二人の甘いひと刻
「零くん。本当に料理するの初めてなの?……すごく美味しい」
美影と零は、白味噌を使った大根と油揚げの味噌汁、程良い焼け目が付いた甘さ控えめの卵焼き、鰹の出汁で和えた小松菜を、淹れたての焙じ茶と共にゆっくり味わっていた。
味噌汁の大根は綺麗にいちょう切りにされており、卵焼きも見事に形が整っている。
小松菜のお浸しの、優しい出汁の風味は穏やかな朝の時間に寄り添う。
この健康的で体に優しい朝食を作ったのは、料理上手な美影ではなく零だった。
幼馴染で、初恋相手の美影に長年片思いを続け、十年越しにその恋が叶った。
しかも、二日前から美影と二人、一つ屋根の下で生活を共にする運びとなった。
なるべく顔に出さないよう堪えているが、内心では相当浮かれていた。
嬉しさのあまり四時半頃に目が覚めてしまった勢いで、レシピを調べて体に優しい朝食を自力で作ってみようと決めたのだった。
「誰かに作ってもらうご飯、久しぶりだから嬉しいな⋯⋯」
目を細めて笑いかける美影をみて、思わず頬が緩んでしまうのを感じた。
平静を装いつつ、頭の中は「可愛い」という単語で溢れ返っていた。
もっと凝った料理を覚えて、自作の料理を彼女に振る舞いたいと思った。
「こうやって二人でいると、昔に戻ったみたいだな」
「ふふ。そうだね」
美影も零も決して多弁な方ではないが、気まずさはなく、二人の間には常に穏やかで優しい空気が流れている。
「名残惜しいが、そろそろ行かないとな」
協力して食器を片づけた後、零は一足先に背広に着替え、鞄に妖怪の詳細な情報を記した資料を入れて準備を始めた。まだ六時を回ったばかりだが、妖怪の出没は不定期なので、可能な限り早い時間に家を出なければならない。実力のある神在は皆家を出るのが極端に早い。美影は彼を見送ろうと玄関まで付いていく。
「美影。今日⋯⋯デートに行かないか?」
赤く染まった顔を彼女に見られないように、零は少しうつむいてそう言った。
「⋯⋯行きたい」
美影の頬も微かに赤く染まっていた。
美影は学校を、零は仕事を終えれば幸せな二人きりの時間が待っている。
そう想うと、嬉しくて堪らなかった。
「迎えに行くから、今日は一緒に過ごそう」
「うん。楽しみに待ってる」
小さく手を振る美影に手を振り返し、零は晴れやかな表情で仕事へ出かけた。




