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 本営地に突然現れた迷子の魔法使いたちを逃がしてから、セラは後方の支援部隊で仕事をしていた。主に怪我人の治療やその手伝い、銃と呼ばれる武器に玉を詰め、前方まで持っていく言わば下っ端の仕事だ。

 しかし、仕事は退屈だし一緒に作業している仲間の顔も浮かない。周囲にいるのは自分よりも少し年上の青年か、退役した後に駆り出されたご老体のどっちかしか居ない。話をするにも苦労話か過去の栄光の話くらいしか皆話さないので、やがて話題を探すことは諦めた。


『お前、これを前線に届けに行ってくれないか?』


 暇つぶしにさっき見つけた猫を撫でていると、疲れた顔の青年に声をかけられた。その中には救援のための物資と火薬が入れられている。ちまちまとした作業よりかは体を動かす方が良いと、ずっしりと重い箱を受け取った。


「それで、さっき君たちと会ったところに届けに行こうとしたんだけど、途中で誰かに後ろから襲われてね」

「…!」

「襲ってきたやつは魔法使いかと思ったんだけど、一瞬見えた顔は確かに…」


 言葉を途中で途切らせ、セラは顔を曇らせて考え込んでしまった。


「人間はやっぱ怖いねぇ」


 傍らで話を聞きながら治療をしていたフィオナがさっきの声とは真逆にのんびりとした口調で言った。


「それでここに逃げてきたの?」

「あぁ、ちょうどいい洞窟があると思って…君たちの拠点だとは知らなかったんだ」

「じゃあさっき上であった爆発は?セラを襲ったやつがやったの?」

「あぁ、あの爆発を引き起こしたのは、この襲撃の中心にいるやつだ」

「でもそんなに話して大丈夫?ほら、一応僕たち敵でしょ。その人に怒られない?」


 心配そうにセシルが言うと、セラはあっけらかんと笑って頭を掻いた。


「怒られるっていうか、もう処刑だね。あの人めっちゃ怖いんだよ」


 絶対に笑い事じゃないと思う。その言葉を聞いて、セシルも思わず口元を引き攣らせた。彼は笑っているが、例えだとしてもゾッとする言葉だ。

 無意識にセシルの手を握ると、体ごと引き寄せられて頭を撫でられる。半年前は同じことをセシルにしても困惑されたのが懐かしい。


「大丈夫だよ。ここはきっと安全だから」

「うん」

「君たちってすごく仲良しなんだね。ずっと一緒にいるのかい?」

「うん!」

「そう」


 セラが短く答え、なぜか寂しそうに笑うと、セシルは私の頭も撫でたまま彼も抱き寄せた。驚いた顔でされるがままになっているセラを私も撫でる。


「これでセラも仲良しだよ」

「じゃあ私も参加しよっかな、ほらよしよし」

「…はは、これは参ったね」


 治療を終えたフィオナも参加して、セラの髪がぐちゃぐちゃになるまでみんなでセラを撫でた。されるがままになっていたセラは少し笑って、泣きそうな表情を浮かべた。


 少し経ってから、突然入口の方から風が吹いてくる。なんとなくその方向を見やると、師匠がアキおじさんとネルを抱えたまま地面に座り込んでいた。


「師匠!おじさん!」


 ベッドから飛び降りて駆け寄ると、師匠の前にいたネルがアリアの腕を掴んで止めた。どうして、と問う間もなく、また洞窟が揺れて天井から砂埃が落ちてくる。


「あいつら、もうなりふり構わなくなってるんだ。ここはもうすぐ崩れるぞお前らも早く逃げろ!」


 部屋中に響き渡る声で、怒鳴った師匠に抱き上げられたと同時にまた砂ぼこりがたくさん落ちてきた。ぱらぱらと石が落ちてきたと思うと同時に洞窟が崩れ始める。洞窟の中にほかの者たちの悲鳴、そして怒号が飛び交う。治療中の手を振り切って自分で逃げようとする人、それを引き留めようとする人、無言で傍にいる者たちを掴んで転移していく人。

 好き勝手に逃げていく魔法使いたちと崩れ始めた洞窟を見て困惑しているセラの手をセシルが掴んだ。師匠はセラを一瞥して何も言わずに二人を抱えた。


「ちょっと我慢しろ、よっと」


 師匠の警告が聞こえると同時に目の前の景色が変わった。さっき歩いてきた森だ。しかし、さっきとは様子が全く違う。緑に満ちて、まるですべての生き物を包み込むような雰囲気だった森が燃えていた。


「どうして…?」

「僕らのせいだ」

「いいや、これはお前たちの業じゃない。大丈夫だよ」


 鼻先に迫る炎を呆然と見つめながら、セラが手を握り締めた。そんな彼の顔を見つめながら師匠が頭を撫でる。


「さて、新しい顔ぶれが気になるところだが今はそれどころじゃないな」


 片手にアキおじさん、もう片手に私、セシル、セラを掴んでいる師匠の格好は傍から見ればすごいことになっているだろうが、師匠はそれを気にする様子もなく、ただ深刻そうな顔で森を見渡している。


「師匠?」


 何も言わない師匠に思わず声をかけた瞬間に近くの茂みに放り込まれる。一緒に投げられたアキおじさんが小さく呻いて腹を抑えた。思わずおじさんに駆け寄った瞬間にセシルが悲鳴を上げる。


「え…?」


 セシルの視線を追いかけた先で、師匠の体が()()()いた。

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