2話 第一異世界人との遭遇
洞窟の外に出てみるとそこは山頂だった。
山頂から見下ろすと周りは深い森で更に奥を見てみると街のようなものが見えたが、どのぐらい離れているかは分からない。
ドラゴンの身体になって視力もだいぶ上がったみたいだが、これから何をするか考えてなかった。
洞窟を出たのはいいがこの身体では人間と交流なんて出来そうにない。
人間と会っても逃げられるか攻撃されるだろうし、どうせなら冒険者とかやってみたいから変身魔法とか翻訳魔法みたいなのがあるんなら覚えたいな。
というかスキルに【古代竜言語】ってあったし共通語みたいなスキルを覚えたらいいのかな。
とりあえず他に何か無いかな・・・・・ってあれは何だ?
人と馬車と恐竜!?
森の開けた場所で騎士みたいな人が馬車を守りながら恐竜と戦ってる。
何で逃げないんだろう?
逃げないことを疑問を持ちよく見てみると原因が分かった。
ああ、馬車の車輪が壊れているのか。
馬車には何か紋章みたいなのが付いてるし貴族とか王族が乗ってるのかな。
急いで助けないと手遅れになってしまうね。
まあ怖がられるかもしれないけど助けられるなら助けたいしね。
ドラゴンになり人間ではなくなったがやはり他人を見捨てるのは忍びないしこの身体はあの恐竜を見ても何ら脅威を感じていない。ならば助けようと思い移動を開始する。
空を飛んだことなんてないがこの身体が飛び方を覚えている。
背中に力を込め自身の倍以上ある翼を最大まで開く。
翼を広げた衝撃で風が起こり砂埃がたった。
【重力操作】で自重を軽くし大きく羽ばたき上昇する。
そして進行方向に重力を向け〝落ちる〟
そうすればこの金属だらけ体躯でも高速で空を飛ぶことができる。
いっきに加速し馬車のもとに急ぐが森の中からもう一匹の恐竜が出てきた。
やばいまだ結構距離がある。
このままじゃ・・・・・そうだ剣を飛ばせば間に合う!
恐竜は結構強そうだから威力が出そうなオリハルコンの長剣。
オリハルコンなら攻撃力は高いだろうと安直な考えだがそれは間違っていない。
ただオーバーキルではあるのだが。
よし出来た。飛んで行け!
ヒュン・・・・スッ
・・・・・・・え?
あるぇー刺さるどころか貫通しちゃったんだけど!?
しかも今の一撃で恐竜が死んでるし。
あ、馬車の周りに居た騎士さんとかメイドさんとかお姫様っぽい人が固まってる。
しーらないっと。
それより最初からいた方の恐竜を倒さないと。
突撃いぃー
「グラアァァァーー」
はいっ、どーん!
おおー結構飛んでったなぁ。地面抉れてるし恐竜がモザイクが必要なことになってるけどまあいいか。
ドラゴンになったからなのか人間じゃないとは言え命を奪ったことについて特に何も感じないのは良い事なのか悪い事なのか判断つかないな。
吐きそうになったりしないからいいか。
嘔吐するドラゴンてシュールだし。
叫んだ瞬間に騎士さん達や恐竜が固まったけど好都合だった。
おかげで騎士さん達を巻き込まずに恐竜だけを吹っ飛ばすことが出来たし。
恐竜も今の突撃で死んだのかピクリともしない。
まあ、あんな速度で突撃したらああなるよね。
さてさて、あとはどうするかなぁ。
周りの騎士さん達が警戒してるし少し動くたびにビクッてなるがこのままでいるのも悪い気がする。
少し考えているの馬車の方から声が聞こえた。
なんだろうか思いと声がする方に顔を向けると馬車の方から先ほどのお姫様っぽい人が近づいてきた。
頬を朱に染めて彼女が何か言っているのは分かるが何を言っているのか分からない。
頭を下げてるしたぶんお礼かな。
こっちから言っても分からないだろうから返事できないし頷いておこう。
とりあえず山の方に戻るか。
そう思い翼を広げ【重力操作】を使い上昇し元居た山へ飛行を開始した。
SIDE ????
森の中にある道を一台の馬車と馬に跨った5人の騎士が走っていた。
馬車には盾に二本の剣がクロスし真ん中に翼を広げたドラゴンが描かれた紋章が掲げられており、ここら一帯の土地を保持するリヴィエル王国のものであると分かる。
周りの騎士たちはこの馬車に乗る人物の護衛で、この人物の立場からすればたった5人しかいないのは無用心と言えるのだが大人数の騎士を連れていけば道中に民たちを不安にさせてしまうかもしれないから護衛は少人数でいいと本人からの希望があり騎士5人を連れて行くこととなった。
騎士5人とは言っても彼らは国王直属の近衛騎士団所属の実力者達で5人とも冒険者でいうAランク相当であり、この森に生息する魔物程度なら一人で蹴散らすことのできる実力者である。
それと馬車には護衛としての側面もある侍女もおり、彼女の魔法使いとしての実力は高い。
これだけの戦力があればこの森を抜けるのは容易いと判断し国王も許可した。
領地の視察も順調に終わり、特に問題もなく王都に帰る途中。
今回の護衛で一番高い役職についていた近衛騎士団の副団長は違和感を感じていた。
この森は王城から遠すぎず近すぎず野生の動物も多く生息し強い魔物もあまりいないので行軍の演習に利用されるのでよく知っている。
だからこそこの森がいつもと違う雰囲気に包まれていることに気がついた。
野生動物の気配がほとんど感じられない。
この森で何かが起こっている可能性がある。
何が起こっているかは分からないが早くこの森から抜けたほうがいい。
そう判断し速度を上げるよう進言しようとしたときそれは起こった。
森の奥から大きな生物の足音が聞こえ振動がどんどん近づいてくる。
この森にはこんな足音を出すような大きさの野生動物や魔物はいない。
やはり何かが起こっている。
なんとしてでも姫様を無事に王城まで返さねばならない。
そう決意し自分の乗っている馬を馬車の横に近づけ窓をノックした。
「失礼します。姫様、落ち着いてお聞きください。どうやらこの森にはいないはずの大型生物が何故かこちらに向かってきています」
「お、大型生物ですか?」
「はい。ですが御安心下さい。我々近衛騎士団が必ずお守りします」
「分かりました。ですが無理はなさらないでください。貴方達は国の守り手であると同時に家族でもあるのですから」
「はっ、勿体無きお言葉です。それでは」
騎士は姫そう告げ、隊列に戻り護衛騎士たちに指示を出した。
「皆そのまま聞け。現在、正体不明の大型生物がこちらに接近しつつある。この森にはこのような足音を立てる大型の生物は今まで確認されていない。確証はないが姫様を害しようとしている一派が暗殺目的で召喚したのかもしれん。故に何が出てくるかは分からん。警戒を怠るな!」
「「「「了解!」」」」
騎士達が警戒を高め馬車からある程度距離をとり陣形を整えしばらく進むと足音がすぐそこまで聞こえ大型生物の姿が見えた。
その姿は強靭な脚で疾走し両腕は退化したのか体に見合わず小さく頭部は人間を丸呑みできるほど大きく体全体はゴツゴツとした甲殻で覆われた亜竜であった。
「な、ヒュージロックリザードだと!?亜竜が何故こんな森の中に!」
(この亜竜は山岳地帯に生息するはず。やはり何者かが姫様の命を狙っているのか)
ヒュージロックリザードは山岳地帯に生息する亜竜種でドラゴンとは別の生き物であるがその強さはやはり竜と付くだけあってそこらの魔物とは比べものにならない。
その強靭な脚で馬よりも早く走り、岩石のような甲殻は並大抵の攻撃ではダメージを与えることは出来ない。そして一度獲物として定めたのなら仕留めるまで執拗に追い掛け回す凶暴な性格の危険な魔物で討伐するにはAAランクの冒険者“パーティ”が必要とされる。
騎士達だけでは良くて足止めにしかならず、それも短い間でしかない。
まだ王城まで夜通し駆けて一日半はかかるがそれまで持たせられるかといえばほぼ不可能と言える。
Aランクから上はランクが一つ上がるごとに大きな壁がある。
つまりはAAランクのパーティが必要なヒュージロックリザードをAランクの騎士5人では不可能と言える。
そんな状況の中、ヒュージロックリザードが森の中から街道へ飛び出して進行方向にあった木を弾き飛ばし、運悪く弾き飛ばされた木が走行中の馬車の車輪を破壊し馬車を横転させた。
「姫様!っく、私とお前たち二人でアレを足止めする。残り二人は姫様と侍女を連れて王城へ向かえ!」
「「「「了解!」」」」
副団長は二人の騎士を引き連れヒュージロックリザードへ向かい、残り二人は横転した馬車へ向かった。
「ご無事ですか姫様!」
「はい。少しふらつきますが問題はありません」
「では、すみませんがこちらに。副団長達が戦っている間に王城へ向かいましょう」
「そんな!彼らを置いては行けません!」
「お分かりください。今の戦力ではヒュージロックリザードを倒すことはで出来ません。ですから副団長達が時間を稼いでいる間に我々が王城までお連れします」
「・・・・・分かりました。すみません私が大勢の護衛は不要と言ったばかりに」
「お気になさらないでください。我々は姫様をお守りす「グルルル」っ!まさか二匹目だと!?」
騎士と姫が会話をしている間にもう一匹のヒュージロックリザードが進行方向から現れた。
最初の一匹の足音に気を取られ遅れてきた二匹目に気がつかず接近を許してしまった。
突然の事態に固まってしまった騎士達に二匹目のヒュージロックリザードが喰らいつこうとした瞬間。
ヒュン・・・・スッ
何かが空気を切り裂き飛んでくる音が聞こえたと思った瞬間、金色の光がヒュージロックリザードの横っ腹を貫き一撃で絶命させた。
「「「「・・・え?」」」」
自分達の命を脅かした危機が一瞬で排除されたため理解が及ばず騎士達や侍女に姫まで皆揃って目が点になり少々間抜けな顔をしてしまった。
二匹目のヒュージロックリザードがお亡くなりになって姫達が呆然としている間にも一匹目の相手をしている副団長達は戦っていた。
「くそっ!硬すぎる!甲殻の無い所を狙おうにもあの巨体の癖に素早い。まったく厄介な!」
ヒュージロックリザードはその巨体の割に素早く、特殊な能力やブレスを持たないが攻撃力、防御力、機動力どれをとってもハイレベルの魔物であり、だからこそAAランクの冒険者パーティが必要である。
一度相手から距離をとり体勢を整えようとした時、それはその咆哮は聞こえた。
「グラアァァァーー」
その咆哮を耳にした瞬間、金縛りにあったかのように身体が動かなくなった。
驚くことに目の前のヒュージロックリザードも動きが止まっており、何の声だと思っていたら視界からヒュージロックリザードの姿が消えており地面を削る音が聞こえ50m以上も先まで地面が抉れていてその終了地点に砂埃が立っている。
しばらくして砂埃が晴れるとピクリとも動かない甲殻は砕け腕や脚があらぬ方向に曲がっているヒュージロックリザードが横たわっていて、どう見ても生きているようには見えない。
いったい何が起こったんだと周りを見渡すとソレは先ほどヒュージロックリザードがいた場所に降り立った。
それは全身が金属に覆われており鎧を着たドラゴン、もしくはドラゴンの形をした鎧といった今まで見たことも聞いたこともない存在だった。
ただ分かるのはヒュージロックリザードを一瞬で絶命させる程の強さを持つということ、ただの魔物ではないということぐらいである。
だが自分達を襲っていたヒュージロックリザードを狙ったのなら敵ではないのか?いやドラゴンならば魔物、やはり自分達を襲うのでは?と悩んでいる間にいつのまにか自分達の守るべき人物が侍女の制止を振り切ってドラゴンに近づいていた。
「私はリヴィエル王国第二王女イーリス・サウサン・リヴィエルと申します。貴方様が駆けつけて下さらなかったら私たちは今頃生きてはいなかったでしょう。この度はお助け頂きありがとうございます」
イーリスはドラゴンの前に出て頬を朱に染めつつ感謝の言葉を述べ頭を下げた。
ドラゴンはその言葉を受けとったかのように頷き巨大な翼を広げ羽ばたき山の方へ飛び去った。
「ふぅ」
ドラゴンが飛び去って気が抜けたのかイーリスは息を吐いて地面へ座り込んだ。
「姫様!何故あのような危険な真似をされたんですか!」
副団長はイーリスの手をとり立ち上がらせ声をあげた。
「あの方は私達を助けてくださいました。ならばお礼をしなければと思いまして。それにあの方からはこちらに対して敵意を感じませんでしたし知性を感じましたので大丈夫かな・・・・・と。すみません心配をおかけしまして。でも最後には頷かれていたので感謝の気持ちが伝わったのかと思います」
そう言って嬉しそうにイーリスは微笑んだ。それに釣られ騎士達の表情も緩んだが進言はしなければと思い口を開こうとした時ほかの騎士から驚きの声が上がった。
「ふ、副団長!これを見てください!」
「なんだ!何があった?」
「これです!この剣を見てください!」
興奮気味の騎士に呼ばれ声の方へ向かうと、そこには黄金に輝く一本の剣がクレーターの真ん中に刺さっていた。
「こ、これはいったい誰が?」
「信じ難い事ですが恐らく先ほどのドラゴンがやったものと思われます!」
「ドラゴンがだと?どうゆうことだ?」
「我々の前に二匹目のヒュージロックリザードが襲いかかった時に金色の光が見えたと思ったらヒュージロックリザードは横っ腹に穴を開け死んでいました。そして金色の光が飛んできた方向から先ほどのドラゴンが現れたのでそうではないかと思いました!」
「なるほど。しかしドラゴンが剣を使うとは聞いたことない・・・・・・が、状況的に一番可能性が高いのはあのドラゴンだろうな。それに全身が鎧のようなドラゴンなど聞いたことな無いからなそうゆう種族なのかもしれん。我々には処罰が下るかもしれんがヒュージロックリザードやドラゴン、そしてこの剣の事を国王様に報告せねばなるまい。皆スマンな、私の力不足でお前達に面倒をかける」
せっかく生き残ったのだが襲撃を受け、大きな怪我こそないものの姫様に打ち身程度の被害があった事から色々な責任を取らなければならないと思い少し部下達に謝罪した。
「いえいえ。気にしないでください。亜竜やドラゴンに遭遇して誰も大きな怪我を負うことなく生きてるんですから運が良かったですよ。それにしてもこの剣、装飾の類は無いですけどかなりの業物ですね。いったい何で出来てるのやら。金色だけど金ってわけでもないですよね?」
騎士の一人が無いだろうなと思いつつも黄金の剣を見ながら言った。
「ああ。実用的な剣を作るには金では強度が足りず使用すれば曲がるか折れるだろうな。何か特殊な金属を使ってるのかもしれないな。とりあえずこれを放置していったということは恐らくドラゴンにとってさほど重要な物では無いのだろう。証拠として持ち帰り提出せなばならないな」
「私からお父様に事情を説明しできるだけ貴方達に責が行かないようお話しておきます。貴方達は責務を果たしただけなのですし幸い、私も怪我という怪我を負ってはおりません。だから御安心ください」
「姫様。ありがとうございます。そのように言っていただけただけでも嬉しく思います。それでは姫様、王都へ向かいましょう」
馬車は車輪が壊れてしまったが魔物に道を塞がれていたせいか馬たちは近くにいたので黄金の剣とヒュージロックリザードの角を証拠として回収し血の匂いで他の魔物が集まって来ないうちに王都へ出発した。
王都に到着後、イーリスや騎士達の報告を受けた国王は原因解明と犯人探しや愛娘を救ったドラゴンの調査を直属の諜報部隊に命じ、騎士達が持ち帰ったヒュージロックリザードの角は武具の材料として保管された。
黄金の剣は【鑑定】スキルを持つ鍛冶師に見せたところ純度100%のオリハルコンで作られた物と判明し名前が『鋼装竜の剣(オリハルコン製)』となっていたためイーリス達を救ったドラゴンは鋼装竜と呼ばれるようになった。
しかし詳しい情報は一部の信頼できる臣下のみに伝えられたのだがどこからか話が漏れたのか国民たちの間に“姫様の危機にドラゴンが駆けつた”という存在事態が伝説と呼ばれるドラゴンの御伽話のような行動が広がり一時お祭り騒ぎとなった。
黄金の剣改め『鋼装竜の剣』の性能を確かめるため試し切りを行ったが標的となった鋼鉄製の鎧は一切の抵抗を感じさせず真っ二つになり、それに目をつけた一部の貴族が暗躍したり剣を鑑定し剣の出来に感動した鍛冶師は一度剣について鋼装竜話してみたいものだと豪快に笑っていたり王都は忙しかった。
『鋼装竜の剣』自体は国宝として宝物庫に収められ厳重に保管されたが、ときおりとある姫は恩人?を思い出すのか剣を見に宝物庫へ足を運んだりしているとかいないとか。
ちなみに護衛の騎士達はイーリスの説得もありお咎め無しとなった。
主人公よりも周りの人物の方が出番が長くなってしまった。