表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/11

復讐

お久しぶりです。

 お出迎えとはいえキツ過ぎないか?


 何だこの赤さは、何だこの死体達は、何だこの異常は?

 こんな街中で、これだけの数の死体が平然と転がって。ここから見える建物全てに、血がべっとりと撒き散らかされて。彼方此方でも阿鼻叫喚と言うべき悲鳴が鳴り止まない。

 …………狂ってやがる。

 俺が闘ってる間に何があった。


「酷い……」

 新人の呟くような言葉が、まさにその通りとしか思えない。

 俺達はまだ平気だが、ギルドから出てきたガキ共は吐き気を堪えていた。

 新人とマロウがガキ共を素早くギルドに戻した。なかなか良い判断だ。

 しかし一体誰が…………。


『もうそろそろ、始まるだろうな』

 脳裏によぎるアステリウスの言葉。

 そうだな。そうだった。

 もう……始まるんだよな。


「ぅぁ…………ぁ」

 微かに聞こえた息をする声。

 確かにこの死体達から聞こえた!

「おい、生きてるヤツいるのか!?」


 俺は声を張り上げ、そしてすぐに死体達を凝視した。

 少しでも反応があったなら、其奴は生きてる可能性がある。


 …………いた!

「おい、だいじょぶか!? しっかりしろ!」

 見つかったのは、死体の中に倒れる頭を怪我してるらしい中年の男。

「所長、その人」

「ああ、唯一の生き残りだ。マロウ、治療を」

「分かった」

 コクリと頷き、マロウが中年の男に手を向ける。


「『越門辿人殺界』(カナンロード)」


 肉体強化の特性を持つこの〈魔術〉で、中年の男の自然治癒力を高める。最低限、死なない程度にはなるはず。

「…………所長」

「ん?どした?」

 もう治ったのか?

 そう尋ねようと思い、するとマロウは静かに首を振った。

 は?

「もう、この男は助からない」

「な訳ねぇだろ、嘘つくなよ。どー考えたって其処まで深い傷じゃねぇし、中年の生命力とはいえ死ぬわけないだろ」

 もっともな疑問だとばかりに、マロウは中年の手を一瞬で引きちぎった。

「!? お、おい!!」

 何してんだ!と言おうとしたが、其処で気付く。その手は引きちぎって数秒も経たないうちに、砂になって消えた。

 コレが疑問に対する回答だと言わんばかりに。

「この男の治癒力を高めようとしたが、ないんだ。この男には、命と呼ばれるものが身体にないんだ」

 命ーーー其れは俺達人間は肉袋だと言うのに生命を得られるエネルギー。現代医学でも、古代魔術でも解き明かせない奇跡。

 生きとし生きるものは必ず持ってるはずのものが、なくなっていた。

「ぁ……明日………」

 中年の男は話す。その一言一言に激痛が走るはずなのに、やらねばならないとばかりに言葉を紡ぐ。

「世界…を……変え、る……ぉ………お前、は……死ぬ」

 そう言いながら、男は震える手を俺に向けて。

 全身を砂に変え消滅した。

 周りの死体も砂に変わったが、紅い世界だけは残っている。今までのことが現実だと物語るような光景だ。

「………………」

 俺は死ぬ、か。どうやら主犯は俺を殺したいほど憎んでるらしい。全然構わねぁんんけどさ、全然問題ねぇんだけどさ。

「殺す」

 わざとこんな演出しやがって、わざとアステリウスをけしかけやがって、そのくせ間違いを犯しやがって!

「行くぞお前ら。目標は暁信代と『偽典』、徹底的にブチのめすぞ」

「って所長、傷はいいんですか?」

「もう治った」

新人は驚き、しかし服にさえ傷も残ってないのを確認し、納得したように頷いた。

「まずは帰ってカンナと会うか」

 また一人で修復作業させたから、怒ってるだろうなぁ。




 当日某所廃ビルにて。

「クフッ、クハハハ。クハハハハハハハ」

 其処には見るからに質のいいスーツに身を包む、三十代後半ほどに見える男がいた。たった一人で、それも廃ビルで高らかに笑うというのは、かなりの異常だろう。

 だが笑う。いや、笑わなくてもいいのだが、笑いがこみ上げてくるのだ。

「何年かけたんだろうか。もう思い出せないな」

 男ーーー暁信代はそう呟く。

 いや、本当は思い出せる。だけどしない。したくない。あんなこと、出来たら忘れ去ってしまいたい。

「そんな訳ない」

 彼は己が思考に文句をつけるように壁を殴った。ただの拳で鉄筋コンクリートの壁に亀裂が入り、そのまま砕けてしまう。

 自重したつもりだったが、意外と力が入っていたようだ。

「私は忘れるわけにはいかない。だから、ここまで来たんだ」

「ーーーだから、僕を使うんだ」

 唐突に響く少年の声。

 先ほどまで、今の今まで暁一人だけだったのに、当然のように少年は其処にいた。背が低い、まだまだ子どもに見える少年は、ゆっくりと暁に近づく。

「僕を使って、夢を叶えるんでしょう?」

「ああ、そのための羊だ」

 暁は少年にそう言い。刹那、全力で少年に拳を振るう。軽くでも鉄筋コンクリートの壁を砕くほどの暴力。しかし少年は防いだり、避けたりせずにーーーただ消えた。

「クハハハハ、やはり『偽典』の力は本物だ。本来の力の余剰魔力で、空間転移さえ可能にしてしまうなんて」

 そう言いながら、後ろに振り返る。

「いきなり殴ってこないでよ」

 少年は暁の背後に立っていた。先ほどと何ら変わらない態度で、姿勢で、表情で。少年は其処にいた。

「カインへのメッセージも届けられたようだし、そろそろ《天地創造》を始めるよ。邪魔が入らないように、ちゃんと足止めしてよ」

「問題ない。そのために用意した私兵達だ」

 そしてまた、二人しかいなかったはずなのに。

 当然の如く一人、また一人と増え。そのフロアに計6人ほどの男女が存在した。

「クフックフフッ、クハハハハハハ」

 暁はまた、笑いがこみ上げてくるのを感じた。

 あの男は、あの宿敵は、あの化物は、今ごろ私を殺そうと作戦を立てているんだろう。

 たったそれだけでも、彼には大きな成果のように思えた。あの時はまるで相手にされなかったが、今は違う。

 お前が考える作戦も、用意する戦力も、救おうとする世界も。その全てを破壊し、蹂躙し、再構築してやる。そして絶望に歪むお前の顔がみたい。ああ、とてもとても待ち遠しい。

「クフッ、クハハハ!クフハハハハハハハハハ!!!」

 暁はその時が早く来るのを、愉しみで仕方がなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ