警察
俺は最寄りの警察署までペイント男を担いで行った。なのだが、何故か新人まで一緒に来やがった。
「………お前まで来る必要ないんだぞ?」
「いえ、所長だけだと絶対警察と揉めますので。 気をつけてくださいよ」
ジーっと信用してない目で睨んでくる。
俺が揉めるんじゃねぇ。あいつらがメンドいんだよ!
「あ、着きましたよ所長」
どうやら着いたようだな。 警察署に。
毎度思うが、ココ本当に警察署か? 砦の間違いだろ。
鋼鉄の壁。 巨大と呼ぶに相応しい広大な面積。 常備居続ける警察官(どー見たって兵隊だろ)。武器がそこかしこにありやがる。 あーー、メンドいなぁ。
「〈魔術士〉だ、捕らえた〈はぐれ魔者〉を提出しに来た」
そう言いながらカードを見せる。 一瞥した門へ………警察官が舌打ちまじりに扉を開けた。 俺達はその中に入って行った。
「………ホント、態度悪いですね。 警察は」
「仕方ないだろ、まだ〈術師〉と人類の隔てりは残っているんだからな」
警察は、その殆どが人類で構成されており、〈術師〉はほんの一握りしか所属していない。
だから、今から会いに行くのは〈術師〉だ。 人類だと取り合ってもらえない事が殆どだからな。
しばらく歩いて、執行課と書かれている部屋をどうにか見つけた。
「あったあった。 おい新人、オレの後ろにいろよ」
「え? あ、はい」
新人は訳ワカメみたいな顔しながらオレの後ろに立った。
其れを確認し、オレは扉を開けた。
刹那、放たれる銃弾。 破裂音。 壁の一部が吹き飛んだ音。
「………………っ⁉︎ きゃっ………っ⁉︎」
新人は声も出せず、ただただビビる。 よっぽど驚いたのか、かなり遅れた反応だった。
「チッ、生きてたんですか。最高裁判官殿」
スーツに身を包み、堅物を表すような眼鏡をかけた警察官( この場合、執行警察官か? )。 カンザクラがいた。
「舌打ちご苦労。 でカンザクラ君? オレに当たってたらどーしてたんだ?」
「どうせ当たらないでしょう。 貴方はそういう人です」
「まぁな、褒めても何もでないぞ」
「皮肉です」
ホント可愛げないなー、コイツ。 小さい時はもっとショタってたんだが。
「〈はぐれ魔者〉の搬送、ありがとうございます。 ……全く、〈はぐれ魔者〉などと呼ばれるまで落ちぶれるなんて。 この方は〈魔術士〉になればいいものを」
カンザクラがそんな事を言い始めた。〈はぐれ魔者〉とは、〈術師〉が犯罪者になった時の別称。 蔑みと憎しみが混じった名で呼ばれる。にしてもコイツどーした? 頭打った? ニートに働けって言ってるようなものだぞオイ。
「〈魔術士〉は人類に絶対服従するやつ、平気で〈術師〉を殺すやつ、スペックが高いやつじゃないとなれない。 コイツには自分が〈術師〉ってプライドがあったんだ。 無理に決まってる」
「プライド? はっ! こんなの、只の我が儘でしょう! 身勝手に振る舞って、そのせいで他の〈術師〉が悪者扱い。このような方が世にいて当然と認めるわけないでしょう‼︎
〈術師〉が犯罪を犯せば〈はぐれ魔者〉になってしまう。 そのせいで〈魔術士〉に受からない〈術師〉が多くいる。 〈魔術士〉になれば、やっと人間扱いしてもらえるんですよ‼︎」
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カンザクラの台詞にオレの思考は停止し、少しばかし殺意が湧いた。
「……何なんですか貴方は?」
新人は怒りを押し殺した声でそう呟いた。
そうだよな、ホントその通りだ。
「何なんですか、とは?」
「その通りの意味です。 皆ちゃんと、人間として! 〈術師〉として! 1人の女の子として生きてるんですよ! だというのに、貴方はそれを否定した! 〈魔術士〉でないと人間じゃないなんて、スラム街の子たちは人ではないと? そんな訳がないでしょう! 自分が人間だと思えば人間でしょうが‼︎」
新人は思いっきり言った。 コイツの言う通り、人間を人間と認めるには、自分自身が認めなければ人間ではない。自分を作るのは結局自分だ。 周りだけじゃない。人間とは、他人が全てじゃないはずだ。
「貴方こそ何を言ってるんですか」
カンザクラは溜め息混じりに言った。
「犯罪者に落ちた方、その子孫に人権などあるわけないでしょう」
……か、「カンザクラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼︎‼︎」
コイツは、コイツは彼奴の教え子のくせに! そんな倫理を持ってんじゃねぇ! 犯罪者は裁かれるべき奴らだが、其れは人間だからだ。 人間だからやり直させてくれるんだ‼︎
だっていうのに、お前が言う倫理だと犯罪者は家畜以下って事になるだろぉが‼︎ 子孫が何をした⁉︎ 何もしてないのにそんな扱いされてたまるか!
自分の怒りを抑えきれず、『世界で一番愚かな罪人』(カイン)を使おうとした刹那。
パァンッ。
頬を叩く、新人のビンタの音が部屋に響いた。