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第2章 精霊学園へようこそ! ~その1~

 希望を胸に、真新しい制服に身を包んだ新入生たちが精霊学園の門をくぐる。

 若くして精霊使いとなった彼、彼女達は世間的に見ればエリートだ。


 ゆくゆくは日本の国防を担う重要なポストに就くことが期待されている。

 現時点でも、精霊学園に通うというだけで周囲からは羨望の眼差しを受けたし、政府から色々と優遇されている。


 それ故に若い彼、彼女達が手にした特別な力を放棄することなど出来ようもなかった。

 しかし、その代償として危険に身を晒すことの意味を理解していない者が多かった。


 また総じてプライドも高く、根拠のない自信を持ち合わせている。

 つまり、まだまだ未熟なのだ。


 未熟者が力を持てば、その力を振るいたくなる。

 これらの理由から、精霊学園は生徒同士の衝突が絶えなかった。






 数多くの新入生が続々と正門から学園に入ってくるのを、生徒会室から眺めている2つの影があった。


「初々しいわね」

「今年は使えそうな新入生がいるといいが」

「取り敢えず、確実に即戦力になりそうなのが1人いるけど」

「もうわかるのか?」

「ええ。紅兄妹が今年入学なのよ」

「兄の方は、確かに即戦力だな」


 風紀委員の委員長である壬生汐莉みぶしおりの目つきが険しくなる。


「知り合いなの?」


 精霊学園第三分校の生徒会長である蒼茉夏あおいまなつが、きょとんと首を傾げる。

 茉夏は蒼家そうけの人間だが、悠斗と面識はなかった。


「兄の方は知っている」

「すでにチェック済みとは、さすがはセクシー担当ね」

「そういうのじゃない」

「そんなに強いの?」


 渋面を浮かべている汐莉を見て、茉夏は察しがついた。

 精霊魔法を行使している場面を目撃したのだ。

 それも実戦の最中に。


「強い! この目で見ても、信じられなかった」


 あくまで精霊使いとしてであるが。

 また、汐莉は壬生の家からも情報を得ていた。


『刀の一族』として知られる壬生家は、警察や自衛隊に多くの人材を送り込んでいる。

 そのルートから紅悠斗の名を、汐莉は頻繁に聞いた。

 眉唾、としか思えない戦歴に汐莉は身震いした。


「それは楽しみね」


 汐莉とは対照的に茉夏は楽しそうに微笑んだ。

 同じ虹七家の人間として、どれほどの実力なのか興味が湧いてきた。

 茉夏も蒼家の中では指折りの精霊使いなのだ。蒼家の後継者候補でもある。


「おあつらえ向きに、新入生同士が揉めているわよ」

「生徒会長がそれでいいのか?」

「あら。ああいうのを取り押さえるのが、風紀委員の仕事でしょ?」


 茉夏の切り返しに、汐莉はぐうの音も出ない。

 窓の外に目を移せば、校門付近で精霊魔法が飛び交い始めた。

 紅兄妹が校門に達するまで、あと少しというタイミングだった。






「ん……」

「お兄様」

「やれやれ、だな」


 事情はわからないが、精霊学園で精霊魔法が行使されている。

 それもデモンストレーションではなく、男子生徒同士の争いのようだ。

 校門に辿り着くと案の定、精霊魔法を撃ち合っているのを悠斗は目にした。


――ろくに実戦に出たこともない坊ちゃん連中……。


 つい先日聞いた日南の言葉が悠斗の脳裏に甦る。それは何も虹七家に限った話ではないのだ。

 ふいに悠斗はやり場のない憤りを覚えた。


「抑えてください、お兄様」


 織姫に言われて悠斗は我に返った。自分でも気づかないうちに、精霊力を高めていたようだ。


「ありがとう、織姫」


 悠斗は争いからかばうように織姫の肩を抱き、迂回して校舎へ向かった。


「い、いえ……」


 織姫は真っ赤になって俯く。

 鼓動が悠斗に伝わってしまうのではないかと心配になるくらい、胸が高鳴っていた。


 そのうち教員なり何なりが出てきて止めるだろう。そう思い、悠斗は争いを放置することにしたのだが……。


「間に合うか?」


 悠斗は織姫の肩から手を離すと、すぐさま印を結び精霊魔法を放つ。

 流れ弾ならぬ流れ精霊魔法が、やはり争いを避けるように歩いていた女子生徒に飛んできたのだ。


 威力の調整は問題無い。

 江東の虎との戦いに比べれば造作もなかった。


 ただ不意のことだったので間に合うかが心配だった。

 畢竟、悠斗の放った精霊魔法は見事にそれを相殺した。


「大丈夫ですか?」


 よく心得たもので、織姫が女子生徒のもとへ近寄っていた。こういう場合は同性の方が安心できるだろう。


「あ、ありがとうございます……」


 女子生徒はひどく怯えていた。

 まさか入学初日に精霊魔法で襲われるとは思ってもみなかったのだろう。


「怪我は無い? もしよかったら保健室まで付き添うけど」

「い、いえ、大丈夫です。助かりました」

「そう。よかったら入学式が行われる講堂まで、ご一緒しましょうか?」

「は、はい。私、この学園に知り合いがいないから嬉しいです」


 女子生徒は、はにかんだ笑顔を見せた。


「無事、だったようだな」


 あえて悠斗はゆっくりと2人に合流した。

 落ち着いてからのがいいという判断だ。


「あの、お2人は……?」


 兄妹にしては似ていないので、女子生徒は悠斗と雪菜がどんな関係かひっかかったのだろう。


「恋人よ」


 全く躊躇せず織姫は即答した。慌てたのは悠斗だ。


「違う。兄妹だ」

「お兄様! 否定することないじゃないですか!!」

「あのなあ」


 悠斗の口元が引きつる。織姫のこういうところには、いつも辟易とさせられる。


「兄妹なんですね」


 心なしか、女子生徒が安堵したように見えた。


「もっとも、血は繋がっていないけどね」

「えっ!?」

「そんなに驚くことかな?」


 柔和な笑みを浮かべながら、悠斗は不思議がる。


「もう、お兄様!」


 どういうわけか織姫が怒り出す。仕方ないので悠斗はぽんっと織姫の頭に手を置き、そっと撫でた。


「あ、あの。わ、私、古式愛李こしきあいりです」


 愛李はペコリと頭を下げた。


「俺は紅悠斗」

「紅織姫よ。よろしくね、古式さん」


 互いに挨拶を済ませ、そのまま入学式の行動へ向かおうとした矢先……、


「ちょっと待てよ」


 悠斗が呼び止められた。

 この展開が面白くないのは、精霊魔法を使って争っていた2人の男子生徒だ。


 ただでさえ、義理の妹と仲睦まじく(?)していて腹立たしいのに、そこへ愛李が加わったのである。

 両手に花状態だった。


 しかも愛李と仲良くするキッカケを作ってしまったのが自分達とあって、ますます不愉快極まりなかった。


 そんな事情は、しかし悠斗からしたら、完全に逆恨みもいいところだ。

 煩わしくなり、大きく息を吐いた。

 チ~ム、KII~♪ いや、推しメンは違いますが・・・。

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