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「お前、人間だね?」


 その言葉が響いた瞬間、一気に部屋の中がざわついた。その瞬間にいくつかの視線がセシルに向けられる。里長の施した制約によって誰も口を開くことは無いが、居心地のいいものでは無い。セシルの前に出て視線を遮る。


「…」


 一方で黙り込んでしまった少年を見て、さっきアリアたちを逃がした少年セラであることに気づく。


「なんのために来たんだ?魔法使いの格好をしていたところでだませやしないんだからね」

「うっ…」


 魔女がセラの顔にかけられた布を剥ぎ取る。その下から現れた顔にも今しがた出来たばかりの火傷がある。それに触ったのか彼は顔を顰めた。


「あ、痛かった?ごめんねぇ」


 治療班の本能か、火傷を見た彼女はセラよりも顔を顰めて治療を始めた。急に雰囲気が和らいだ彼女を見てセラは目を見開いて固まってしまった。しかし、どうしたらいいのかもわからないようで、ただピンと背筋を伸ばして治療を受けている。

 

「ふざけないで!子供だからって油断しちゃダメよ!」


 1人の魔女が野次を飛ばしたのを皮切りに、周囲の魔法使いたちもあれこれと話し出す。


「そうそう、てかよくここ見つけたわね」

「ここの入口って人の目から隠れるようにしたんじゃなかったか?」

「そうよ、まさかレーナがやられたんじゃないでしょうね」

「フィオナ、もっとちゃんとしなさいよ。ボロが出るのが早すぎるわ!」

「あの子よく見たら可愛い顔してるわねぇ」


 あれこれと話し出した魔法使いたちに、セラはぽかんとした顔になった。もっと憎悪を向けられると思っていたのだろう。それと同時に治療をしていたフィオナと呼ばれた魔女は服の隙間から見える火傷が気になったのか服をめくる。


「えっ!」


 驚いて思わず服を掴んだセラは、顔を赤くしながらこちらに気づいて助けを求めるような視線を送ってきた。フィオナはおや、という顔になる。


「あなたたち、お友達?」

「さっきここに来る途中で会って…」


 そう言うと、周りがまた騒がしくなった。好意的なものも敵意に満ちたものも飛び交って、場はあっという間ににぎやかになる。


「あの子たちが尾けられてたのね」

「そろそろ何をしに来たのか教えて貰ってもいいんじゃない?」

「こんな小さな人間の子に何ができるって言うの?きっとただの迷子よ」

「にしても人間はこんな小さい子まで駆り出すわけ?ありえないんだけど」

「坊や、飴ちゃん食べる?名前は?」

「え、と…セラ」


 目の前に差し出された飴玉と魔女を交互に見て、セラは首を傾げながら答えた。そんなセラを軽々と抱き上げた魔女は、周りに困惑する少年を見せて回る。彼女は人間が好きな魔女だったようだが、中には人間嫌いの者も多いので大半には適当にあしらわれている。


「あ〜!なんて可愛いの?アネリの所のあの子を見る度にいいなって思ってたのよね。ねぇ、セシル、あなたにも…仲間が出来たら嬉しいんじゃないかしら?」

「セシル?」


 されるがままになっていたセラは、おもわずその名前に反応してしまった。その名前は奇しくも半年前に亡くなったはずのセラの友人と同じ名前だ。珍しくない名前とはいえ、反応してしまう。


「あ!お呼び出しだわ!あなたたち、この子の事よろしく〜」


 突然そう言ってセラをセシルと同じベッドに下ろした彼女は、そのまま洞窟から出ていってしまった。急に置いていかれたセラは困惑しきりでアリアたちの方に、弱弱しい顔で向き直った。彼女が出ていったことで、場は一旦落ち着いた雰囲気になって人々は散っていく。

 人間は魔法使いたちの宿敵ともいえる存在だが、嫌悪感を抱きこそすれ強制的に排除するようなことはない。それはレ-ナの命令があるのも一因だが、人間が彼らの敵になりえないことを知っているからでもある。人の使う剣や拳、大抵の攻撃は魔法で防げる。だから人間の子供1人同じ空間にいたところで警戒する対象にはならないのだ。

 人間嫌いも人間好きも、さして気にしていない者も皆それぞれの持ち場、ベッドに戻っていく。

 

 さっきセラに杖を突きつけていたフィオナが、横からひょこりと覗き込んできた。困惑するセラをセシルの横に寝かせて途中になっていた治療を再開する。


「そそっかしいねぇ、体は大丈夫?人間は弱いからね」

「…なんで治してくれるの?」

「え?私はただこう命令されただけだからね、怪我をした人たちを治療してって。魔法使いだけ、とは言われてない」

「そう、なんですね」

「なんでここに来たの?」

「…あ、あぁ」


 セシルがそっと話しかけた。一拍遅れて反応したセラはセシルの顔をまじまじと見つめる。黙って数秒見つめ合い、セシルが最初に脱落した。


「あの…?」

「あ、ごめん…君が友人、にすごく似ていると思って。髪の色とか声とか…」


 セラが途中で声を詰まらせる。友人というのは紛れもなくセシルのことだろう。人間の街の方でセシルは行方不明、ないしは死亡したことになっているらしい。亡くなったとされる友人本人ではあるが、人目のあるここでは事実を明かせるはずもないので、セシルは少し気まずそうな顔でセラの背をさすっていた。


「そうだ、私の名前はアリアだよ。こっちはセシル。よろしくね」

「もう知ってるだろうけど僕はセラだ、よろしく?」


 まだちらほらと向けられている視線に少し戸惑いながらも、セラはアリアの差し出した手を握った。

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