↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/6

4.暴露扇(ばくろせん)

確かに、小鬼だったわよね……。

真維(まい)は、出がけに目撃した姿を思い返した。


一瞬、ベッドに寝かせているテディベアかと思った。

縫いぐるみくらいの大きさ。

頭でっかちなところも似ていた。


でも──その顔は、厳(いか)つい赤鬼だったのだ。

そして、生きて動いていた。


あのとき。真維の部屋のドアが、パタンと静かに閉まった。そこから出て来たらしい。

小鬼は、慌てた様子でパタパタと廊下を駆けて行く。


まん丸の目が、どことなく剽軽(ひょうきん)だった。

ミニチュアサイズだけどムキムキで、着ている黒い作務衣(さむえ)はピチピチ。


破けちゃいそうね、と思った瞬間。

ふっ

赤い小鬼の姿は、かき消えてしまったのだ。


「……う~ん」

「大仏(おさらぎ)さん? どうしたの?」

「そろそろ整列しましょ、もうすぐ先生いらっしゃるわ」

唸っている真維に、同じ体操服姿の級友達が寄って来た。口々に明るく促す。


まだ4月の半ば。入学式を終えて、本格的な授業は始まったばかり。

クラスの顔ぶれにも、ようやく馴染んで来た頃だ。


「大仏(おさらぎ)」なんて珍しい苗字の真維(まい)だが、体操着に付けた名前のゼッケンを「だいぶつ」と読んでくる者はいない。

どうやら大勢に覚えてもらっているようだ。


「ごめんなさい、ぼうっとしてたわ。ありがとう」

返事をした真維は、そこでようやく気付いた。

あれ?

クラスみんなの視線が、自分の手にした扇に集中している。


「大仏(おさらぎ)さん、その扇、違うわよね」

「間違って、お家の扇を持って来ちゃったの?」

「えっ?」

真維は慌てて目を落とした。

本当だ。色が違う。緑色だ。


扇の色は、クラスごとに決まっている。

この1組の生徒が持っているのは、紫だ。


真維は、扇を開いてみた。

やっぱり緑色だ。しかも一回り大きい。


「わあ、綺麗な色……」

「中骨に透かし模様が入ってるわ。凝った作りね」

「ほんと、素敵だわ」

こぞって級友達が褒める。


確かに、学校から配られた扇とは格が違った。

根元の要(かなめ)に、房も付いている。金糸も混じっていてゴージャスだ。


おかしいわ。こんなに違うのに、どうして気付かなかったのかしら。

夜、カバンに入れた時は、小袋に収めた状態だった。中身まで見てはいないけど……。


考え込む真維に、級友の一人がねだった。

「ね、大仏(おさらぎ)さん、ちょっと貸してもらっていい?」

不思議な扇面だった。緑一色なのに、じっと見つめているとユラユラと揺らいでいる感じがする。手に取って近くで確かめてみたい。


あまり親しくないクラスメイトだ。でも、大らかな真維(まい)は「ええ」と頷いた。

扇をいったん閉じると、要(かなめ)側を相手に向けて両手で差し出す。


が。

ずしっっっ!

「重(おも)っ!?」

いきなり、その子は悲鳴を上げた。


まるで何キロもある鉄アレイを受け取ったかのようだ。扇を持った両手が、ぶらりと伸びきっている。今にも体がつんのめりそうだ。


「え? うそ、大丈夫?」

「それ、そんなに重いの? ちょっと貸して」

真維を取り囲んだクラスの面々は、授業前だというのに騒ぎ出した。

もはや真維の許可も取らずに、何人もが扇に手を伸ばす。


「わ、ほんとう、重~い!」

「両手で持つのがやっとよ、これ」

「どうしてこんなに重たいのかしら?」

「何で出来てるの?」

「大仏(おさらぎ)さん、よく持てるわねえ」


気付くと、級友達は揃って興味津々といった顔を真維に向けていた。


正直、自分にもわからない。

わからないことだらけだ。


ただ、これだけは自信をもって言える。


「私、けっこう力持ちだから」

真維は、おっとりと微笑んだ。


ひょいっ

級友が両腕でプルプルぶら下げている扇を、あっさり受け取る。


「けっこう」どころではない怪力だ。


実は、体育だけではなく、これまた非常識なレベルで力持ちの真維であった。

運動会の綱引きでは、真維のいるチームが常に圧勝。

勝負にならなすぎて、小学校時代は競技メンバーから外されていたくらいだ。


そんなバックボーンをまだ知らない中学のお嬢さん達は、唖然とした。


クラスで一番可愛い。実は、大多数の級友にそう認められていた真維である。

しかし、なかなかに規格外のキャラクターらしい。


「大仏(おさらぎ)さん、今日は先生に扇を借りたら? それじゃあ舞の所作はできないでしょう」


驚きに固まっていた級友達は、冷静な指摘にはっとした。

クラスで一番の美人が、にこりともせずに真維を見つめている。

整い過ぎた目鼻立ちが、美人なのに冷たい印象を与える。クールビューティーだ。性格もクールらしい。


真維も、すらりと背の高い級友を見つめ返した。名前のゼッケンは──青木さんか。


「えっと大丈夫よ。ほら、」

真維は、あっさりと扇を開いた。

手首を柔らかく動かし、優雅に仰いでみせる。

とんでもない重さの扇だというのに、全く問題ない様子だ。


しかし、問題は起こった。


ぶわっっ!


体育館に、にわかに暴風が巻き起こった。

「きゃあ……っ」

体操服姿のお嬢さん達が、たまらずに悲鳴を上げる。みんな、反射的に腕で顔を庇った。


「……えっと、ごめんなさ……いぃ?」

真維の声が、途中で裏返った。


ようよう収まった風に、級友達がやれやれと顔を上げる。


その中に、一人、鬼がいた。


青鬼だ。体操服を着ている。

ゼッケンは、「青木」──




挿絵(By みてみん)



★    ★    ★    ★


【番外編マンガ】


挿絵(By みてみん)


「おみおつけ」って呼び方は関東圏に多いそうなので、本編では「お味噌汁」という表記にしました。(前回の第3話)


三省堂国語辞典:御味御付け(東日本方言)

って、うそ、方言なの!?



★    ★    ★    ★


挿絵(By みてみん)


ようやくこの扇が出て来ました~



最後までお読みいただき有難うございました。

ブログサイトでは「総フリガナ版」を掲載しております。

https://chiyuru-bannai.blog

ぜひ見に来て下さいね!



毎週日曜日に投稿していきます。

ぜひ、続きもご覧くださいませ。


★   ★   ★   ★

ブックマーク・評価などして頂けたら本当に嬉しいです。

とっても励みになりますので、ぜひよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。