表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

前編

小説『フランケンシュタイン』のオマージュ作品です

 title:「TRAP TRASH」様


誰にだって、ハッピーエンドを用意してもいいでしょう?

深い森の中を怪物は一人歩いていた。


どこへ行くのかも分からない。


目的がある訳でもない。


ただひたすら、どこかへ行きたかった。



人間のエゴで造られ、



人間のエゴで殺されかけて、



人間のエゴで傷つけられた怪物は、



たった一つの愛を求め。


今日も闇の中を彷徨っていた。



  ■  ■  ■



…眠っていたらしい。

こんな体でも睡眠を必要とするのかと、少しだけ驚く。

けれど、それだけだ。

それ以上の意味はない。

見出せない。

こんなツギハギの身体。

思えば、こんな怪物を、誰も愛してくれる筈なんて無いと。

分かり切っていたことだったのに…

どうして、博士は僕を造った?

どうせ殺すのなら、どうせいらないって言うんだったら、


生まれない方がよかったのに…



「きゃあ!」


斜面から、女の子が転げ落ちてきた。

ど、どうしよう…怪我してるし、手当てしないといけないけど…

また、怖がられたら……


「あぅぅ…痛ぃよう…」

「だ、大丈夫?」

「うぃ?」


こっちを見た女の子の目は閉じられていて、傍には杖が転がっていた。

…ということは、この子、目が見えてない?

ペタペタと、僕の肌を触ってる。


「…おにーさん?体冷たいね、寒いの?」

「いいや、そういう体質?だからしかたないんだ。

ねえ、君は大丈夫?」

Jaヤー、大丈夫だよ。

私ね、旅してるの。そしたら森に迷い込んじゃったの。

おにーさんは、森の中で何してたの?」


屈託なく、笑いかけてくれる女の子。

初めて…人間とちゃんと話せた。

嬉しい嬉しい。


「おにーさん?…泣いてるの?大丈夫?聞いちゃいけなかった?」

「ううん。違うんだ。僕、嬉しくて…それで」


こて…っと、女の子は首を傾げた。

そんな仕草さえ可愛らしい。

羨ましい…妬ましいくらいにかわいい、きっと、愛されて育ったんだろう女の子。



「……私には、

私にはよく分からないけど。

でもね、それでも分かることあるよ。

おにーさん、寂しかったんだ。

寂しくて悲しくてどうしようもなかったんだね。

私、行く所もないし。別に家に帰らなくても大丈夫だから。


おにーさんと、一緒に居てもいい?」



馬鹿みたいにひた向きな。

目が見えてないはずなのに、しっかりと僕の方を見て。

もしかしたら…。なんて、希望が生まれる。


もしかしたら、この子なら、僕を愛してくれるんじゃないか……


なんて、馬鹿みたいな望み。

でも僕にとっては切実な願い。

願って縋って思って敗れて、それでも捨てられない、僕の願い。

この子なら、叶えて…くれるかな……?


気が付いたら、僕は泣いていた。

泣くのなんて…それこそ博士に裏切られて以来だった。

目元が熱くて、喉が詰まって、胸が苦しくて…


「僕…ずっとずっと、独りぼっちで…!

辛くて、苦しくて…!悲しくて…!嫌だったけど、どうにもならなくて…!

それでっ、色んなことから逃げて…、でも、誰かに一緒に居てほしくて…っ!

だけ、っど、僕には…むり、で……!!」



「無理じゃないよ。私が居るよ」




生まれて初めての優しさに包まれて、



僕は赤ちゃんみたいに泣き続けた。




  ■  ■  ■



「アストおにーちゃん、あっち、あっち!」

「プリム…!危ないからっ、走らないで!」


もう一ヶ月近く一緒に暮らしている。

その中で分かったこと。

まずはあの子の名前。

プリムローズ…ピンク色の小ぶりの小さくて可愛らしい花の名前を持ってる。

あと年齢。10歳だって。少しびっくりした。15歳くらいに見えたから。

それと、意外にお転婆だった。

目が見えてないのに、よく走るから僕はずっとひやひやしてる。

それから、やっぱり、プリムは優しい女の子だった。

何度も何度も、僕の名前を呼んでくれる。

プリムがつけてくれた、僕の名前。

《アストラガラス》だって。これも花の名前らしい。

何でそうしたの?って聞いたら。


「おにーちゃんからその花の匂いがしたから」


だって。

どうにも僕が仮に住処にしてた洞窟の近くに、その花がたくさん生えてたみたい。

……何か、赤黒くて小さいちょっと不気味な感じの花だった。

…嬉しくない。

でも、プリムがつけてくれた名前だから大切にするよ。

優しいプリム。

大好きな、プリム。



この気持ちは、何だろう?



「おにーちゃん?」

「あ、うん。どうしたの?」

「おにーちゃん、元気なさそう。大丈夫?」

「…うん!大丈夫だよ。さあ、今日の晩御飯探しに行こう。今日は何がいい?」

「お魚!」

「じゃあ、湖に行こうか」



僕達は手をつないで森を歩く。


離したくない。


この、小さくて暖かくて優しい体温を。



  ■  ■  ■




一緒に暮らして一年が経った。


それは長く、雨が続いた後のことだった。

いつも通りの、“いつも”だったのに。



「いい?おにーちゃんは動いちゃダメだよ!」

「うん。分かってるよ。でも大丈夫?一人は危なくない?」

「だいじょーぶだよ!この森も随分慣れたもん」


長雨の所為で、足が少し腐って(じっとしてたら直るけど)来てて、僕は動けなくなってた。

それで、プリムが食べ物を調達して来るって事になったんだけど。

…心配だなぁ、大丈夫かなぁ。

確かに目が見えてないのに木にぶつかったり、川に落ちることは最近無くなってたけど。

雨の後だからなぁ…心配だなぁ…


「じゃあ、行ってくるからね」

「うん。なるべく早く帰ってきてね」



手を振って、送り出した。


あの時引き止めていれば…何か変わったのかな?





プリムは、二度と戻ってこなかった。



 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ