幽世
あれから何年の月日が流れたのか。そんなことを考えながら、黒条将彦は半透明になった身体で暗闇を歩いていた。
幽世―地獄でも、極楽でもない死後の世界。神在の敵である妖怪が住まう地獄、善根を積んだ人間を歓迎する苦しみのない極楽浄土。
現世への未練を残したまま命を落とした人々が集う場所が幽世だ。
一番の特徴は、変化のない神域であり、永遠に夜が続くということだ。
それも、月を見ることはできず。見えるのは枯死し灰色になった木々のみだ。
美影の亡き兄・将彦もその中にいた。
母・美鶴と父・宏は美影と零を般若の驚異から守るという責務を果たし。天国への切符を手渡された。
しかし、将彦一人だけが幽世へと送られた。
悪夢のような時間だった。
両足には深々と火矢が突き刺さり、片目の視力を失い、脾臓を貫かれてもなお愛する妹と弟子の為に立ち上がって般若に攻撃を続けた。
何度首を飛ばしても、四肢を切断しても般若が死ぬことはなかった。
「父さん⋯⋯母さん⋯⋯」
美鶴と宏は般若に頭部を殴られ、既に出血多量で息を引き取っていた。
救援に駆け付けた他の神在達も皆重傷で、動ける者はもういない。
将彦の命も、あと五分ともたない。この場で一番実力のある自分が倒れてしまえば、美影と零まで殺されてしまう。
将彦の私道の甲斐あって、零の実力は小学生ながら相当なものだ。が、般若には到底及ばない。
美影も零も本当に優しく純粋で、将彦は毎日微笑みあう二人の姿に心を救われていた。
そんな二人の未来を。目の前の怪物に奪わせる訳にはいかない。
火矢が刺さり、値が滴る脚を無理矢理動かして立ち上がり。般若の首に何度も刀を突き刺した。




