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後編

あの日から、一体どれだけの時間が経ったのだろう。

年を取らないこの身体ではわからない。

僕は数年前から、小さな村に住んでいる。

僕の様な『人でないもの』が暮らす村。

ここなら、僕も平和に暮らせるだろうって。



「まだ、諦めていないんだね」

「うん…多分、一生……忘れられないと思う」


鮮やかに笑っているのは、僕を連れてきた人。

ルフラン――この世界で一番すごい魔術師なんだって。…自分で言ってたから確証はないけど。


「未練がましいことだね。小さな女に子に対して」

「別に…」

「まあ、良いんじゃないのかい?私は構わないと思うけど」



愛でも恋でも、好きになったら負けなんだから。



そう言った。

…何だか、その言い方だと。


「あなたも、恋をしたことがあるの?」

「…うん。恋とは言えないかもしれないけど、それでも、私はあの子を愛したかったよ」


少し、寂しそうに見えた。

泣きそうで、だけど泣けない。

まるで昔の僕みたいな。

…かわいそう。


「おいおい、『かわいそう…』みたいな目で見ないでおくれよ。

まあ、だからこそ私はあんたたちみたいな子供たちの恋を叶えてあげるために色々してる訳だけど」



それでも最後に道を決めるのはあんたたちだから。


それ以上のことはしてあげらんない。


あんただって、自分の気持ちを弄られるのはいやだろ?




真っ黒な、孤独で優しい魔法使いは、



絶対に泣かなかった。




  ■  ■  ■



「アースートーラーッ!」

「セージ?どうかしたの?」

「んとねー、んとねー、森で変てこな子発見したのー」


変てこな子?


「森のなかなのにね、こーんな、ふわふわの真っ白な服を着ててね。髪の毛、綺麗なピンク色でね。

そんでねー、アストラと同じ、体にいっぱい傷があったの」


白い服?ピンクの髪??

僕と同じで…ってことは、フランケンシュタイイン??

どうして……フランケンシュタインを作れるのは、博士だけなのに。

博士は、また僕みたいなものを造ったの…?


「よく分かんないから、無視してきたー。

でもね、『おにーちゃん、おにーちゃん』って誰か探してたの。

アストラ、知ってる??」


それって…

もしかして……?



「アストラガラス。居るかい?」



「ルフラン?どうしたの?」

「お客さんだよ」


ルフランに影に居た、白い塊が僕に向かって突進してきた。





「おにーちゃん!!!」





  ■  ■  ■




私の目は、生まれてからずっと見えなかった。

確かに歩いたりするのはちょっと大変だったけど、別に目が見えるようになりたいとも思わなかった。

…あの日までは。



いつもみたいに私はヒマで、森に遊びに行ってたら、気付かないうちにどんどん奥まで入り込んじゃって、足を踏み外して坂から落ちた。

その時には私は出会ったんだ。

私のケガを心配してくれた、とっても優しいおにーちゃん。

名前が無いって言ったから、私がつけてあげた。

大きな手は冷たかったけど撫でられると安心したの。


きっと、この感情は恋なんだと思った。


だから、

ずっとずっと一緒に居たかった。



もうずっと一緒に居る。

目が見えない私にはよく分からなかったけど。

おにーちゃんは「一年が経った」って言ってた。

じゃあ、私はもうすぐ11歳になる。

…まだ、私が結婚できるようになるまでまだ3年もあるのか。



長く雨が続いた日の後。

私はおにーちゃんの為に薬草を採りに森に出かけた。


「プリム…?プリムなのか…!?」

「だ、誰?」

「おい!誰か来てくれ!プリムが居たぞ!!」


誰なの?

嫌、手を掴まないで。

引っ張らないでよ…!

私は帰らなきゃいけないのに。

おにーちゃんが待ってるのに…!

おにーちゃんを独り置いてなんか行けないのにっ…


「嫌だ、放してぇぇえええッ!!」




ぐずぐずと、ずっと泣いてる。

あの日から、何度も森へ帰ろうとするけどその度に連れ戻されて。

おにーちゃんに会いたい…

こんな、私のことを誰も彼もが厄介者扱いするような場所に居たくない…

帰りたい、帰りたいよ……


「プリム」

「ヴィクター、おじさん…」

「よく聞くんだ、プリム。君のあった男は人間ではない。あれは悍ましい怪物なのだよ」

「違う…違うもん…!おにーちゃんは優しい人だもん…!」


おじさんは嘘つきだ!

おにーちゃんが怪物な訳ない!

たとえ…たとえ怪物だったとしても、おにーちゃんは優しかったもの…!


「おにーちゃんは、お母さんやお父さんみたいに私を『要らない』なんて言わなかったもん…!

私のこと、ちゃんと、『好き』って…『大切』って、言ってくれたもん…!」


だからね、だから、私は。



「おじさん…お願いがあるの……」



きっと、おにーちゃんは怒るよね。


でも、もう決めちゃったことだから…


だから、だから、ごめんなさい。




  ■  ■  ■



「ごめんなさい、おにーちゃん。でも、私…おにーちゃんのお嫁さんになりたかったの…」


そんな小さな、幼くてあどけない少女の様な願いを叶えるために、この少女は一度自ら死んだのだ。

強い、強くてかわいい女の子。

こんな風に直向きに愛されて…


ああ、なんて羨ましい。



「おにーちゃん…許してくれる?私、このままここに居てもいい…?」

「で、でも……」


純粋な子かと思ったら、別にそうでもなかったみたい。

優しいアストラガラスが断れないと知って、拒絶なんて出来ないと知って、

もっとも深く彼が傷つく選択をした。


狡くて、卑怯で、狡猾で、残忍な。


それは恋する少女そのものだった。


…私にも、それくらいのことが出来ていれば。

あの子を失うことはなかったかもしれない……



「…許してあげなよ、アストラガラス。


その子は君のお嫁さんになるためだけに死んだんだから」



女の子は、驚くほど残酷だよ。

優しい君が想像もできないくらいに。

私は、君たちを繋げてあげたいから。

たくさんたくさん傷つける…




涙はもう枯れ果てた。




  ■  ■  ■




燃えるような紅葉の中で、盛大な結婚式が開かれた。

新郎新婦は死体人形フランケンシュタイン

参列者は異形の人外。

牧師は漆黒の魔法使い。

色とりどりの花が舞い、魔法で作られた鳥が飛び、みなの祝福が降り注ぐ。

盛大で温かな、一世一代のビッグ・ウェディング。


優しさに包まれたこの場所で。


二人は永遠を誓い合った。



『この躰朽ち果てるまで』


『どれほど永き時であろうと』


『尽きる事無き愛を誓う』






――不幸な怪物は愛を手に入れ、


――不幸な少女は愛を手に入れ、


――長く永く、永遠に




――幸せに暮らしたと言います――



        End...

これでおしまい


悲しい物語にハッピーエンドを用意したかった…

たったそれだけの物語です

…思ったよりハッピーになりませんでしたが(だって、ルフランが勝手に動くのだもの…)

けれど、


長く永く幸せに、

二人が暮らせたのなら、


それが幸せなんじゃないですかね?

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