ギルド
「あいつ、俺に命令出来る立場かよ。 ホント傲慢でウゼェ………」
そんな悪態をつきながら、仕方なく新人を助け起こしながらシバザクラを睨む。
よくよく見るとシバザクラとカンザクラには違いがある。 カンザクラは眼鏡をかけてるが、シバザクラはかけてない。 服装もシバザクラはワイルドな感じだが、カンザクラはお堅いスーツだ。髪型も少し違いがある。 どちらもイメチェンしたシバザクラ、カンザクラにしか見えん。
「ボス曰く、『てめぇんとこがぶちのめした男はタダの雑魚。 本当の敵を確認させてやる』と言っていました」
情報早えぇ。流石は大手の【ギルド】だ。
「で、あの生坊主のとこまで行けばいいのか?」
自分んとこのボスを貶されたのに、シバザクラは眉ひとつ動かさず首肯した。
「………はぁ、『世界で一番愚かな罪人』(カイン)は使いたくねぇんだが?」
「車がそこに止めてあるので、着いてきてください」
………準備がいいことで。其処までされると帰れなくなるだろ。しゃーねーなぁ。
「………え?……」
新人の手を取り、注意しておく。
「お前絶対に俺の近くから離れるなよ」
「………は、はひぃ……」
新人は顔を下に向けながら言う。 ま、こいつら顔スゲー恐ぇからな。 怯えるのも仕方ない。
新人を引っ張りながら、俺はシバザクラの後を着いて行った。 数分もせず車に着き、乗ってやった。
新人は俺の隣りで縮こまったままだ。
「おい、もうちょっと堂々としろよ」
「………………て、手を」
「んあ? ああ、握ったままだったな、すぐ放すよ」
「い、いえ。 そのままで、か 、構いませので……」
「そうか?」
釈然としないが、こいつがいいって言ってるんだから、そのままにしとくか。
………にしてもコイツの手、あったけぇな。
何分か揺られてると、スラム街と普通の人達の居住区のちょうど間くらいに、ヤクザの家みたいなトコについた。
「…………………!!」
新人が涙目でよりいっそう俺にくっついた。
あー、コイツ【ギルド】がどーゆうとこか知らないのか?
教えとくか。
「新人、お前は気付かないか? 〈術師〉に対して魔術士が少な過ぎることに」
「え?………あ、そういえばそうですね 」
「大抵の〈術師〉は、〈術師〉のみで構成されたこの【ギルド】に所属するんだ。 お前はスラム出身じゃないから知らないだろうがな。
スラム出身は結局魔術士にしてもらえない奴が多いからな、ココで生きるための金を手に入れるんだよ」
家の中に入り、靴を脱いだら勝手にしまってくれた。 コイツら気がきくなぁ。 ウチのアホ共と交換できんかな?
「【ギルド】なんて呼ばれてるが、実際はヤクザとさして変わらない。 汚い事もするし、仁義に生きる奴が多い。拾われる奴が多いからな。 けどコイツらの主な仕事は地域の雑用、スラムの子どもに飯を食わせる事なんだよ」
「………あの、地域の雑用というのはやめてほしいのですが」
シバザクラが何か要求してきた。
「依頼のほとんどがゴミ掃除とか、小さい子を預かるとか、重たい荷物を運ぶとか、ストーカーの炙り出しとかだろーが。 どー考えたってタダの便利屋だろ?」
「あ、だからさっき町の人たちが〈魔術〉見ても怖がらなかったし、近所の人みたいな態度で接してきたんですね」
いいとこに気付いたな。 そうなんだよ、コイツら何だかんだで人類との壁がないし、しっかり働くからなぁ。
警察とは大違いだ。
「なら、何でいいことしてるのに、注目されないんですか? どう考えたって社会に奉仕してますから、〈術師〉の認識が変わってもおかしくないはず」
「それは無理でしょうね」
シバザクラが断言した。
「な、何でですか?」
新人は狼狽えながらも質問をする。 譲れなかったんだろう。 でもな、この世界も腐ってるんだよ。
「警察が我々を反社会組織に認定してますし、両者が顔を合わせれば戦闘が始まりますから。 その責任は全て我々に課せられます」
「け、警察はそこまで酷かったんですか⁉︎」
新人が俺に聞いてくる。………あまり答えたくないが。
「奴らは国の威信がかかっている。 だからどんなゲスい真似しようと、国は知らんぷり。 【ギルド】は腫れ物扱いさ」
「………………っ‼︎」
新人は悔しそうな顔をする。 そりゃそうだ。〈術師〉の認識が良くなってもおかしくないのに、国なんかの所為で逆に落とされてるんだ。
だけど其れに全力で反発は出来ない。 したらーーー
ーーー2度目の【人魔戦争】が起こる。
そんな事、誰も望んでなんかない。
【ギルド】の連中はスラムの子ども達を死なせる訳にいかず、反発は微々たるものだ。
俺が全力を尽くせば楽勝だが、代償に世界が滅ぶからな。
誰も彼も、そんなこと望んじゃいねぇ。
「けれど何時か………。 誰もが認め合えるそんな世界になったら………」
シバザクラが呟くように言う。
「そんな世界ならきっと、お互いに分かり合えると思うんです」
…………意外だ。 コイツがそんな事言うなんて。
おっと、そんな事話してるととある部屋についた。
「では、我々はココで」
シバザクラ達【ギルド】のメンバーは、下がっていく。
どーやら俺だけに聞いてほしいようだ。 けれど俺は新人を連れてく。 なんでかって? 俺からの愛(嫌がらせ)だよ!
「シバザクラさん!」
新人がシバザクラを呼び止める。
「私も、いつかそんな世界になるといいなって思ってます‼︎」
シバザクラは振り返らなかったが、雰囲気が少し柔らかくなっていた。嬉しいならそう言えよ。
「さて新人、ここの中にはこの【ギルド】ーーー《罪禍の涙》のボスがいる。 決してあいつの目を見るな」
「え? は、はい」
デジャブがしそうな返答だなぁ。ホントに大丈夫か?
まぁ、いいか。
俺は扉に手をかけ、開く。
すると、中から凄い威圧がとんでくる。
「よお、カイン。 久しいな」
無骨な声で、無骨な顔の、この俺を呼んだ屑野郎。 アステリウスが居た。