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美咲と陽菜〜ひまわりと太陽〜

作者: のこのこ

 教室の一角で、美咲(みさき)は窓の外をぼんやり眺めていた。午後の柔らかな光が、彼女の長い髪を照らし、静かな教室に温もりを添える。今日はいつもと違う静けさがあった。絵を描くのが、大好きだったのに、中学の時の絵画コンクールが、きっかけで、心から楽しめなくなっていた。


 言葉にできないモヤモヤが心の中に渦巻いて、スッキリとした青空と気持ちがチグハグだった。


 最近、クラスメイトの陽菜(ひな)と仲良くなった。中学の時の絵画コンクールの私の絵を、陽菜は知ってると言った。誰とでもすぐに、仲良くなる明るい女の子だから、話しているうちに、私のこと絵を描くのが、好きな子なんだと思って、それで、喜ばす為に適当に言ってるんだと、この時は、そう思っていた。


陽菜はどこか自分とは違う世界で生きているような気がして、少し寂しい気持ちを抱えていた。


「美咲、一緒に帰ろうよ。」


陽菜の明るい声が届く。いつものように、うなずき、教室を出た美咲は、陽菜の笑顔に包まれながら、自分の心の奥底に隠されたものを探していた。


ある日、二人で絵を描いていた時、元気のない美咲を見て陽菜が


「何か悩み事でもあるの?」


美咲の絵筆が止まり、少し沈黙した後、重く思われないよう注意して、


「ちょっと秘密なんだけど、実は、人前が苦手なの。特に、3人以上になるとね、言葉が出てこなくなっちゃうんだよねー。」美咲は、うつむき加減にそうつぶやいた。普段の明るい笑顔とは裏腹に、彼女の瞳には不安がにじんでいた。


 陽菜は、美咲の顔をじっと見つめて


「わかった、秘密にするね、でも、どうしてなの?私と話してる時は、すごく楽しそうに話せるのに」と。


 美咲は、当時のことを鮮明に思い出そうとしていた。その時のことは、天国から地獄、今でも鮮明に覚えている。心臓がバクバクして、頭が真っ白になり、まるで息ができなくなるような感覚だった。


「あの時、もっと早く、みんなの本音に気づけてたらよかったのに…」美咲は、そっと、つぶやいた。


 はじまりは、ささいな事からだった、それがいつの間にか大きくなってしまった。


その経験から、美咲は集団に対して強い恐怖心を抱くようになり、3人以上になると言葉が出てこなくなってしまった。


 美咲は陽菜の顔から目線をそらして、中学時代のことを話し始めた。


「美術部で仲がいい5人のSNSグループがあって、そこに、それぞれ描いた絵をアップして、ここがいいねとか、アドバイスとかしあってたの、中学3年の絵画コンクールで、はじめて私の絵が優秀賞を取って、みんなからおめでとうって言ってもらえて嬉しくて、そのあと、もっとほめてもらいたくて、何度もその絵をグループチャットに出してしまって…。最初はみんな、しつこいよとか、笑ってくれてたんだけど、だんだんと、みんなの反応が冷たくなって…グループチャットで話しの流れを毎回作る、実質リーダーの子から、突然『自慢好き』とか『優越感に浸ってる』ってDMがきて、あっ、みんな、嫌だったんだって、この時、はじめて気づいて、ちゃんと謝罪のメッセージをグループチャットに送ったんだけど、もう遅くって、いつも、にぎやかなのに、私のメッセージの後、誰も反応してくれなくて、みんな、避けるようになって…

数日後、メッセージが1件きてて、それが、絵の上から✕(バツマーク)で塗りつぶされた画像で…」


 美咲は、うつむき加減にそう話した。


絵画コンクールでの喜びは、絶望に変わってしまった。


 陽菜がうつむいたまま顔を上げないでいる美咲に話し出した。


「私も昔、絵画コンクールで入賞したことがあってね、すごく喜んでいたんだけど、そのあと、SNSで絵のスタイルについて否定的なコメントを受けちゃったの。こんなのでも絵っていうの?とかね。それから、絵を描くのが怖くなっちゃって。」


 陽菜は、そう言って、美咲の絵筆を持った手を握った。


「だから、美咲の気持ち、すっごくわかる。でも、美咲は私よりも、もっと頑張ってる。

そんな嫌なことあったのに、やめずに絵を続けてきたって、すごいことだよ。私は美咲がいる時しか描けなくなったからね。ずっと、続けてきたって才能だと思うよ、美咲の」


 陽菜の言葉に、美咲は顔を上げた。


陽菜の温かい笑顔に包まれ、心が軽くなった。元気が戻ってきた。


「美咲の絵は、すごく温かくて、人の心を動かすものがあるよ。特にあのコンクールで、優秀賞になった絵は、すごく気に入ってて。

見ている人の心を温かく包み込むような、そんな優しい気持ちになるんだ。

だから、美咲の絵もっと見たいし、もっと、たくさんの人に見てもらいたい。」


 陽菜の言葉に、思わず涙がこぼれそうになる。こんなに理解してくれる人がいるなんて、本当にうれしい。


 陽菜は、まるで太陽だ。


近くにいるだけで、温かい気持ちになって、希望をくれる、そういう子。


 陽菜の言葉が、枯れかけた心を潤してくれたみたい。太陽の光を浴びた花が、再び花開くように。


 また、絵を描く喜びを取り戻せそう。


 「美咲、これからも、一緒に、絵を描こうね。きっと、素敵な絵が描けると思う。」


陽菜の言葉に美咲は大きくうなずいた。


 陽菜という太陽の光を浴びて、あの日からしぼんでた絵を描く喜び、楽しみの花がぱっと開いたような気がした。


 陽菜みたいに迷ってる人に、優しさや希望を与えられる人に、なりたい。


 そういう絵を、わたしは描きたい!!

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