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第39話

「それではさっそく契約を始めましょうか。」


 ズボンに付いた土を払いながら立ち上がるレナドは気さくな笑顔を浮かべながら言った。


「あれ?たしか契約には『コロネの羊皮紙』が必要じゃなかったっけ?」


「大丈夫です、我がダンジョンの宝のなかにあったはずですから。取りにいくのでついてきてください。」


 レナドはニコニコと軽い足取りで俺たちの入ってきた扉とは反対側にある扉に歩いていった。

 流石にエミリーを一人残して行くのもどうかと思い、エミリーのいる岩に向かった。


 気を失っているエミリーは、いつもと変わらないはずなのに、いつもと全く違うように見えた。

 その美しい長い黒髪も透き通るような白い肌も柔らかそうな桃色の唇も、いつもと変わらないはずなのにいつも以上に魅力的に見える。

 な、なんなんだこれは、エミリーがかわいいのは当たり前だ、しかし今のエミリーのかわいさは今までのかわいさをぶっちぎりで超越している。


 早足でエミリーに近づいた俺はエミリーをお姫様抱っこをした。ふわっと甘い香りがした、いつもなら落ち着くはずのその香り嗅いだ俺は心臓が飛び出そうなほどドキドキして鼻息が荒くなってしまう。


 ど、どうなっているんだ俺は!?何故ここまでドキドキしているんだ?命の危機を感じて種を残そうとしているのか?


 そして俺は無意識のうちにその場で腰を下ろしエミリーの胸に顔をうずめていた。


「スーハー、スーハー。」


「何してるんですか?」


 はっとしての後ろをみると羊皮紙を片手に持ったレナドが呆れた表情を浮かべていた。これが女の子だったら絶対零度の視線と罵倒を受けていただろう。


「い、異世界では大切な人の胸の匂いを嗅ぐ習慣があるのだよレナド君。」


 嘘ではないはずだ、大人な男女ならきっとそうしているはずだ。俺はしたことないけど。


「それはレディに対して時と場所を弁えずにすることなのですか?」


 く、なかなか鋭い質問だ、もう嘘をつきとおすことが難しいな。


「仕方がないだろう、衝動的にエミリーの体に顔をうずめたくなったのだから。」


「はー、開き直りましたね。まあそうなるのも仕方ないのですがね。」


 ん?どういうことだ?


「『魔王』はほとんど種族に忌み嫌われるいますが反対に魔族には好かれるんですよ。」


 魔族

 魔物の中でも文明を持つ者のことを指した総称で、吸血鬼やハイリッチーなどのこと、ただしドラゴンや精霊などは含まれる者と含まれない者がいるらしい。


「ふーん、ほとんどの種族ってそう言う意味だったんだ、てっきりごく稀に人族の中でも例外がいるって意味だと思ってた。」


「まあたしかに例外はいますがね。それより早く契約をしましょうよ。」


 そう言えば何でこいつこんなに契約を急かすんだ?


「なあ、その前に一つ質問してもいいか?」


「それは勿論なんでも聞いてください、こう見えても私一万年近く生きているのでそれなりには物知りですよ。」


「さっきリンさんがよくお茶を飲みに来るって言ってたよな、じゃあお前はリンさんの家を知ってるのか?」


「ええ、半年ほど前に暇なときに遊びに来いと言われて教えてもらいましたけど。」


「じゃあそこまで案内してくれ、実は俺たちリンさんの家族なんだけどとある事情で追い出されてな、家に帰りたいんだが家がどこだかわからずに一年間家に帰れてないんだ。」


 少々違うがまあいいだろう。

 俺の話を聞いたレナドは一瞬ギョっとした表情を浮かべたがすぐにもとに戻した。


「勿論構いませんがその前に契約を済ましてしまいましょうか。」


 今の反応といいこの発言といい絶対なんかあるだろ、


「なあレナド、契約はおばあちゃんのところでおばあちゃんに見られながらやろうか、勿論後ろめたいことがなければいいよな?」


 俺は出来る限り優しい笑顔を浮かべながら『覇王』の威圧を向けた、怖い笑顔の出来上がり♪


「はー、わかりましたよ。せっかくあなたのことを私の従魔にしようと思ったのに。」


 ん?今すごく物騒で不思議なことを言ったぞこいつ。


「俺って従魔になれるの?」


「当たり前でしょう、あなたはもう人間をやめて、どちらかと言うと魔物よりになっているのですからやろうと思えば従魔に出来るんですよ。」


 つまり俺ってエミリーに飼われちゃう可能性もあるってことか、なにペットな彼氏?

  あれ面白かったよなー、特にメイドちゃんが好きだったんだよ、あれって本当に作れるのかな?


「まあいいや、さっさと家に帰ってお前を従魔にするから連れて行ってくれ。」


「ダンジョンの財宝などは持ってかなくていいのですか?」


「それってダンジョンマスターを倒さなくても貰っていいの?」


「ダンジョンマスターを従魔にするのですから倒したことと一緒でしょう。」


 それもそうかと納得した俺はエミリーを抱きながらレナドと共に財宝のある場所へ向かった。



 レナドのいた部屋から出るとまた大きな扉があった。そこを開けると想像を絶する光景が広がっていた。

 高い天井に届くほどに積み重なった金色に輝くたくさんの硬貨、きらびやかな装飾が加えられ見るからに実戦向きではない剣、黄金でできた等身大の女神像、中で小さな炎が燃えているように仄かに光る水晶玉、さきに類人猿の頭蓋骨がついているワイド、無数の宝石をはめ込んだ王冠。

 無論、今見えている数多くの宝は全体のほんの一部で金色の山の向こうにはまだたくさんの宝があるのだろう。


「多すぎじゃね?」


「ええ、ダンジョンの宝は自然発生するので誰が盗っていってくれないと溜まってしまうんですよね。」


 本来ならダンジョンの宝を守る役目のやつが盗んでくれって言うのはどうなんだろうな。


 にしてもこれ全部か、『時空魔術師』のお陰で空間魔法『アイテムボックス』の容量も増えたと思うけど絶対こんなに入らないだろうな。


「あっ、そうだ!」


 俺はエミリーを背負う形に変え『アイテムボックス』の中からあるかばんを取り出した。


「『テレポート』」


 目の前にあったたくさんの金貨と宝が一瞬でなくなった。


「ほー、空間拡張をしたかばんですか、珍しい物を持ってますね。」


「おばあちゃんから貰ったんだよ、おばあちゃんってのはリンさんのことだからな。」


 正確には容量無限だけどね、まあその辺はどうでもいいけど。

 そして俺は目にとまる全ての宝をかばんの中に転移させた。

 流石に部屋の中にあった全ての宝を転移させたら人外の魔力を持つ俺でも残り魔力が5桁まで減ってしまった。


「ふわぁ」


 後ろから間抜けた柔らかい声と甘い吐息が耳にかかった。


「エミリー起きた?」


「うん、おはよーケイト。」


 そしていつもの寝起きと同じようにエミリーは体を俺に擦り付けてきた、しかし今の俺はいつもと同じじゃない。


「え、エミリーちょっとそれやめてくれないかはな?」


「うーん、なんでー?」


 何故かですって、それは今あなたが胸を私の背中に押し付けているからですよ、まだ下着というものをつけていないせいでその慎ましくも柔らかい胸の先端部分の感触が何となくわかってしまうからですよ!

 い、いかんまた鼻息が荒くなってきてしまった。


「早く家に帰りたいんじゃないんですか?」


 声のした方を見ると冷たい視線を送るレナドが立っていた。


「すいません」


 美少女がやるとゾクゾクするけど男がやるとただ罪悪感しか感じないな。

読んでいただきありがとうございました。

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