第48話
リビングについた俺たちにメイヤさんが父さんにはアイスコーヒー、俺とエミリーにはアイスティーを入れてくれた。父さんにエミリーをぞんざいに扱うなと言われたらきちんともてなすあたりにプロを感じる。
ちなみにエミリーは俺の隣に、父さんは俺の向かい側、ミヤビは俺の後ろに立っている。
「で、今日はどうして来たんだ?五年間も帰ってこなかったんだから寂しくなった訳じゃないだろ?」
「うん、俺学校に行くことにしたんだ、それで来月に入学試験があるし学校に行くってことを報告しといた方がいいと思ったから」
「なるほど、それでどこの学校に行くんだ?」
「ディア大陸の国立魔法学園」
父さんは髭を綺麗に剃られた顎を撫でた
「ディア大陸か、まあお前も人間やめて吸血鬼になったからな、ちなみに吸血鬼になった原因を聞いてもいいか?」
「うん、言っても信じてもらえないと思うけど、俺が死にそうになったときに神様が種族を変えることで俺を助けてくれたんだ」
まず信じられないよな、俺でもそんなこと言われたら頭おかしいんじゃねぇのってなるもの。
「なるほど、ヘレン様に助けてもらったのか?」
「いいや、ヘレン様の弟のミカサだよ」
「なんだお前、神様を呼び捨てなのか?」
「そうしろって言われたんだよ」
なるほど、と言いそれで興味が逸れたように別の話題に移した。
「それで、その娘やメイドさんはどうして付いて来たんだ?」
父さんの言葉に反応してエミリーは背筋をピンっと伸ばし、
「はじめまして、私はエミリーと言います、その…」
エミリーは顔を紅く染め一瞬次の言葉を躊躇ったがそれも一瞬、エミリーは決意を固めた表情になり、
「お義父さん、ケイト君を私に下さい!」
そしてエミリーはがつんと鈍い音をたてながら思いっきり頭を下げた、
「なるほど、エミリーちゃんちょっとこっちに来て手を見せてくれないかな?」
エミリーは言われた通り向かい側に座っている父さんの元まで行き手を見せた、
「なるほど、君は剣を使っているのか」
「わかるんですか?」
「ああ、そして君は実に真面目な娘だ、この年でここまでのマメが出来ていると言うことはかなり前から剣を毎日振っているね、頑固ともとれるが一度決めたことは曲げない、強い執着心を持っている、とても一途な性格だね」
すげぇ、手を見ただけでそこまでわかるとは…
「人間の体を観察することが好きでね、手を見れば性格がわかる、足を見れば生活がわかる、顔を見れば感情がわかるんだよ」
『神眼』を持つ俺でもできないなそんなこと、照魔鏡のごとくってやつかな、なんだか落第騎士みたいだ。
「それで、ケイト君は…」
「ん?ああ、ごめんごめん。12歳でここまでの手になるなんて珍しいからつい見入ってしまったよ、こんな綺麗な手僕は初めて見たよ」
うん、父さんは手フェチなのかな、息子の恋人の手をずっと握ってるしそうに違いない。
「かまわないよ、そもそも平民同士の結婚なんて自由だからねわざわざ親の許可なんて取りに来なくて良いんだよ」
「その、ケイト君は姓を持っていたのでてっきり貴族かと思ってました」
この世界において平民は名前のみで貴族は名前、姓の順番で名前がつく、ちなみに王族にはミドルネームがある。
うちは父さんの働きで王様から姓をもらったらしい。
「なるほど、それでメイドさんは?」
「私はケイト様が暴れ出したときに止めるために来ました」
「なんでケイトが暴れるんだ?」
まあ当たり前の疑問だな、五年ぶりに帰って来たのに暴れる訳がない。
「多くの者は奥様、エミリー様のことを忌み嫌ってしまうのです、そしてケイト様がその様を目の当たりにしたら暴れ出しかねないのでリンさんに付いて行くように頼まれたのです」
うーん、俺がそんな疑われるようなことはエルフの少女の時とミカサと会ったときしかしてないんだけどな。
「忌み嫌う?こんなかわいくて礼儀正しい娘をなんで」
「その、実は私『魔王』の称号を持っていてその効果で魔族以外の種族に嫌われてしまうんです」
「なるほど、そうだったのかつらい人生を歩んで来たんだね」
そう言いながら父さんはエミリーの手を優しく撫でる。
いい加減にしないとミヤビの心配とは違う意味で暴れだしそうだ。
「そう言えば父さんには『魔王』の効果が効かないってことは王級以上の称号を持っているんだよね、何を持ってるの?」
「知りたいか?」
もったいつける父さん、
「知りたい」
「よし!じゃあ外に出るぞ、お前がこの五年間でどれ程強くなったのか見てやる!」
◇◇◇
うちの庭は広い、だいたい学校のプールくらいの広さがある、
そこで10歳の箒を持った少年と剣を両手に持った子供がいるとは思えないほど若々しい男が向かい合っている。
「へぇー、父さんって二刀流だったんだ」
「珍しいだろ、僕も自分以外で剣を二本同時に使う人は見たことがないよ。と言うかお前、それで戦うのか?」
「失礼だな、これは芯に雷天龍の角が使われているんだよ」
「はぁ?どんだけ豪華な箒だよそれ」
俺は父さんと軽い(父さんは本気でやれっていうけど)模擬戦をすることになった。
「いやー、エミリーちゃんかわいいよな、僕が勝ったらエミリーちゃんの手をまた触らせてくれないか?」
「父さん、もしも腕が飛んでも大丈夫だよ、俺がすぐに治癒してあげるから。けど流石に首がないとダメだから気を付けてね」
前言撤回、死なさないように殺す。
「ルールは参ったと言った方の負けでいいよな?」
「うん、それでいいよ。始まりの合図はミヤビに頼むよ」
「承りました」
父さんは二本の剣を抜き集中力を高め始めた、俺ももう遅いがどう戦うかを考える。
「それでは、始め!」
ミヤビの掛け声と共に父さんは消えた。
ヤバイ!
俺はなりふり構わず後ろに飛んだ、俺の立っていた場所には父さんが剣を切り上げた姿勢でいた。
しゃべる余裕なんてない、俺は『テレポート』で父さんから少し離れたところに転移し、空間属性から時空属性に進化したことにより『グラプス』が強化された『グラプスⅡ」を発動してから100にもおよぶ『ホーミングバレット』を発射した。箒の力をフルで使えば倍はいけるがこれくらいが妥当だろう。
しかし、そのすべてが父さんに当たることなく両手の剣で弾かれた。だがそれはブラフ、本命は弾幕で見えなくなったミスリル製の『吸収バインド』。ミスリルで作ることによって本来1秒あたり魔力を1000吸収できるのを1秒あたり2000まで吸収できるようになる。オリハルコンやアダマンタイトに比べると柔らかいが魔法金属なだけあって普通の金属なんかとは比べ物にならないほど硬い。
100の弾丸を弾いたせいで体勢が少し崩れている、これで終わりだと思っていると、
「はぁあああ!」
父さんは崩れた体勢で地面を蹴りそして空中を壁キックの要領で蹴り鎖をよけた。『天走り』か。
そして空中を走って来る父さん、俺は真面目にやらなくてはたしかに勝てない気がしてきた。だがまだ本気は出さない。
「『スロー』『シリウス』、『クイック』『ケイト』」
父さんの行動にかかる時間を遅くした。
その上で俺はもう一度100発の『ホーミングバレット』を発射した。それと同時に『グラプスⅡ』によるミクロン単位で剣の動きを予測し、『神眼』ほ未来視でその予想を確実の物とし半分程度の弾丸をコントロールする。
もちろん100発の弾丸全てをコントロールできるがそこまでする意味がないのだ。
すべてとはいかなくとも多くの弾が当たると踏んでいた俺の予想がまたしても裏切られる。
俺が剣の動きを予測して弾の軌道を修正しても父さんはその修正した弾に対応するために剣を予測とは違う風に動かす。根本的な反射神経の差だ。
未来視で見えるのは俺が弾の軌道を修正する前の動き、修正した後の動きは見えない。だから修正することにより剣の動く未来が変わり、結局弾は弾かれる。
普通できることじゃない、俺の反射速度はだいたい1.5秒、それだけでも充分速いが、『グラプスⅡ』を使うことにより感覚神経や脊髄などを無視して直接脳に伝わり脳で命令を出すから0.03秒くらいのはず、それに『スロー』で遅くなっても対応できる父さんはもうファンタジー世界だからとしか表現することができない。
一旦時空属性の魔法を解き父さんに話しかけた。
「すごいね父さん、今のに反応できるなんて。どんな称号を持ってるの?」
「『剣帝』だよ、ケイトがリンさんのところに行ってからまた鍛え始めたんだ」
「そっか、けどもう終わりだな」
「なんだ、魔力がなくなったか?」
「いいや、もう俺の勝ちだよ。『クロック・ザ・ワールド』」
世界から音が無くなった。
今、世界中で動いているのは俺を含めた数少ない『時空魔術師』だけだ、だから当然父さんもエミリーもミヤビも止まっている。正確に言うと違うがまあ詳しく説明しなくていいだろう。今は説明する時間すらないのだから。
俺は父さんの前まで行き『スピア』の先を父さんの眉間に当てて時間を戻した。
「はいっ終わり」
「え?」
父さんは間抜けた顔になり、観客のほうからのひとつのため息が聞こえた。
「本当はこんな勝ち方はあんまりよくないけど、とりあえず俺の勝ちだよね」
「あ、ああ、いつの間に接近したんだ?」
「時間を止めたんだよ」
父さんは口をあんぐりと開けて何かをしゃべろうとすると、
「『氷華手裏剣』!」
何者かが魔法を発動した。
読んでいただきありがとうございました。
投稿が遅れてすいません。




