第22話
これにはお姉ちゃんも驚き、僕はすかさず反論をした。
「おばあちゃん、僕とお姉ちゃんとじゃステータスが6倍くらいの差があるのだけど。」
「安心せぇ、勝てるとなんて思っとらんからの。」
あ?
「今回の訓練では、うまく行き過ぎるお主が調子に乗らないように上には上がいることを理解させるためとわしからの嫌がらせじゃ。」
ひどい理由だ、教え子を全く信じてない。それに後半の理由がメインなんじゃね。
「ただまあ、お主がもしも勝てたとしたらわしが全盛期に使っていた武器をやろう。」
その全盛期に使っていた武器も気になるがそれ以上に、
「ねぇおばあちゃん、万が一僕が負けたときは何があるの?」
僕が笑顔で聞いた。
「何じゃお主、エミリーに勝つつもりか?」
「もちろん、僕は初めて一緒に寝たときにお姉ちゃんのことを守るって約束したからね。お姉ちゃんより弱かったら話にならないよ。」
ふざけんなよこのロリババア、何が勝てるとなんて思っとらんだ、絶対勝つ。
おばあちゃんはそれを聞くと、ニヤニヤしながら、
「そうかそうか、そうじゃのう、じゃあもしお主が負けたら罰として一週間家出をするのじゃ。」
一週間の家出か、エテルリア島の魔物がどれくらい強いのかわからないし寝るときや食事が大変だな。けど
「わかったよおばあちゃん、それで僕が負けたときにはお姉ちゃんは何がもらえるの?」
恐らく、いや絶対に優しいお姉ちゃんならこんな条件の中でやったら手を抜きかねないからな。
「ふむそうじゃのう、エミリーちょっと耳を貸すのじゃ。」
おばあちゃんがお姉ちゃんの耳元で何かを囁くと、
「ホント!?」
お姉ちゃんは少し頬を赤くしながら言った。
「ホントじゃホント。必ずうまくいくぞ。」
するとお姉ちゃんは真面目な顔をして、
「本気でいくらね。」
WOA、魔王の本気とかマジで恐いYO。
「ちなみにルールは?」
「勝敗はわしが止めるまで、禁止事項は特になしじゃ。お主の今日の訓練は終わりでいいからの。」
僕は家に戻り明日勝つための策を練った。それに必要なことをして今日が終わった。
翌日、天候は曇りで庭には少し雨がちらついている。
庭にはもう僕とお姉ちゃんが向かい合った状態でいる。
「ケイトよ、勝つ準備はできておるか?」
おばあちゃんが皮肉っぽく言う、がそんなもの効かない。
「もちろん!もう勝つ未来しか見えないよ。」
「クックック、そいつは楽しみじゃのう、面白いものが見れそうじゃ。」
「ケイト君、負けても大丈夫だからね。」
木刀を手に持つお姉ちゃんはそう言うが一週間の家出が大丈夫には全く思えない。
「それじゃあぼちぼち始めるかの。」
そう言うとお姉ちゃんは木刀を構え、僕は最初に唱えるべき魔法を開始と同時に使えるように準備をした。
少しの沈黙ののちおばあちゃんが
「初め!」
「『ブースト』『追風』」
僕は始まってすぐにステータス上昇系の魔法を唱えた、
「纏え、邪悪なる力『黒装』」
そう唱えると、お姉ちゃんの体と武器に黒い靄がかかった。
あれは触れた相手をランダムで状態異常にする魔法だ。
「ふっ」
お姉ちゃんが僕の元に来る。が僕は全力で逃げる。
「うおおお!『追風』『追風』『追風』!」
僕は素早さの上昇する魔法を連続でかけた。
「火よ、飛べ『ファイヤーボール』」
お姉ちゃんは詠唱を短縮した『ファイヤーボール』を3つ飛ばしてきた。
「『ウォーターウォール』」
僕は水の壁を作り出し火の球を受け止めた。
そんなやりとりがしばらくの間続いたが、僕の『ブースト』と『追風』の効果が切れて状況は変わった。
動きの遅くなった僕の元にお姉ちゃんは来ようとするがそうはさせない、
「『マーシュ』『ドライ』」
お姉ちゃんが踏み込んだ足元に小さな泥沼を作り、足がはまるとすぐに水気を飛ばして乾燥させた。
「くっ、足が。」
恐らくお姉ちゃんならすぐに抜け出せるだろうが、一瞬でも動きを封じられれば十分だ。
「いくぞ!僕のオリジナル魔法『吸収バインド(仮)』!」
この魔法は相手の動きを封じ、封じた相手の魔力を吸収することができる魔法だ。
『魔法吸収』は直接触らなくても良いんじゃないかと思って試したら案外うまくいき作ることができた。いやーこの魔法には苦労をしたよ、『バインド』の魔法は無属性であるけどまだレベルが1だったからね、寝るとき以外は常に『ブースト』を使って、何とかレベルを3まで上がったから良かったけど、もしレベルが上がらなかったら別の策を練り直しになるからね。
「くっ、力が…」
クックックきたな。
昨日魔力を魔法石に流しているときに感じたが、魔力を放出し続けていると強くはないが脱力感を感じるのだ。普通のバインドならお姉ちゃんくらいの力があれば簡単に壊されるけどこれなら多少は持つ。
僕はお姉ちゃんに近づき少しにやついた顔でお姉ちゃんにだけ聞こえる声で、
「何で毎晩僕に『チャーム』をかけるの?」
ぶっちゃけ、かなりせこいことだ。
『吸収バインド』は繋がれている間、常に魔力を吸収する、だからお姉ちゃんが無視できない内容の話を持ちかけお姉ちゃんの膨大な魔力が尽きるのを待つのだ。ちなみに魔力が尽きると強い脱力感により気を失ってしまうらしい。
『吸収バインド』は1秒で150の魔力を吸収する、鑑定眼でお姉ちゃんの残りの魔力をみると残りは88000だった、だからだいたい10分くらいお話しをすればいい。
僕の問いかけにお姉ちゃんは顔を青くしている。
当たり前だ、家族になる、守ってあげると言った相手に自分の虜にする魔法をかけていたのだ普通なら嫌われてもおかしくない。
「ねぇお姉ちゃん、黙っててもわからないよ教えて?」
全くもってくそだ、理由はわかっている。恐らく怖いのだろう、家族を失うのが、捨てられるのが、だから捨てられないように、嫌われないようにするために『チャーム』を使った。
いくら勝負に勝つためとはいえこんなことをする自分に吐き気がする。
いつしかお姉ちゃんは地面に膝をついた、残りの魔力をみると1500しかなかった。あと10秒たてば僕の勝ちだ、だがそこで僕は吸収バインドを解いた。
そして僕も膝をつきお姉ちゃんと目線を合わした。お姉ちゃんの目からは光が失っていた。
「ごめんねお姉ちゃん、本当は何でそんなことをしたのかわかってるんだ。」
お姉ちゃんの目からは未だに光が戻らない、
「お姉ちゃんは恐いんだよね、新しくできた家族を失うのが。」
そして僕はお姉ちゃんの肩を抱いて、
「僕言ったよね守り続けるって、だから僕はお姉ちゃんから離れる気はないよ。」
「ほんと?」
「本当だよ、僕はお姉ちゃんから離れないし、嫌わない。」
「ケイト君に魔法をかけてたけど嫌いにならない?」
「ならないよ、これから気をつけてくれればね。」
「良かった。」
お姉ちゃんは心底安心した表情を見せた。
「それじゃあお姉ちゃん。」
僕はお姉ちゃんのおでこにデコピンをした
「いた!」
「この勝負、僕の勝ちだね。」
お姉ちゃんは一瞬ポカンとした顔をしてから
「うん!」
と笑顔で言った。
多分勝負のこと忘れてたな。
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