神宿し二人は、恋を知り強くなる
もうすぐ新章に突入します(◍•ᴗ•◍)
乞うご期待!!!!
美影は榊を使わずに地上八十メートルから飛び降りた。
観覧車は鉄筋が複雑に組み合わさった構造が特徴的で、ほとんど隙間が無い。どこかに身体を打ち付ければ重症を負うが、足場が無数にあるとも言える。
美影は三つ下のゴンドラの上部に着地し、大きな時計が設置された中心部に一瞬で飛び移った。左足のみで体重を支え、半ば宙づりの状態で親子の様子を窺う。
この時点で地上からの距離は五十メートル。中心部ということは、観覧車の回転に巻き込まれる可能性が最も高い場所にいるということだ。
常人ならこの高さには十秒も耐えられないが、流石は美影だ。巧みに足を掛け換えてバランスを取っており、身体は一切揺れていない。
『美影はん⋯⋯ワイ高所恐怖症なんやけど⋯⋯』
現われた相棒の夜叉が、美影の肩に掴まって半泣きの状態になっている。
「夜叉はここで待ってて。男の子とお母さんを助けてすぐに戻ってくるから」
美影は掛けてていた足を離すと、榊を少し消費して親子の元へ向かった。
右手で偶々来ていたゴンドラに掴まり、左手で親子二人の身体を支え、落下を止めた。
運良くそのゴンドラは無人だったので、二人を中に座らせた。珠雪の睡眠効果で眠っているので、落下したことも美影の超人的な身体能力に助けられたことも知らない。
「無事でよかった」
何も知らず眠る男の子が、幼き日の自分と重なった。
この子と母親が、妖怪の脅威と戦いに身を投じる恐怖を知らず、幸せに生きてほしい。
美影はそう願い、夜叉を連れて零の元へ戻って行った。
「お前は先刻、俺達に危機感が足りないと言ったが、それはお前の方だ」
美影は生身で飛降り、親子を救出する光景を見た鵺は呆気に取られ、目を大きく見開いていた。神在は榊を使用できなければ無力だと判断した自分が如何に愚鈍であったか、今更になって思い知った。
「五色 皆鬼月蝕」
皆既月食ー太陽、地球、月が直線に並び、満月が欠けて見える天文現象。時折月が赤黒く見えるのが特徴的で、起きる頻度は年二、三回とかなり珍しい。
『大人しく地獄に帰る。だから許し⋯⋯』
次の瞬間、鵺の身体の大部分が一瞬にして消し飛んだ。満月の全てが欠けて見える皆既月食を技に応用したもので、敵の身体は地球から見る月と同じように欠け、瞬きする間に命を削り取られてしまう。零の編み出した枝の中では、神代・銀華ノ夜に次いで殺傷能力が高い。
「男の子とお母さん、無事だったよ。おつかれさま」
一仕事終えた美影が驚異的な速さでゴンドラへ戻って来て、零の隣に座った。
「本当に助かった。⋯⋯君も強くなったな」
月読尊がゴンドラの修理を行う中、観覧車での二人の時間は終りが近付いていた。珠雪の催眠は解け、人々は妖怪の衝撃に遭った事実も忘れて日常へ戻っている。守ることが出来た喜びと、愛する人への想いを噛み締めていた。
「ねえ零くん、この後⋯⋯デートの続き、しない?」
美影は頬を赤く染めて、遠慮がちにそう言った。
「俺も⋯⋯今言おうと思っていた」
零は淡い桃色の小さな箱を、美影に見えないよう隠した。
彼が十年分の想いを込めて選んだプレゼントだった。絶対に妖怪が来ない、静かな場所で彼女に渡そうと決めていた。
二人の幸せな時間は、まだ終わらない。




