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第30話

 エテルリア島のある森の中、魔物のレベルのアベレージ65の高レベル冒険者でも生き残るのは難しい様なところに3人の子供たちがいる。

 一人の少年は眉間にシワを寄せ、また一人の少女は堂々とした態度で何かを宣言している。そして残りの少女はぎこちなく微笑んでいる。


「おい、これというのはお姉ちゃんのことを指して言っているのか? 」


「そうです、人族に対して頭を下げるなどエルフである私にできるわけがありません。」


 僕はキレそうになっていたがそういう種族的な理由でお姉ちゃんのことをこれ呼ばわりしたのならば幾分か我慢できる、


「そうか、ただ彼女は僕の恋人なんだ、だからこれ呼ばわりはやめて欲しい。」


 僕がそう言うとミクは目を零れんばかりばかりに開いていた。


「こんな醜い女の子と恋人同士なのですか?あの、もしよろしければ代わりに私が恋人になってあげましょうか?」


 だいたいこの耳の長い女がお姉ちゃんをこれと読んでから1分くらいたっただろうか。

 言わなくてもわかるだろうが僕はぶちギレた。

 空気が張り詰まり、周囲でバサバサと鳥たちがどこかへ飛んでいってしまった。そう言えばここまでの殺気を相手にぶつけたのは始めてだったな。


「っ!」


 耳の長い女が突然震えだした、さっきまでの威勢はどこへ行ったのか。


「撤回しろ。」


 殺意を孕んだ僕の言葉は自分でも驚くほど低い声だった。


「俺のエミリーを醜いと言ったことを撤回しろ!」


 だがいくら待っても答えが返ってこない。


「はっ、ろくに喋れない下等種が。意思疏通すらできない種族が人族を見下すとはな、笑えるよ。」


 少し煽ってみたが彼女は顔を青くして俯きガクガク震えているだけだ。


「だんまりか、それは僕の言ったことに対する拒否と受け取って良いな。」


 僕の殺気を孕んだ箒を彼女に向け全身火だるまにしようとした。ちなみに人間の死の中で最も残酷なのが焼死らしい。全身が焼けて激しい痛みに襲われ、死体は全身がただれて直視できないほど無惨なものらしい。


「死ね」


 子供同士の喧嘩でも、戦争でも使われるオーソドックスな罵倒をし箒から火でできたヘビを飛ばそうとすると、お姉ちゃんが今にも火を噴き出そうとする箒に手をあてて先を地面の方へ向けさせた。

 そしてお姉ちゃんは子供を落ち着かせるように僕を軽く抱き背中を優しくさすった。


「はは、何でそんなに怒ってるの。お姉ちゃんなら大丈夫だよ、こんなこと昔いくらでもあったからもう慣れちゃってるよ。」


 嘘だ、お姉ちゃんのさすっていない方の手が微かに震えている。


「それにそこの女の子をよく見てごらん。」


 僕がお姉ちゃんの肩越しにその少女を見ると白目を剥いて倒れていた、周囲からは微かにアンモニア臭が漂っている。


「お姉ちゃんのことを考えてくれるのは嬉しいけど、やりすぎはダメだよ。」


 確かに今回のはやりすぎかもしれない、けど


「大切な彼女を醜いなんて言われたらどんな彼氏でも怒るよ。」


 でもまあ、だからって殺そうとしたのはよくなかったな。

 僕が心の中で反省してるとお姉ちゃんは顔を真っ赤にして今度は強く抱き締めた。悲しいことに始めて会ってからだいたい3年がたっているのに未だに僕の方がお姉ちゃんより小さいため、お姉ちゃんの腕のなかにすっぽりと収まっている。そして以前に比べて大きくなってきた胸を頬で堪能する。


「かわいいな、ケイト君は!」


 お姉ちゃんは体をくねくねさせながら悶えている。

 うっ、頭だけ揺れているからだんだん気持ち悪くなってきた。


「お、お姉ちゃん、そろそろ…」


「あ、そうだケイト君、これからは私のことエミリーって呼んで。」


「え、なんで?」


「さっき『俺のエミリーを…』って言ってたでしょ、それでエミリーも良いかなって思ったの。それに自分のことを俺って言うのもかっこよかったよ。」


「わかった、これからは俺、エミリーって呼ぶよ。」


 さっきまでは不機嫌だったけどお姉ちゃん、じゃなくてエミリーにかっこいいって言われたら気分が良くなってきたぞ。


「あっそうだ、じゃあ俺のこともケイトって呼び捨てにしてよ。」


「うん、わかったよケイト」


 鼻先が当たるような至近距離でエミリーの笑顔を見てしまった。

 な、なんて可愛いんだ!もう今すぐにでもキスしたくなっちゃうよ。なんでこんな可愛いのに醜いなんて思うんだろ?


「それでそこの子はどうするの?」


 結構な間抱き合っていた俺たちはやっと少女の対処を考えることにした。


「放置でいいんじゃない。」


「それは可哀想だよ、お家に届けてあげよ。」


「エミリーがそう言うならそうしてあげるか。」


 俺は少女に近づき、少女のおでこに手をかざした。


「『記憶操作』『閲覧』」


 スキル『記憶操作』の力で相手の記憶を見ることができる。

 数分後やっと少女の住む村の場所がわかった。

 俺はポケットから笛を出しそれを強く吹いた。


 しばらくすると灰色の体毛を持った大きな狼がきた。


「ポチ、今から場所を教えるからそこまでこの少女を運んでくれ。」


「ウォン!」


 近づいてきたポチの頭に手をあてて、


「『記憶操作』『共有』」


 ポチは少女をくわえると教えた場所へ向かって走り出した。


「それじゃあ今日も張り切ってレベルをしよう!」


「待ってエミリー。」


「なに?」


「さっき記憶を覗いて面白そうなところがあったからそこへ行こうよ。」


「それってどこ?」


 あの少女にも感謝しないとな、こんな面白そうなところを教えてくれたのだから。


「ダンジョンだよ。それもとびっきり強いところ。」

読んでいただきありがとうございました。

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