活動家の女
ミラ・シュネトリックは活動家であった。
政府からすれば、自らの立場を覆そうとする危険人物。
当然その命を狙われる立場にある。
そして、彼女は俺の古くからの友人で、殺すべき相手だった。
「ここまでだ。追い詰めたぞ」
もはや彼女に逃げ場はない。
一対一ではあるが、何が起ころうとと女に出遅れる様な俺では無い。
「分かったわ。観念するわ。でも、一つだけお願い。私以外の仲間の命は救ってあげて」
「それを決めるのは俺じゃない」
「相変わらず頭が固いのね」
確かに俺は彼女のような自由な生き方は出来ない。
色々なものに縛られ、人の言う事に翻弄される人生。
そんな風に俺は生きるしか出来なかった。
政府の人間になったのも自分の意志ではないが、それでもこの生き方を間違っているとは思わない。
俺は彼女に銃口を向けたまま距離を詰める。
「でも、いいわ。どうせ手に掛かるのなら、貴方に」
彼女の瞳は何処までもまっすぐで、こんな状況でも俺の事を信じているようだった。
恐らく自分の命を救ってくれるとは思ってはいないだろう。
きっと苦しまずに殺してくれる、そんなところだろう。
彼女は瞳を閉じ、その時を待った。
俺は銃を構え、覚悟を決める。
覚悟を決めたはずだった。
引き金は引けず、銃は地に落ち、俺は彼女を抱き寄せ、唇を奪っていた。
「意気地なし」
恨みがましく見る彼女の目を直視できないでいた。
意気地なんてなくても良い。
ただこの胸に彼女への愛があれば。
それだけでいい。
「・・・このままどこかに逃げよう」
「それは出来ないわ」
「何故?」
「今頃仲間が政府の施設を急襲している。私はおとりよ。うまくいっていたら戦果はなかなかのものよ。それに頼りになる人物も手に入れたしね」
「俺は物じゃない。手に入れた何て言い方・・・」
彼女は悪びれなくウィンクして見せる。
「もう貴方は私の物でしょ?」
「・・・お前って奴は」
俺は久しぶりに笑った。