マロウ
そんなこんなで今はもう、〈術師〉は人の営みに溶け込んでいる。
そうそう事件が起こったりは………。
ドゴッ‼︎‼︎
「大変だ! 〈はぐれ魔者〉が暴れてるぞ!」
「誰かーー! 子供が瓦礫の下敷きなんだ!」
「ママーーーーーっ‼︎」
………おい、起きたぞ。 今まさに絶賛事件実施中だよ。 どーすんだよ。
「ヒャハハハ‼︎ おらおらぁ、誰から爆発されてぇんだ?あぁん? 」
犯人らしき男の声が聞こえる。 このやられ役が、 わざわざブチ殺されにきたのか、あぁん?
と考えてると、廊下から走ってくる足音が。よし、扉が開いたらこの本を投げよう!
そう考えてると勢いよく扉が開いた。
「所長! 〈はぐれ魔者〉が暴れて痛っ!」
オレが投げた本は美しく新人の鼻に当たった。 ッシャ‼︎ ナイスだ、俺!
「なんで投げてくるんですか! とっても痛いじゃないですかッ!」
「………お前はバカか? オレは最高裁判官だぞ? SSランク以上じゃないと交戦できねぇんだよ。 以外の奴はどーした?」
「……いなくなってました。」
「はっ?」
今こいつ何て言った? 裁判官がオレ以外いないだとっ?
「おい! どーなってんだ⁉︎」
「昼休みですから。」
新人が時計を指差す。 いや、確かに今1時だけどさ……。
「お前はやってくれんの?」
「え、わた、私ですか⁉︎」
何意外みたいな顔してんだよ、こいつ。
「お前って一応裁判官だよな? だったら戦えるよな?」
「私はまだ普通の裁判官です!」
む、そうか。まだこいつは『執行裁判官』ではなかったな。
つまり俺がやらないといけないのか……。
クソぉ‼︎ 何でこんなメンドいんだよ。俺一応最高裁判官なんだぞ!
「はぁ、分かった分かった。 始末書覚悟で瞬殺してやる!」
この恨み、ちょうど晴らせそうだ………!
「所長、殺しちゃダメですよ⁉︎」
分かってる。 殺さない程度でボコボコにするだけだから。
「よし、起きろ、『世界で一番愚か……」
「ああ⁉︎ なんだてめぇ!」
俺が魔術使おうとしたら、犯人の焦りが見え隠れする、そんな声が聞こえた。
「そーいう手前は何だ?」
あ、この声。 まさか。
「〈術師〉のくせして何かを壊すことしか出来ず、色んな人達に迷惑をかけている。 手前は本当に一体、何なんだ?」
「マロウ先輩が来ちゃった。」
新人が頭を抱え始めた。 バカヤロー、一番頭抱えてんのは俺だよ。
窓から外の様子を見てみると、全身に何かよく分からないペイントをしたガリガリの男と、ラインが入ったシャツに薄手のジャケットの袖を巻いてる、短髪の男がいた。
ペイント男の方は小さく、短髪の男が優位に見える。とゆーか、短髪がマロウなんだから。 負けるわけがない。
「うるせー! おまえらみたいな能無しに従ってる奴らが、説教なんかすんじゃねぇ‼︎」
能無しは人類のことだ。 〈術師〉から見れば、そう見えても当然だろうな。
「その能無しに攻撃して愉しむ手前は、カス以下だがな」
マロウがそう挑発すると、ペイント男は顔を真っ赤にした。
「ウゼェんだよ! さっさと死ね! 『爆破魔』(ボマー)ッ‼︎」
ペイント男が小さい瓦礫を投げる。マロウに触れそうなところで爆破したぞ。
どうやら、アレがあいつの〈魔術〉のようだ。 ふむ、触れた物が爆発している。 単純な爆弾化だな。
あ、ペイント男が逃げ出した。 もともと勝てないと分かってたんだろう。
だが、其れは許されない。 何故ならもうマロウがすぐ背後にいるからだ。ビックリ人間ショー顔負けだな。
「おい、カス以下」
「は? え? 」
マロウはペイント男を持ち上げ、動きを封じた。 ふぅ、何も壊さないで終わったな。
俺は拘束するべく、下におりてマロウの近くに向かった。 階段をおりてビルから出てみると、目の前が爆発した。
……………………何だ、コレ?
「ヒャハッ、ざまぁ‼︎ オレが手で触れなきゃ爆破できないと思ってたんだろーが、足で触れたところも爆破できんだよっ! それも、オレには被害がでないように、だ!」
なる。 つまりあいつは自分を傷付けずにもともと居た辺りを爆破したのか。 やるな。
けどな、 おまえがあいてにしたのは『執行裁判官』。 おまえみたいなのをどうにかするための奴らだぜ?
〈魔術〉もおまえらとはレベルがちげぇんだよ!
ペイント男が嬉しそうに叫びまくっていると、爆破の煙の中から腕がのびて、頭を掴んだ。
「あ? ぃぃ痛痛痛たあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼︎‼︎」
万力が如き握力で掴まれ、ペイント男は叫び散らす。 けれども、握力が緩むことはない。
手で触れて、頭を掴む手を爆破させる。が、手はボロボロになっても力を緩めたりしない。
「手前はやり過ぎた」
まるで死刑宣告のような冷たい声がした。
「器物破損。 殺人未遂。無断の〈魔術〉の使用。以上により、『執行権』が認められる」
マロウが数珠のような腕輪に意識を集中する。 すると、左腕に紅く輝く刻印が生まれる。
「届け、『越門辿人殺界』(カナンロード)・《登竜門》ッ‼︎‼︎」
一定の間、マロウという存在が別次元の存在とするこの〈魔術〉。聴こえてくるは不協和音。天使を模しているが、そうとは思えないほどの何かを感じさせる。
今のあいつを何かに例えるなら、まさに バケモノ だろう。
「3:た棚gAM@%☆ならガweuOOOi59#+;蓋粉pUU16:14がガ蛾GAga‼︎」
別次元の存在となったからか、最早人では理解できない言葉を言っている。 新し過ぎて今の人類には雑音にしか聞こえねぇ。
マロウの腕の刻印の光が強くなり、ペイント男が消し飛ぶだろうビームを放った。 閃光、爆音。 斜め上向きに放ったようだが、掠った家やビルが削り取られ。道路は抉れて、上空にあった雲がなくなって青空が広がった。
まぁ、カイン使ったからペイント男は俺の足元だがな。あんなの見たからビビって気絶してるな。
マロウが元に戻ったのか、 俺の近くに来た。
「ち、生きてたか。……って痛ッ! 何しやがる⁉︎」
「…………死にてえようだな?」
「待った、待ってくれ所長! なんでそんなに怒ってるんだ?」
「街を壊すなってかなり言っといた筈だが? あと何殺そうとしてんだ、こいつにだって生きる権利くらいあんだよ。 間違ってもお前が殺していい奴じゃない。 約束を守るんだぞ?」
「ッ‼︎ ……………分かった……」
「ならいい。 オレはこいつを警察に届けてくるから、くれぐれも街を壊すな」
「分かってる」
はぁ、ホント分かってんのか? まぁ、あんだけキツく言っといたからな。 反省するだろう。
そんな事を考えながらペイント男を担ぐと、新人がやってきた。
「お疲れ様です。所長。カンナ先輩が帰って来ました」
「お、じゃあ街を直させといて」
「了解です」
さて、街の修復の目処がたったし、こいつをさっさと置いてくるか。 ………しかし軽いなぁ、コイツ。ちゃんと食ってんのか?