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百妖の桜巫女 ~神宿し乙女は、愛を知る~  作者: 今際ゆき
特務部隊・白朧

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白朧 “死神”・蒼五月雨

美影は血が滲むほどの力で白露を握り、顎が外れたまま話す絡新婦に突き付けた。


「お前⋯⋯私をおびき出すために夢奈を⋯⋯」

『その通りだ。大事なお友達が食われたことを知れば、お前は一層本気を出すだろう?ちなみに、金髪の娘はまだ生きているぞ』


絡新婦は夢奈が美影の親友だと知った上で襲ったのか。

怒り、悔しさ、何より関係のない夢奈を神在と妖怪の戦いに巻き込んでしまった罪悪感が複雑に混じり合い、美影の胸を占めた。


「二色 石楠花」「四式 泡沫(うたかた)(すい)(げつ)


美影は剣先から目を離さず、技の軌道を見極める。

「石楠花」の毒性を利用して動きを鈍らせる。


体長十メートルを優に超える巨大な蜘蛛にも毒は効いたようで、かなり苦しそうに呻き声をあげた。


続けざまに「泡沫(うたかた)(すい)(げつ)」と唱えて薄水色の刃を、三日月柘状に振って、一撃で絡新婦の身体を大きく削り取った。


零の「五色 皆鬼月蝕」から着想を得た技で。攻撃力の高い美陰の技の中でも相当に強力な技だ。


「夢奈!!!」


腹の中で意識を手放した夢奈の姿が見え、美影は一目散に駆け寄った。

動かないよう「石楠花」と唱えて絡新婦に白露を一度突き刺してから、夢奈の身体をゆっくりと引っ張って絡新婦から助け出すことに成功した。


そのまま夢奈を抱える形で絡新婦から即座に距離を取り、夢奈を横たえた。


「夢奈。巻き込んでごめんね⋯⋯」


夢奈の意識はまだ戻らないが、脈はしっかりしていた。

目立った傷もなく、命に別状はないことを確認した美影は親友の手をそっと握った。


十年前、般若の衝撃の際に身動き一つ取れなかったか弱い少女の姿はもうない。



『中々に⋯⋯面白いな、黒条美影。だが、皮肉なことにお前の身体も限界のようだな』


親友を失う恐怖に駆られ、連続して技を出し、榊を大量に消費した。

無我夢中で戦っていた為、忘れていた。



――ほぼすべての部位を般若に奪われていることに。



「ああ⋯⋯⋯⋯ああああああ!」

『美影はん!!!』


夜叉が姿を現し、涙目で美影に寄り添った。

鈍器で殴られているように頭がずきずきと痛む。

視界がゆがみ、立っていられなくなった美影は強く握っていた白露を落とし、膝から崩れ落ちた。


鬼化は止まらず、生気が完全に失われた青白い肌に、普段より一層黒く醜い色の椿が浮かび上がり、美影の色白の肌が奪われていく。


撫子色の瞳が赤黒く塗りつぶされ、額からは二本の角が伸び始めていた。


「れ⋯⋯い⋯⋯⋯⋯くん」


消えてしまいそうな声で、最愛の恋人の名前を呼んだ。

唯一鬼化の秘密を知り、治すことができる零は今そばにいない。


激痛と、零がいない不安で白露を握れない美影に、顎を再生させた絡新婦が口角をあげて接近してきた。


『期待外れだよ、黒条美影』


巨大な足で美影の身体を踏みつけにしようと迫った。


痛みでまともに動かない手に何とか力を入れたものの、もう白露を振る力は残っていない。


『美影はんにこれ以上近付くな!!!』


夜叉が両手を広げ、美影の前に立ち塞がった。

零のような実力はなく、絡新婦から美影を庇い切れる訳がない。

それでも、何もせず見ていることなど出来なかった。


「夜叉⋯⋯だめ⋯⋯⋯⋯」


美影は何とか力を振り絞って夜叉の頭を守り、目を瞑った。



「一色 (そう)(じん)(あま)()(しずく)


しとしとと降り注ぐ雨が、すべて鋭利な刃物へと姿を変え、絡新婦の巨体を切り刻んだ。


「ふわあ~せっかく寝てたのに起こされちゃったよ⋯⋯ねむたい⋯⋯」


気だるげな声が響く。


白銀色の髪に、青空を閉じ込めたような瑠璃色の瞳が映える、零に負けず劣らずの美青年が美影の前に立っていた。

髪は寝ぐせが目立ち、寝ぼけ眼だが、神々しさは全く消し切れていない。


「五月雨⋯⋯様」


(あおい)五月雨(さみだれ)――黒条家筆頭分家・蒼家の嫡男。


現代で三本の指に入る程の実力者で、神在の関係者の中で彼の名を知らぬ者はいない。


「黒条美影ちゃん。僕が来るまでがんばってくれてどーもです。

⋯⋯で、その身体はどういうことかな?今の君は〝般若〟にしか見えないよ」



五月雨は美影を見下ろし、どこまでも深く碧い瑠璃色の瞳は少女・黒条美影ではなく、憎き敵である般若を映し、その奥には深い恨みを宿していた。


(しに)(がみ)〟――感情を全く見せず、「死んだように生きている」ことから、蒼五月雨につけられた異名だ。






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