小説家になろう
「100年のこるものなんて
書けっこないよ」
「ぼくの書いてることなんて ぜえんぶ
だれかがもう とっくの昔に 書いてるんだ」
「ぼくの作品なんて
それらの単なる やきなおし」
それなのに ぼくらは今日も
指先軽やかにうごかして
キーボードの上に 種をまく
未来にむけて 種をまく
育つかもしれない
育たないかもしれない
だけど
ぼくらの凡才という名の才能は
次世代の才能に バトンを渡すのです
ぼくら自身が 天才でなくとも そんなこと ちっともかまわないのです
ぼくらはいつかの時代にほんものの 天才が現れることを信じて
次から次へと 渡しつづけてきたのです
各々の書いたものは残らなくとも 書くことを 残してきたのです
はるかむかし 紀元前
ぼくたちの遠い祖先が はじめて「物語」をつくったときから
何千 何万 何億の
名も無き「小説家になろう」さんたちが
そうしてきたのです
ぼくらにバトンを
渡してくれたのです
ぼくの上には
スポットライト
当たらないかもしれません
だけど
それがなんだと いうのですか
あまたの物書き達の記念碑に
ぼくも 名を連ねましょう
いやもちろん 運良くスポットライトが当たれば
それはそれで たいへんすばらしいですけれど
そして いま
この瞬間にも
腕組みして プロットを立てている あなた
すごい設定が閃いちゃって 有頂天の あなた
面白い文を考えついて ひとりでニヤニヤしてる あなた
日がな一日 殺人事件のことばかり考えてる ミステリ作家志望の あなた
通勤通学電車の中で ぽちぽちと スマホで執筆中の あなた
そしてもちろん 読んでくれる 読み専のあなたも
インターネットのむこう側 あなたのお顔は存じませんが
ぼくは あなたを 見知らぬぼくのともだちと 思ってもよいでしょうか
遠い時代の 遠い国に生きていた あのひとや このひとと 同じように
ものがたりの向こう側に 言葉の世界の向こう側にいる
ぼくの ともだち
ああ ありがとう ありがとう
たくさんの 名も知らぬ 「小説家になろう」さんたち
ぼくを 育ててくれて ありがとう