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第46話

 森の中で一人の少年が立っている。

 エトルリア島の森林、魔物のアベレージは65と普通の人なら5分ともたずに骨すら残らないだろう。

 その少年が目を閉じると虚空からミスリルでできた弾丸が10発現れた、そして少年は目を閉じ集中力を高め始めた。

 一見目を閉じていて無防備に見えるが、もしこの場で魔物が襲いかかったとしても魔物の攻撃は当たることなく寸分の狂いもなく眉間をミスリル弾で撃ち抜くだろう。


 暫しの静寂、そして集中力を高めた少年は手を前に突き出し、


「行け」


 少年の短い掛け声と共にミスリル弾は常識を逸脱した速度で発射された。前世の銃弾の速度は音速を越えていたがこの弾はそれすらを置き去りにするほどの速度だ。


 発射されたミスリル弾は進行方向にある木々を貫通するのではなく、それらを全て避けて進んだ。


 そしてそれらは少年から2km離れた所にある10枚の鉄板を貫いた。

 少年は目を閉じそれを確認すると、


「まだまだだな」


 10枚のうち9枚はちょうど真ん中を貫いていたが1枚だけ中心からほんの少しずれた所に穴が開いていた。


 少年はため息をつくと空を見上げ太陽の位置を確認する、


「そろそろ帰るか」


 そう呟くと少年はその場から突然消え去った。



 ◇◇◇



 俺たちが家に戻って来てからだいたい二年が経過した。

 この二年は強くなることではなく知識面の強化のためにお勉強に精を出していた、魔法学園の入学試験では筆記試験と実技試験があるからだ。まあ俺は『記憶操作』で暗記系の科目は一度見たら覚えられるから主にエミリーが頑張っていた。

 そしてついに来月に入学試験がある。


 最近趣味で始めた射的を終えて家に戻るとメイド服を着た俺の従魔が玄関で出迎えてくれた。


「お帰りなさいませ、ケイト様」


「ただいまミヤビ、今日の昼食はなに?」


 パンディットドラゴンのミヤビ、前の名前はレナドだったけど契約をする際に従魔に名前をつけなくてはならないから俺が一生懸命考えた名前だ。ちなみにポチはポチだ、え?ポンなんちゃら?なにその変な名前、考えたやつの顔を見てみたいよ。


「今日はケイト様の大好きなカルボナーラです」


「わかった、じゃあ手を洗って来るよ」


 手を洗ってリビングに行く必死に算数の問題を解いているエミリーがいた。


「えっと、145×18は、145×8=1160で145×10=1450になってこの二つを足して2610っと、次は…」


「エミリーただいま」


「あ、おかえりー。ねぇケイトここがわからないからおしえてくれる?」


「いいよ、どこがわからないの?」


 俺は定位置のエミリーの隣に座りエミリーわからないところを教えてあげた。

 しばらくすると料理を持ったおばあちゃんとミヤビがきた、


「ほらエミリー、もうご飯だから片付けるのじゃ」


 エミリーはりょーかいと言いながら俺たちの部屋に片付けに行った。



 エミリーが戻ってくると昼食を食べ始めた。

 うん、やっぱカルボナーラ最高。


「ねぇおばあちゃん」


「なんじゃ?」


「来月入学試験だよね」


「そうじゃな」


「父さんと母さんに魔法学園に行くって伝えに行きたいんだけどいい?」


「うむ、ケイトよお主自分の見た目をどう説明するのじゃ?」


 あ…そうだった、今の俺ヴァンパイアじゃん。

 やべぇどうしよう、5年ぶりに帰って来た息子が人間やめてたら両親はどう思うのだろうか、


「だ、大丈夫だよ、俺たちの家族愛は種族なんて壁簡単に越えられるから」


「そうだと良いんじゃがな」


「ケイトって両親がいたの?」


「たしかに初耳ですね」


 まずそっからですかお二人さん、


「そう言えば話してなかったの、こやつの父親はあのシリウス・パルティナじゃよ」


「そうだったのですか、パルティナと言う名からそうじゃないかとは思ってましたがまさか本当に『剣鬼』の子供だったとは」


「ねぇねぇケイト、『剣鬼』ってなんなの?」


「ごめん、俺もわからない」


「ケイト様は自分の父親のことも知らないんですか?」


 くっ、ミヤビのどや顔が物凄くうざい。


「まああやつの性格からして教えてなかったのじゃろうな」


「で、『剣鬼』ってなんなの?」


「あやつの二つ名じゃよ。お主が生まれる前にあった戦争で100人の兵と100万の兵とぶつかったことがあったんじゃ、どっちが勝ったと思う?」


「そりゃあ100万人の方でしょ」


「普通はな、たしかに100人の兵のうち99人は死んだじゃが結果勝ったのはその100人の兵の方じゃ、しかも相手の100万の兵を全滅させての」


 なんだよそれ、その残りの一人絶対人間じゃないだろ。


「で、それがシリウスじゃ」


「へー、ケイトのお父さんスゴく強いね」


「あれ?でも父さんのレベルって100くらいだったけど100万人も倒してたらもっと高くないとおかしくない?」


「同族は殺しても経験値にならんのじゃ」


 なるほどねぇ、


「『一人を殺せば悪党だが、百万人を殺せば英雄となる。数は殺人を正当化する』か、だから『英雄』の称号を持っていたのか」


「なんですかそれは?」


「前世の世界にある有名な名言だよ、同じことをしているのに数が違うだけで世間の対応は変わってくる、戦争に対する皮肉だね」


 たしかチャップリン以外にも似たようなことを言ってた人が何人かいたよな、全てを殺したら神になるとか、新世界の神になるとか。


「話が逸れたの、まあ良いんじゃないかの行っても、その結果勘当されたら正式にわしの養子にしてやるから」


「ねぇ、私も行ってもいい?」


 エミリーが控えめに尋ねてきた、


「ケイトの両親なら挨拶に行った方が良いと思う」


「いや、でも…」


 エミリーには『魔王』がある、俺やおばあちゃんみたいに王級以上の称号を持っている人やミヤビみたいに魔族かそれに近い人でなくてはエミリーのことを忌み嫌ってしまう。


「奥様が行くのでしたら私もついて行きます、もしもの時にケイト様を抑えるために」


「流石に自分の親には手をあげないよ」


「お主が行っても説得力がないのー」


「ねぇ、だめ?」


 ぐ、その上目遣いはずるいよ、


「わかった、ご飯を食べ終わったら行こう」


 もしもの時は『テレポート』で逃げれば良いしね。

読んでいただきありがとうございました。

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