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百妖の桜巫女 ~神宿し乙女は、愛を知る~  作者: 今際ゆき
春、初恋が舞い落ちる

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桜の舞姫


四色(よんしょく) 泡沫(うたかた)


古典文学で、儚く消えるものの象徴として用いられる言葉。

白縹色の剣先が水面に浮かぶ泡のような薄水色に変化し、僅かに透けて見える。

自分自身と刀の気配を完全に消し去って、相手に気付かれることなく止めを刺すことを可能にする、美影が独自に体得した剣技である。


斬られた相手に一生消えない傷を残す大技であるため、榊の消費は凄まじい。命の危険を感じた時以外は絶対に使わないようにしていた。


「ちょっと美影ちゃんさあ、何したの?血が止まんないんだけど」


元々妖怪は回復能力が人間の十倍とも囁かれており、その中でも鬼の回復能力は頭抜けて高い。しかし、首と太腿からの出血が止む気配はない。

身体だけでなく自尊心も傷付けられたことで、美影への純粋な殺意に、重傷を負わされたことの憎悪が加わり、酒呑童子の丸い瞳はより深い黒に染まっていく。



「一色 八重」「二色(にしょく) (しゃく)()()



失血でふらつく酒呑童子に追い打ちをかけるように、八枚の花弁を描くように刀を高速で八回振り下ろす。

続け様に、形状も色身も石楠花の葉のように変化させた刀を、喉元に勢いよく突き刺した。

石楠花の葉の毒性を利用し、美影の手によって妖怪にも効力を発揮するよう毒性が何百倍にも強められている。


毒を取り込んだ酒呑童子は苦しそうに心臓を押さえてその場にうずくまって動かなくなった。


美影は喉元から刀を抜き去ると、後方に飛び退いて様子を窺う。三連続で技を使ったことで、両腕と右目が般若のものへ変わった。浅く速い呼吸を繰り返しながら、倒れないように自分の身体に鞭打った。


『美影はん。大丈夫なんか…⋯?』

「うん。⋯⋯今のところは」

『もしかして勝ったん?酒呑童子の野郎、全然動かへん』


姿を表し、微かな期待を込めて主人である美影に尋ねる。しかし、夜叉とは対照的に、美影の表情は一層強張っている。


「夜叉。今すぐ姿を消して」



「毒まで使えるんだ~ボク嬉しいよ!しかも、身体がちょっとずつ鬼に変わるなんて思い白いねえ。般若ちゃんみたいで可愛い!地獄へ連れ帰って、玩具にしよっかなあ♪」



極度の興奮で目を血走らせ、酒呑童子は意気揚揚と美影に語りかけてくる。

斬り落とされた両腕も、首も太腿も綺麗に回復している。毒に関しても、効いたのは僅か数秒だったのだろう。


美影は修復が困難な程の深い傷を負わせた。

手応えも確かにあった。

しかし、両腕も首も綺麗に修復されている。酒呑童子の回復力を前にしては、極限まで洗練された剣技すら僅か数秒の内に無効となってしまう。美影は一度深呼吸をし、刀を握る両手に一層力を込める。

「じゃあ次いくよー」と軽く言うと、今度はしまってある大鉈を抜き取った。



「六色 (こっ)(きょく)()(らん)



酒呑童子が自身の纏う黒の炎を鉈に移し、刀身が灼熱の赤と途方もない闇に覆われる。

そして、周囲の熱気が一段と上がり、それに比例して息苦しさも増す。

あと少しで太陽の表面温度に並ぶという所まで上がっており、もし榊がなければ身体は呆気なく蒸発しているだろう。

美影はそんな中でも息を止めたまま刀を握って、次の攻撃に備えていた。


「美影ちゃーん。先に言っておくけど、まだまだ温度が上がっていくから、死なないように頑張るんだよ~」


鉈を大きく振りかざし、自然の緑を灰へと変えながら美影の方へ迫ってきた。



「十二色 (くろ)(つき)・宵 百煉(ひゃくれん)



百煉という技名の通り、一本の大鉈から黒い炎の斬撃が、確認出来る分だけでも百回続けて飛んでくる。

その速度は銃弾をも凌駕しており、僅かでも掠れば傷口から身体が灰となるだろう。

身体の小さい美影なら尚更、火が回る時間も短くなる。一秒にも満たない中で、今の状況を出来る限り正確に、冷静に分析した美影は地面を強く蹴って上空へと飛び上がった。



「五色 天つ(あまつ)(そら)



天つ空とは、一分間上空での移動を可能にする大技。


百煉をこれだけで躱し切れる筈もなく、酒呑童子はすぐに攻撃の軌道を変えて的確に美影を狙ってくる。


対抗すべく、彼女は宙を舞うように体を何度も回転させて斬撃の間を潜り抜けながら、「泡沫」、「八重・(ひらめき)」と連続して唱えた。

泡沫によって数秒間自分と白露の気配を消し去って、従来の八重に速度と手数を足した「閃」で黒い炎を全て叩き斬って消滅させた。

一秒にも満たない時間に百を超える斬撃を傷一つ負わずに処理する、という芸当は十六歳の少女が習得できるものではない。加えて白露は変わらず美しいままだった。


酒呑童子が一旦鉈を下ろしたことを確認した美影は天つ空を解除して地面に降りた。炎の勢いが収まり、ようやく普通に息をすることができた。


「うわあ~本当に全部斬られちゃったよー『人は見かけによらない』って言うけど、本当だったんだねー。でもさ……」


酒呑童子は美影の実力に感嘆しながらも、どこか厭らしく、口が裂ける程に口角を上げた。そして、―美影ですら全く目で追えない速さで傍によると、耳元で囁いた。



「どんなに頑張っても、君と僕の力の差は埋まらないよ?」



すかさず刀を振るおうとした美影だったが、その前に彼女のブラウスとスカートが血の赤で染まった。


炎を一旦消して素早く接近し、鉈で急所を正確に狙って斬りつけられたのだ。傷口を確認すると、幸い致命傷には至っていないが、下腹部と右足からの出血量はかなり多い。


本当は涙が出るほどに傷が痛いのだが、何とか堪えて刀を持ち直し、酒呑童子を捉える。爪が獣のように尖り、撫子色の綺麗な眼は血の赤に変わった。


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