人喰い
俺の腕を喰われた瞬間、灼熱が腕に進入してきたかのような痛みが走った。
生きたまま喰われるへの恐怖心は、麻痺したのか全く感じられなかった。
だが、激痛。腕につくべとべとの涎や、生温かい口内への不快感。そして自分の身体から大事なものが流れていく感覚が襲ってくる。
死へと近づいているのが、よく感じられた。
まるで当たり前のように、死を受け入れている自分。
ココで死ねば、楽になれると耳元で囁かれた気がした。
………そうか、楽になれるのか。
………………………………………………………………………………………………………………………………………………誰だお前?
楽になれる? 俺がそんな勘違い起こすかよ、カスが。
お前は誰だ? そんな囁きをするのは誰だ?
………嗚呼、俺か。 俺の本能か。
目の前の怪物への恐怖が、俺の本能を侵したのか。死ねば楽になれると、死んだ方がマシだと、恐怖から逃げたいと。
バカにするなよ、もっと死にたいと思った事があるのに、こんな恐怖。
いや、見た目だけでこんな恐怖を起こせる訳がない。コレは、自身への恐怖を増幅させる効果があるようだな。
なかなかの《魔術》だな。自身の怪物化、恐怖の増幅、超再生。対人戦なら必ず勝てるだろう。俺を止めれると言ったのも、《魔術》への絶対の自信がなせるものか。
だがなぁ、俺の方が何倍も強いようだぜ?
ゲパードはまだ俺の手の中にある。構えることが出来ないが、振り回すことくらいは出来る。
残った力を振り絞り、銃口を持ち上げ。唯一点、仮面でも必ず空いてる目の部分を狙って、突き刺す!
ガッ! ギギィ……。
よし、どうにか挟まった。 後は撃つだけ。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーー‼︎‼︎」
仮面に刺さったゲパードを外そうと、顔を振り回す。
痛ててっ、牙刺さってんのに動かすなよ!
痛みで気が飛びそうになるのを、なんとか保ち、引き金を無理矢理引いた。
先程脇腹を削った事への警戒心で、撃つより早く腕を放して逃げ出した。
結果。銃口が抜けたことで、手元が狂い弾はあらぬ方向へとんでった。
撃った反動がデカすぎて、腕の骨にヒビが入り、ゲパードがどっか飛んでった。
右腕は血だらけのボロボロ、左腕はヒビが入ってる。
オイオイ、敵は無傷でコッチは重症。勝てる訳ねぇだろ。
そのことを知ってか知らずか、アステリウスは突進の姿勢をとる。当たれば死ぬ、当たらなくてもこのままじゃジリ貧で、最終的に死ぬ。
『世界で一番愚かな罪人』(カイン)の対象にアイツが選べないから、俺はアイツを瞬殺出来ない。
どんなに強い力も、万全に使えないとこうもやりにくいからな。勝てるものも勝てない。
アイツを止めれれば俺の勝ちだが。機関銃で撃ち続ければと思ったが、両手が終わってる。爆弾を使えばと考えたが、アイツの回復力だ。片脚なら数分で治せるだろうな。
つまり、半分くらい殺さないとダメだとゆーことだろう。
鉄球をぶつけろってのか?ハハッ、冗談抜かせ………。
……………そうか、それだ。
すぐさま俺は部屋の大きさを目算する。入った時から思ってたが、かなり広い。スポーツセンターとかにあるプールよりも広い。
こんだけ広いなら、あり得るかもしれない。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーー‼︎‼︎」
考えに耽ってるとこに突進するやつがあるか。ギリギリのところを転んで避ける。腕が悲鳴をあげるが、知ったことじゃない。今は其れより大事な事があるんだ。
どうにかあの位置まで行けたら!
アステリウスは突進で壁に突き刺さってる。今のうちに……。
刹那、悪寒がした。俺はなりふり構わず転んで逃げる。
空気を割いた音、そして破砕音。
今さっき俺がいたところに、音速並みの速度でアステリウスが突進していった。
速過ぎんだろ⁉︎ クソぉ!
何とか立ち上がり、走り出す。あの場で蹲ってるよりマシだと判断したからだ。あのまま居たなら、容赦なく潰されていただろう。
何とか、何とかして動きを封じないとッ。
アイツが動きを止める方法は……サッパリだ!
また突進が来ると感じ、転がって避ける。
身体中が痛い。このまま続けるわけにもいかず、『世界で一番愚かな罪人』でトラバサミを至るとこに設置した。
引っ掛かれば無事ては済まないはず……。
ゴッ!と音が鳴り響く。どうやらアステリウスが通過したようだ。
さてさて、効果は……………なし。
あの野郎、トラバサミに噛まれたまま普通に動いてやがる。せめて痛がれよ!
何か方法ねぇのか、動けなくする方法は。
………そういや、いいのがあるな。戦争でも使った方法だ。
対軍戦において、これ程役に立つことはない。
「『世界で一番愚かな罪人』ッ!」
奴の突進よりも早く、俺の罠は完了した。
さぁ、突っ込んでこいよ。
もう何度目かになる突進。しかし、奴の狙いは逸れ、壁に思いっきり激突した。其れはまるで、滑ってしまったかのようだった。
「どうだ?んな高速で突っ込んだ、ガソリンの池の気分は?」
俺がはった罠は、ガソリンをブチまけるだけの簡単な罠。
だが、速度がある物体が突っ込めば、摩擦が消えて思い通りに走れなくなるものだ。
そして本番はここからだ。
俺の手にはライターが一つ。さて、コレをどーするでしょう☆
正解はーーー引火させる♪
ライターを手から滑り落とすと、一瞬で世界が真っ赤に染まった。