第41話
「ふぅー」
耳に息が吹き掛けられた。突然のことでつい体をビクンとなってしまった。
「あ、起きた?」
エミリーの声だ、たしかレナドがおばあちゃんの家を知っているからそこに向かっている途中だったよな。
「やっと起きましたか、もうすぐ着きますよ。」
「誰のせいで堕ちたと思っているんだ。」
「堕ちたの使い方がおかしいでしょ、それに誰のせいかと聞かれたらケイト様のせいではないですか。」
それこそおかしいだろ、どう考えてもあんだけ激しくしたお前のせいだ。
「酔ってしまったのでしょう、つまり三半規管を鍛えなかったケイト様のせいです。」
「理不尽にも程がある理論だな、なんだお前はツンデレか?ドラゴンのツンデレなんかに俺は萌えないぞ。」
「ツンデレ?なんですかそれは!?異世界の言葉でしょうか、ぜひとも意味を教えてください!」
レナドが新しい知識を得たいのはわかるが空中ではしゃがないでくれ。
「もうすぐ着くんだろ?地面に降りたら教えるよ。」
「そうですか、ならさっきと同様に急ぎますね。」
残念だったなレナドよ、もうその理論は論破できている!
「『クイック』『レナド』『ケイト』『エミリー』『ポチ』」
俺が魔法を唱えるととたんにレナドの飛ぶ速度が速くなった。
「なるほど、『時空魔法』ですか。だいたい4倍くらいですかね。」
その通り、『クイック』は対象に関する時間を早くすることができる。
つまり100Mを14秒で走れる人に『クイック』をかけるとその人が100M走るのにかかる『時間』が早くなるので14秒以下の時間で走りきることができる。
「けど、魔力は大丈夫なのですか?時間を操る魔法は魔力の消費が激しいのですが。」
「大丈夫だ問題ない。お前から魔力を吸収してるからな。おっと拒否するなよ、この魔法をかけることでお前は疲れずに急ぐことができる、そして俺は意識を失わずにすむ、お互いにメリットがあるのだから問題ないよな?」
「く、生意気なガキが。」
はっはっはっ!気分最高、メリットがどうの言ってたやつが同じくメリットで言いくるめられてやがる笑笑。つーかこいつ今ガキって言ったな、未来のご主人様に。
「それよりまだ着かないの?」
後ろからつまんなそうな声が聞こえる、
「もう見えているのですぐですよ、ですのでこの魔法を解いてくださいケイト様。」
「はいはい」
魔法を解くとさっきまでの速さに戻りレナドの言った通り一年ほど見ていなかった家が見えた。
俺は『神眼』で『暗視』ができるがエミリーにはそれがないので見えないだろう。そして下が見える俺はある問題を見つけた。
「着地できるの?」
「無理です、いつもはここから『人化』して飛び降りるのですが…」
レナドとエミリーそして俺は問題ない、ただここには一匹か弱いワンちゃんがいる。
「クゥン」
さっきの猫なで声とは違い今度は申し訳なさそうなクゥンだ。
流石に3Mの巨体を担ぐことは力的には出来ても子供の体じゃあバランス的には難しいので、取り敢えずエミリーには先に降りてもらった。
「ケイト様も先に降りてください、私がどうにかしますので。」
「それには及ばないよレナド君。『パラシュート』」
無創魔法で創ったそれは原物を詳しく知らない俺が創ったのでもうすでに開いた形になっている。
それを俺が背負い『ロープ』を解いたポチの背中に乗った。
「あの、それは?」
「異世界の物だ、先に降りてるからな。ポチ行け。」
だがポチは全く降りようとしないので仕方なく風魔法で無理やり落としてやった。
「キャィィィィィイイインンン、グッ!」
飛び降りてもしっかり『パラシュート』が開かず少しの間自然落下したがそれも開くと落下するスピードが急激に落ちた。
あとは風魔法を器用に使って危なげなく地面に降りることができた。
「すごーい!なにそれ?」
ふふ、こういう風にキラキラとした目で見られるのも悪くないな、
「ケイトさまぁぁぁ!」
上空から超デカイ声がする、親方!空から女の子いや女性が!
取り敢えず降ってきた女性をお姫様抱っこで受け止めて上げた、多分こいつ衝撃を流そうとしてなかったからそうしなかったら地面にでっかいクレーターが出来てただろう。
腕の中の女性は緑色の長い髪をした切れ長の目で鼻はスッとしていて綺麗系の美女だ。
「今の布はなんですか?なんで落下速度が遅くなったのですか?なんでそのような名前をしているのですか!?」
WOWドン引きですよ、見た目クール系美女だから残念感半端ねぇよ。
「な、名前の由来までは知らないけどこれは、高いところから飛び降りても安全に着地するための物だよ。落下速度が遅くなったのは落下する時におこる風をここで受けるからだよ。」
「なるほど、向かい風を受けると速く走れないみたいなことですね。」
「そゆこと。」
詳しくは知らないが原理は難しくないので俺でも簡単な説明ならできる。
突然、今までに感じたことのないほどの強い精神的な圧力を感じた、『不動の精神』を持っているはずなのに喉はカラカラになり、体が微かに震えだし、背中には冷たい汗が流れ落ちる。腕の中のレナドの顔も蒼白く染まっている。
な、なんだこれは、レベル500を越えた俺や500近くのドラゴンであるレナドさえもをここまで恐怖させるような存在がいると言うのか。
俺は震える自分の体を叱咤し圧力の出所に目を向けると…、
「いつまで抱いてるの、浮気?」
顔は笑っているが目がまったく笑っていないエミリーが立っていた。
「す、すぐに下ろすよ。ほら早く下りろ。」
「は、はい。すいません、奥様のケイト様にご迷惑をかけてしまって。」
「エミリー、俺が浮気なんてするはずないだろ?そんな事ハロモンキーが俺に勝つくらいあり得ない。」
とんでもない圧力の中で俺とレナドは必死に言い訳をする。
「だよね!ケイトが私を裏切るはずないよね。ごめんなさい疑ったりして。でもケイトも悪いんだよ私以外の女をベタベタさわったりするから。」
ようやく圧力から解放されて体の震えも止まり、レナドの顔色もよくなっている。
多分20秒も経ってなかったと思うけどそれでもアウトですか、厳しいですねエミリーさん。
「騒がしいから来てみたらお主らじゃったか。」
声のした方を見ると、長い金髪に青い瞳をした慎ましい胸の初めて会ったときからまったく外見が変わらない幼女が立っていた。ただ違うとすればあのときは髪をポニーテールにしていたが今は下ろしている。
「「おばあちゃん!」」
俺とエミリーはおばあちゃんの元へ涙を浮かべながら走っていった。
「おかえりケイト、エミリー遅かったの。二人と言うことはまだヤってないみたいじゃな、まったくケイトはヘタレじゃの~。」
俺の渾身の右ストレートはおばあちゃんに簡単に受け止められ、俺たちの感動の再開は終了した。
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