんだ?」
「なんだ聞いてくれるのか、こんなんになった理由を」
将吾は全身から不幸なオーラを醸し出しながら問いかけてくる。
「ああ、聞かせてくれ、何があったのかは知らないが吐き出せば多少は楽になるぞ」
今の俺はエミリーと仲直りできて気分がいいからな、それに俺人の不幸な話聞くの大好きだし。まさに『人の不幸は蜜の味』ってやつだ、ちなみにこれの元ネタは90年代に放送されたテレビドラマのタイトルなんだよな。
「昨日さっきの女の子に負けたユリエを背負って泊まっていた宿に帰ったんだよ、そしたらその途中で言い方は悪いが俺のハーレム要員だったラミア族のララと猫耳の獣人のミーニャ、それとユリエの姉のクリスさんにあったんだよ、そしたら彼女らは俺を見るなり『嘘つき』だとか『偽者』って散々罵られてさ、その上背負っていたユリエを引ったくるように奪われて『二度と私たちに近づくな』って言われてさ、あいつらに金とか全部預けてたから別の宿に泊まるわけにもいかなくてってな、はは昨日一日で何もかもを失っちまったんだよ」
なるほど、将吾の『絶倫』のレベルが7だったのは同時に4人を相手にしていたからだったんだな。
「そうか、辛かったな。それでお前から何もかもを奪った俺のことを憎んでるのか?」
「いくら俺でもそこまでダサいことは言わねぇよ、お前と試合をして俺が弱かったから負けたんだ。恨むなら自分の弱さと慢心だな」
それにと将吾は続けた。
「あいつらは俺じゃなくて『魔王』が好きだったんだ、ワイバーンの群れから救ったララも、盗賊のアジトから命からがら救いだしたミーニャも、家のためだからって好きでもないハイヴァンパイアにレイプされそうになっていたところを体に風穴空けながら助けたクリスさんも、みんな俺を『魔王』だと思ったから一緒にいてくれていたんだ、『魔王』じゃなければ命の恩人だろうが今まで共に旅をした仲間だろうがあいつらにとってはなんの価値もないただの平凡な顔立ちをした男でしかないんだ。その事を知ることができたからむしろ俺のことをコテンパンにしてくれて感謝しているくらいだ」
俺は空を見上げる、晴れた空にはいくつか浮雲が浮かんでいる、風が強く吹いている訳でもないのに雲の流れが早い。
「おばあちゃん、エミリーの合格発表は見に行った?」
「いいや、こっちに来てからお主を探すことを優先したからまだ見てないぞ」
「そっか、エミリーは合格だったよ。それと将吾お前の受験番号はいくつだ?」
「325番だったはずだ」
やっぱりか……
「将吾、お前落ちたぞ」
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