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百妖の桜巫女 ~神宿し乙女は、愛を知る~  作者: 今際ゆき
零れ桜は、恋人たちを祝福す

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烏天狗と星の神 


『吾の邪魔をしに来たのか。最近の若者は命知らずなものだな』


IC付近には、山伏装束の、尖った大きな(くちばし)と背中に生えた漆黒の翼が特徴的な妖怪がいた。(もう)(きん)類のような羽毛で覆われているが、完璧に人語を操っている。


神具である、携える金の(しゃく)(じょう)()(うち)()から発せられる圧は凄まじく、夾を捉える両眼は狼のように鋭い。


烏天狗―大叫喚地獄に住まう妖怪で、自在に飛翔する能力を持つ稀有な存在だ。地獄の社がある妖花山から街の中心部まで、簡単に辿り着くことが出来たのはその為だ。




「あのさ~こんな人が通る所を狙うのはやめてくれない?大迷惑だよ」


大惨事が起こっているのだが、夾の表情と口振りからは焦りの一つも感じられない。烏天狗は舐められていると感じ、羽団扇を夾の方へ向けて威嚇した。


『お前さん、吾の正体を理解していないのか?』

「知ってるよ。烏天狗さんでしょ」

『ならば何故焦って逃げようとしないのだ』

「だってさ…⋯」


訝しげな視線を送る烏天狗に、夾は平然と答えた。




「烏天狗さん、見苦しいもん。自分の実力を過信するその尊大な態度が」




胸元の白銀の称号が妖しい光を放った。相手を煽り、怒りを誘う夾の言動に触発され、烏天狗の頭に血が上った。酒呑童子を始めとする鬼には敵わないものの、烏天狗も五百年以上の時を生き抜いてきた。美影に敗北した八岐大蛇同様プライドが高く、自分自身が倒される訳がないと実力を過信していた。


『吾の怒りを買って、寿命を縮めるつもりか……分かったぞ。望み通りにしてやろう』


烏天狗は錫杖を勢い良く道路に叩き付け、同時に羽団扇を大きく振りかざした。錫杖が当たった箇所に亀裂が入り、瞬く間にIC付近の道路が轟音と共に崩壊を始めた。また、全てを引き裂くような突風が吹き荒れた。恐らく、夾が到着する前に吹いた風の何倍も強い。


流石に対処不可能だろう―烏天狗は不敵な笑みを浮かべた。嘗て襲った人々は、羽団扇の突風で手足を潰され、命乞いをしていた。果敢に立ち向かってきた神在達の身体を少しずつ傷付けていき、最後の最後で胴体を切り離した。


この風に耐えられた人間は歴代で黒条十六夜ただ一人。現代なら桜刃零か黒条美影のみだろうと驕っていた。



「はあ~風の勢い下げてよ。めっちゃ榊消費したんだけど」


夾は片手で払うように簡単に勢いを殺してしまった。割れた道路は天津甕星によって既に完璧に修復が済まされている。下を確認すれば、最初に落ちた人々も全員無事なことが分かった。


『吾の風が……』


夾は、戦意喪失した烏天狗に畳み掛ける様に唱えた。



「一色 (みそぎ)之星(ほし)(よみ)



茫然自失に陥った烏天狗の頭上に、純白の星が一つ出現した。十二個重なった五芒星が白く鋭く輝きを放ち、少しずつ烏天狗に近付いてきた。


「じゃあ、俺帰るね。烏天狗さん、悪いけどさよなら」

『待て!一体何を…⋯』


次の瞬間、烏天狗の首が吹き飛び、漆黒の翼が消滅した。威勢の良さを失った挙げ句、抵抗する術も見い出せぬまま、身体が塵となって崩れ去って行った。


「俺の禊ノ星詠はね、出現させた五芒星に全て運命を預けるんだ。だから、星の気分次第で敵の死に方は変わるの。……やりすぎちゃった罰だね、烏天狗さん」


飄々としているだが、目は一切笑っていない。


『貴様…⋯実力は認めてやる』



天津甕星が、嫌な顔をして夾を褒めた。夾の事は好きでないが、彼を信頼して仕えている。


「輝もありがとう。お疲れ様」



珠雪の効果が切れ、人々が日常に戻った。破壊された道路は元通りになり、落ちた車に乗っていた人々も普通に運転を続けている。



「さてと、デートの続きをしますか」



夾は一般人が視認できない速さで高速道路から降り、由紀奈の元へ戻って行った。


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