恋多き神在
「由紀奈ちゃんってさあ、本当可愛いよね。俺、すごく好きだよ」
午後一時頃。紅林夾は宵月市駅付近を、同じ年回りの女性と腕を組んで歩いていた。
女性ー天城由紀奈は薄桃色の長い髪と、露出の多い攻めた服装が印象的で,身長は一五◯センチ前後だが、相当大人びて見える。一七九センチの夾と並んでも何ら違和感がなく、むしろお似合いだといえる。
「あのさ、夾。どうせ全員に同じこと言っているんでしょ?」
「⋯⋯でも、由紀奈ちゃんと話すのが一番楽しい。これは本当だよ、」
「ふーん」
由紀奈はあまり感情を込めずに返事をした。夾の女癖の悪さをよく理解しているからだ。
実際、夾のL◯NEの共有を開けば、零以外の全員が遊び相手の女性で埋まっている。自分とデートをした直後に、別の女性と待ち合わせする彼の姿を由紀奈は何度も見てきた。
なので、毎度怒りをぶつけ、問い詰めるような真似はしない。
「あ、そうだ。今日はね、由紀奈ちゃんにプレゼントがあるんだ」
変わらず反応が薄い由紀なを余所に、夾は仕事用の鞄から綺麗にラッピングされたプレゼントを取り出した。入っていたのは、誰もが知る高級ブランドの財布。由紀奈が好きなレモン色に、銀色のブランドロゴが上品で可愛らしい。
「ありがと」
「うん。いっぱい使ってよ」
そんな中、不意に高速道路の辺りで轟音が響き渡った。一体何事かと人々が様子を確認すると、衝撃の光景が広がっていた。何と、高速道路が真っ二つに割れ、車が次から次へと落下し始めていた。
「何なのあれ?!ヤバいじゃん⋯⋯」
由紀奈はあまりの衝撃映像に。言葉を失っている。一方の夾は、既に事態を察していた。
「由紀奈ちゃん。俺、ちょっと行ってくる」
夾は身を翻し、破壊された高速道路の方へと走った。数多の女性と関係を持つ不誠実な男である一方、神在としての実力は折り紙付きだ。
夾は珠雪を取り出して「胡蝶之夢」と唱えた。由紀奈おも、それ以外の半径五百メートル圏内の人々が一斉に眠りについた。誰一人意識がないことを確認すると、夾は何もない所に呼び掛けた。
「輝ー。出て来て~」
『指天津図するな。敬語を使え。あと、貴様に力、を貸す義理はない』
現われたのは漆黒の烏帽子に直衣を身に着け、檜扇を携える平安貴族のような装いの男。髪も光沢のある漆黒で、装いも言動も厳かだ。
天津甕星ー日本神話に登場する唯一の星神で、武神として名を馳せた鹿島・香取の神々ですら征服が不可能であったことから、唯一の「悪神」とも言われる。
「輝」は、フルネームで呼ぶのを面倒だと感じた夾が、直感で付けた名前だ。
夜叉や月読尊は主を心から慕っているが、天津甕星はその真逆で、夾にとても冷たく一切の情が感じられない。が、関係性が悪いということはなく、軟派な性格の夾には案外天津甕星のように容赦のない物言いをする神が合っている。
「まあ、協力してくれなくても良いよ。ただ、関係ない人達のことは守ってよ」
『それは当然だ。ただ、貴様はどんな目に遭っても知らん』
「はいはい。じゃあ頼んだよ」
夾は軽く返事をすると。車の落下の阻止と、盛大に破壊された高速道路の修復を天津甕星に託し、そのまま三十メートル程榊を使わずに飛び上がった。
身軽にアスファルトに降り立ち、乗用車やバイク、背の高い車両運搬車まで軽々と飛び越え、榊の気配が最も強いIC付近まで僅か五秒で辿り着いた。




