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第1部 プロローグ

 少年は渇望した。


――死にたくない!


 と。

 少年の命は風前の灯だった。

 2人の精霊使いの戦いは熾烈を極めた。


 その戦いに巻き込まれた少年は、両親を、妹を失い、そして自分の命も渦高く燃え盛る炎に飲み込まれる運命を待つだけだった。


――死にたくない!


 家族の仇を討ちたい。

 復讐したい。


 などと考える余裕などない。理不尽な死を迎えようとしていることに対する憤りもない。

 ただ、


――死にたくない!


 その思いが少年の胸を占めていた。

 少年は傷ついて身動きできず、意識も朦朧としてきた。

 このまま気を失ってしまえば死んでしまうことがわかった。


 だからこそ、生を求める。

 年端もいかないが故に、無知蒙昧であるが故に、少年の願いは天に届かんばかりの勢いだった。


 そして瀕死の窮状に陥ったがために、少年の精霊力は異常な高まりを見せた。


……汝、生を望むか?


 声が、少年の頭の中に直接響いた。


……汝、我と契約せよ。さすれば汝、助からん。


 選択の余地などない。

 死なずに済むのなら悪魔とだって契約を結ぶだろう。

 声の主である精霊を、少年は強く、強く受け入れた。


――死にたくない!


 ただ、その一心で。


……契約は成った。


 体中に精霊力が漲ってくる。刹那、辺り一面の燃え盛る炎を飲み干した。

 少年は実感した。


 恐ろしく強大な精霊と契約したのだと。


 それは取りも直さず、戦いの渦中へと引きずり込まれることを意味していた。少年の命と引き換えに……。






「お兄様! お兄様!」


 自分を呼ぶ声と、体を揺さぶられる感覚で紅悠斗くれないゆうとは10年前の悪夢から目覚めた。


「織姫……」


 義理の妹である紅織姫くれないおりひめが心配そうな顔をしている。


「また、例の夢ですか?」

「……ああ」


 忘れたくても脳にこびりついて忘れられない記憶。

 まるで夢魔サキュバスに憑りつかれたかのように、何度も夢に見る。


「大丈夫ですか? うなされていましたが……」

「ありがとう、織姫」


 悠斗はぽんっと織姫の頭に手を置き、そっと撫でた。


「……お兄様」

「今は織姫がいるから」

「あわわ……」


 悠斗の言葉で織姫は瞬間湯沸かしの如く全身が沸騰してしまう。


「どうした、顔が真っ赤だぞ?」

「お兄様のいじわる……」

「ええっ!?」


 悠斗は織姫が自分に対して抱いている恋心を知らない。

 あくまで織姫のことは妹としてしか見ていない。

 例え、すれ違えば大半の男性が振り返ってしまうほどの美貌の持ち主であっても。


「明日から台湾に行くから、何か土産でも買ってくるよ」


 悠斗としては織姫の機嫌を取ろうとして、出た言葉だ。しかし、それは逆効果だったようだ。


「土産なんて、いりません!」


 声を荒げ、織姫は張りつめた顔を悠斗に向ける。


「私は、お兄様が無事に帰ってきてくれれば、それだけで……」


 その瞳には、うっすらと涙でにじんでいた。


「わかった。ちゃんと帰ってくるよ」

「約束、ですよ?」

「ああ、約束だ。絶対守る。破ったら、あとが怖そうだからな」

「もう! お兄様ったら」


 途端に織姫の顔がぱあっと明るくなる。

 その様子を見て悠斗はほっとした。

 台湾へ出発する前に、余計な心配をかけたくなかった。


 中学を卒業し、高校へ入学するまでの間の春休み。

 悠斗に精霊使いとしての命令が下ったのだ。

 いつの頃だっただろうか?


――精霊達の住まう精霊界が発見されたのは


 突如として我々の世界に現れた精霊達。

 そして優れた資質を備えた人間は精霊と契約を交わし、精霊の力を借りることにより精霊魔法を行使できる。


 その事実に人類が気付いたのは。

 精霊魔法の登場により、戦争の様相は一変した。


――火器よりも強力で補給の必要のない兵器


 これを世界各国が放っておくはずがなかった。

 精霊と契約を交わし、精霊魔法を行使できる人間を『精霊使い』と呼ぶ。


 現在、世界中のあらゆる国が優秀な精霊使いを確保しようと血眼になっていた。


 人同士の戦場において、また精霊界から侵入してきた精霊を撃退するのに、精霊使いは抜群の戦果を上げたのだ。


 紅悠斗も優れた、いや弱冠15歳にして世界中を見渡しても屈指の精霊使いだった。

 それはひとえに、悠斗が契約を交わした精霊に起因するのだが……。


 そして精霊使いとして傑出した力を持つが故に、悠斗は戦場に駆り出される駆り出されることが頻繁にあるのだった。

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