約束と愛言葉〜壱〜
不調で、少し短くなってしまいました。
ごめんなさい。
明日で第一章が終わります。
よろしくお願いします。
「こんな綺麗な場所があったんだ…⋯」
一心不乱に咲く桜が、三日月と小さく輝く星々に彩られた夜空と調和し、幻想的な世界を作っている。灯篭の優しく温かい光に照らされ、風が吹く度に花が違う顔を見せてくれる。花を咲かせるように笑う美影を、零は隣で優しく見守っていた。
十年前、残酷な運命に襲われ、二人の物語は途切れてしまった。
『あなたは誰なの?』
美影が記憶を失ったと聞いた時は、あまりの衝撃で頭が真っ白になった。幼き日の零の、壊れかけていた心は限界を迎えた。
師と崇め尊敬していた将彦は帰らぬ人となった。自分を本当の息子のように可愛がってくれた美鶴と宏にも、二度と会う事は出来ない。大好きな美影と、時間をかけて築いてきた大切な関係まで無くなった。
『一生戻らない可能性も十分にあります』
医者の言葉が更に零の心を抉った。神在の名家ではなく、普通の家庭に生まれていれば良かった、と何度自分の生い立ちを憎んだか覚えていない。何か月も食欲不振の状態が続き、顔色は悪くなる一方だった。屍のように生きていた零を支えたのは、両親と親友の夾だった。部屋に閉じ籠ってばかりいた零を説得する訳ではなく、何も言わず静かに寄り添った。
三か月が経過した頃には少しずつ食欲が戻り、夾と共に修行に励むようになった。
―将彦のように強くなって、彼の分まで妖怪を倒そう。金色を獲得した暁には、十年前に伝えられなかった想いを美影に伝えよう。
美影に好きな男性がいれば、大人しく身を引くと決めていた。家族を失った時の美影はまだ六歳だった。零以上に深い傷を負った彼女の幸せを邪魔してはいけない。
覚悟を決めて告白した結果、返事は保留となった。
その一週間後に、彼女が酒呑童子と対峙していると知った時は、焦りと緊張で手が震えた。全てを忘れ、彼女の元へと走った。
『零くん…⋯』
零の顔を見て安心した美影は、昔と変わらない透き通る声で名前を呼んだ。これまでの人生の全てが報われたような、そんな気がした。
「美影」
夜を飾る桜に手を伸ばす美影に呼びかけた。小柄な彼女では中々届かず、懸命に背伸びをしている。その仕草は何とも可愛らしい。
「どうしたの?零くん」
少し冷たくも優しい夜風が美影の頬を撫で、桜色の髪を揺らす。浮世離れした景色の中に佇む彼女は、精霊のように美しい。
彼女の手を優しく取って、小さな箱を手の平に乗せた。突然のプレゼントに驚きつつも、美影は嬉しそうに表情を綻ばせた。
薄い桃色の箱に入っていたのは、桜を模った小さなネックレス。
添えられた真珠とピンクダイヤモンドが優しい輝きを放っている。
決して華やかではないが、とても上品で可愛らしい。




