『牛頭の魔王』(ミノタウロス)
短く刈り上げられた白髪、服の上からでもわかる筋肉。自信たっぷりの笑みを浮かばせ、 身体から発せられる威圧とカリスマ性で新人がビビっている。
アステリウスーーー【ギルド】《罪禍の涙》のギルドボスだ。
「俺に足を運ばせたんだ。 しょうも無い事だったら、ズタボロにするぞコラ」
「ギャグに聞こえねぇなぁ、てめぇはもう少し他人に興味を持てよ。カイン」
アステリウスは余裕かまして言いやがる。 相変わらず、自分の〈魔術〉に絶対の自信があるようだ。
酷くウザいが、何か言っても無駄だろう。 仕方なく奴の話しを聞く。
「てめぇんとこがブッ飛ばしたあの………えー、何だっけ? 」
「ボマーか?」
「そうそいつだ!」
アステリウスは忘れた事を何とも思ってないかのように、豪快に笑った。
……………うるせー。
「あの男はどうやら誰かに雇われたようでな、〈術師〉でも何の理由もなく人を傷つけようなんてしないだろ? 俺たちだって馬鹿じゃない。やったらやられることくらい知ってる」
「なのに攻撃した?」
「そうなんだよ。 俺はどうもそこが引っかかってな、調べてみたんだ」
そう言いながら、幾つかの書類を投げてくる。 其れを掴んで読んでみる。
「………ふん、どーやらコレに類似した事件が世界中で起きてる。って事か」
「そうなんだよ。 同時多発テロみたいで気味が悪い。 何かあるって考えれるだろ?」
「他にも根拠があんだろ?」
アステリウスはニカッと笑った。
「実はな、『偽典』の生き残りが行方不明なんだよ」
「ッ‼︎」
オイオイ、どんだけデカい事件に繋がってんだよ⁉︎ 冷や汗がとまんねぇよ。
書類を新人に渡し、アステリウスを睨む。
「どーせ犯人は分かってんだろ? 教えろ」
「それは無理だ」
「…………あ?」
ぶっ殺すぞ、お前?
「今回、人類側が黙ってて欲しいと、たんまり頂いちまったからなぁ。 流石に『誰が』、『如何して』、『如何やって』かは言えないんだ」
クソがッ。世界が滅ぶかもしれないのに、どーしてそんなつまらんプライドを張るかな、人間は!
其処まで(人類は未だ〈術師〉を敵視しているのに、金を貢ぐのはさぞ不快だっただろう)して隠したい。 つまり人類側の誰かがやったってことなんだろーが、俺が知ったことじゃねぇんだよ。
「じゃあ、『何で』かは?」
「そこに気付くとはお目が高い」
アステリウスの側にあった、もう一つの書類が投げられる。
其処には、一人の男のプロフィールが載っていた。
「そいつが今回の犯人様だよ」
………コイツ、思いっきり『誰』か言ってるじゃねぇか。
「あ? 可笑しいか? ま、人類のお偉い様には貸しがあるからな。 それを返すためだよ」
なるほど、『六・六事件』をまだ恨んでるってことか。
アステリウスは煙草を咥え、一服する。
「オレ達【ギルド】連盟は傍観しか出来ない。 人類側は必死で隠そうとしてるが、かなりの数の事件が起きてる。もうそろそろ、始まるだろうな」
「《天地創造》………か」
オレの《魔術》に近い《魔術》だが、その影響が違う。
さっさと封じないとな。
「………暁信代。 元人類軍将軍か……」
主犯の男の名を呟きながら、其の男の過去に目を向ける。
「っておい、カイン。何で女がこんなところにいるんだ?」
読んでる途中なんだが、てか今更気付いたのか。
「何か問題あるのか?」
「問題以外ねぇよ。さっきの会話、どー考えても聞いちゃいけない内容だろ」
「大丈夫だ。新人は口が堅い」
「そういう問題じゃねぇだろ!」
うるせーなぁ。 別にいいだろ、減るもんじゃない。
「あ、あのぅ……」
怯えながら新人が口を開いた。
「何ですか? 《天地創造》って? とゆーか一体何が起きてるんですか?」
アステリウスは苦い顔をして、片手で顔を覆う。
「………教えてやるか?」
「いや、いらん」
俺はすぐさま新人の手を引いて、ココから出ようとする。
「ちょ、おいカイン⁉︎」
「後は俺がやる。 どーせ動けないんだ、任せるしかないだろ?」
「………ああ、そうだな」
アステリウスは苦笑いを浮かべながら、座り直した。
そうそう、其処で大人しくしとけばいいんだよ。
「なら、足止めしますか」
はっ? コイツ何言ってんの?
反応が遅れながらも、アステリウスを見る。 すると懐から鉄の仮面を取り出していた。
角のような部分が捻じ曲がっていて、牛を模したような形をしていたが、人にも見えるせいでより醜悪に見える。
一目で分かる。 アレは《魔具》だ。
「カイン、やっぱりオレがお前を止めないといけないようだな」
バカ言うなよ、てめぇが呼んだんだろぉが、カス。
「食い散らかせ、『牛頭の魔王』(ミノタウロス)」
仮面を被った瞬間に、奴から発せられるオーラが変わった。
例えるならそう、血に飢えた獣のようだ。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーー‼︎‼︎」
咆哮が響き、危険だと本能が叫ぶ。
「逃げろ、新人!」
背後に隠れる新人にそう叫ぶと同時に、アステリウスが目の前に移動していた。