第二話「下山方法」
未熟すぎる探偵の体験談。
翌日、2月6日、僕は雪山に連れていかれた。
「なんでだよ!」
僕は思わず叫んでしまった。
というかツッコみである。
ここまでの経緯を説明すると、「ねぇねぇ、雪山登ろうぜ!」と日傘が言ってきたので、当然僕はお断りしたら、気が付いたらここにいた。
否、無理やり連れてこられた。
嘘だろ。
こんな運命嫌だ…
と、思ったものの、今回はうまくやっていけばいいことなので、軽い気持ちでいた。
「ゆっきやま♪ゆっきやま♪」
すごく楽しそう。
あーあー、これ嫌な予感しかしないぞ。
大丈夫なのか…
「登ろう!一刻も早く登ろう!さっさと登ろう!疾く疾く登ろう!」
「うええ?ちょっと!」
僕は日傘探偵に手を取られるままに雪山へと赴いた。
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迷いました。
早すぎだろ。
というか天候が悪くなっていっています。
状況は悪くなる一方です。
スゴクシンパイデス。
はぁ…どうしろっちゅーねん。
日傘ともはぐれちゃっていないし。
今頃雪山下ってそう。
雪崩に乗りながら下ってそう。
そのまま下山して漫画みたいになってそう。
ありえんな。
というわけで僕は頑張ることにしたけれど、蠍の時計は極力使わないことにした。
だって得体が知れないんだもん。
頑張って下山します。
かなり大変なことになりそうなのはわかっているんだけどねぇ……
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とりあえず寒い。
そんなわけで、一刻も早く降りよう。
と、決心した僕だったが、そう簡単に吹雪の吹き荒れる雪山を降りられるはずもなく、こうして益体もないことをつらつら述べていたのである。
このままでは体がもたないと、僕は歩くペースを上げた。
…………
…………
……終わりが見えない。
どちらかというと僕の終わりが見えている。
ふもとが見えてほしい。
いったいどうすればいいんだ…
二時間経過
案の定、僕は死にかけているわけだが、さて、いったいどうしたものか・・・
何かいい方法はないかと、考える。
考える。
考える僕。
僕考える。
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下山するにしたってもっとスタイリッシュな下山をしたかったものだが、そもそも山で凍えてる時点で、かっこよさなんて全く望むべくもないのだが・・・
思いついた。
下山する方法を。
ここで、佐野隆二君の下山コーナー!!(ぱちぱち)
下山方法はいたって簡単!
まず雪玉を作りましょう。
そうですね、かなり大きいのを。
次は自分の体に雪を塗りたくりましょう。
これで滑りがよくなるはずです。
え?滑りがよくなる?ははっ、まぁそうゆうことですよ。
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「うおおおおおおおおおおお」
人工雪ダルマの力見せたるわあああ!!!
ゴロゴロゴロゴロ……
激しく転がる僕は、目が回っているせいで平衡感覚がつかめない。
もっとも、横向きに転がったり、頭を雪に突き刺しては抜いて転がっての繰り返しなのだから、並行も何も、ないのだが…
「おぼばばおぼばばおあばばば」
口の中に雪が入る入る。
口腔内までもが冷たい。
まるで雪だるまになった気分だ。
違った。
なってた。
「おぼかふぇいいぎだじゃいがふぃか!(やっとふもとが見えてきたか!)」
ゴールイン!我ながら華麗なるゴールインだったが、しかし、ここで想定外の事態。
車に轢かれました。
降りると同時に颯爽と走ってきた車に引き殺されました。
いや、死んでない。
ま、そのまま転がりながら車道に出たら、当然轢かれます。
体についていた雪が一気にどさっと落ちる。
さながら雪崩のように。
「え?!ええ?だ、大丈夫ですかぁ!」
運転手さんが車を降りて駆け寄ってくる。
「う…ううっ…」
「さ、佐野君!?」
「…っ!」
僕の知り合いでした。
そして僕は行きで使った車にひかれたのでした。
つまり、日傘でした。
まだ体は痛むけど、命は落とさずに、下山した。
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「……口の中が雪と血の味がする」
「口腔内レポートしなくてよろしい」
言うまでもないが、僕は車に轢かれて、数メートル吹っ飛んで、雪に頭から突っ込むことになった。
でも意外と生きているところがタフな僕である。
そして、気になることに、師匠的な存在の人(他人行儀)はどうやって下山したのかというと、山の頂上について大喜びでジャンプしていたら、振動で雪崩が起きたでやんす、ということらしい。
そしてそのまま下山、一人で帰ろうとした。
予想が的中してしまった。
まぁ、そんなわけで、車の中。
「いったい、どうゆうことなんですか!」
「へ?何が?」
すっごい寝ぼけた顔で訊いてくる。
「何が、じゃないですよ!僕を置いて先に帰ろうだなんて、ひどすぎますよ!」
「いやー、君が雪だるまみたいに落ちてきたときはびっくりしたよ~」
「話を聞けぇぇぇ!!!」
だめだ。全然話がかみ合わない
「あははは、元気いいなぁ」
「暢気すぎる!」
「ところでさっき缶コーヒー買ったんだけど、飲む?」
「飲み」
「あげない」
えええええええーーーーーーっ!!!!
僕が言い切る前に拒否した。拒否で遮った。
「じゃあなんで言ったんですか!?」
「だって一本しか買ってないもん」
「そんな殺生な・・・・」
「このコーヒーにがーい~」
「ぬわーーーーー!!」
確信犯である。飲ミヤガッタ。
しかもぶりっこぽく、身体をくねくねよじりながら、ひょっとこみたいな顔で言ってくることに腹が立つ。
「ぐ・・・・・、百歩譲って、いいですよ、缶コーヒーは。でも、勝手に帰ったことはちゃんと謝ってくださいよぉ!」
と、僕は言うが、返事は帰ってこなかった。
そりゃ、返ってこない。
対向車線から車がスリップして、こちらに突っ込んできたのだから――。
やっとこさっと第二話です。
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