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閑話 ハロウィン2

「くそっ!客が多すぎる…!全員散ってくれ!」

「ちょっと!お客さんを遠ざけてどうするのよ!」


 人混みの中心、店の軒先で痩せた少年が人に揉まれながら頭を掻き回して叫んだ。セシルよりも少し背が高く、青年と言うにも少年と言うにも微妙な雰囲気だ。その周りにいる者たちは男の異様な挙動に男と一瞬距離を取ったが、近くにいた何人かの魔女がきゃらきゃらと笑いながら通り過ぎるとすぐに元に戻った。店の奥から出てきた店主の魔女がまた叫びそうになった男を店の中に引っ張っていく。


「ここだ」

「本当に大丈夫?」


 大丈夫なはず、だ。いつも来ている店だが、新しい店員を雇ったのだろうか。この店を経営する魔女は長年一人で魔道具を作り、それを売って生活している。彼女は弟子なんて鬱陶しいだけだとつねに公言していたはずだ。なにやら心変わりするような出来事でもあったのだろうか。

 混み合う地上付近に慎重に降りる。店先にはまだ人が入るスペースがあったので、それぞれ片腕に2人を抱きながら地面に降り立つ。

 開きっぱなしになっていた店の中で、新人と思われる少年を叱っていた魔女は新しく来た客を愛想良く迎える。顔を隠す布に着いている繊細なガラス細工がしゃらりと音を立てて揺れた。

 

「いらっしゃい!おや、アネリじゃないか。予約のものは出来てるよ」


 慣れた様子で奥に姿を消した店主は、裏で激しい物音を響かせた後、何事も無かったかのようににこやかな笑みを浮かべて戻って来る。その間、説教から解放された少年は大きなため息をついてうなだれる。店の中は多くの人で賑わっていて、会計を求める客に呼ばれて青年は慌ててカウンターの裏に回っていった。


「はい、これ。身代わりが10個と、魔力供給が10個。あとこっちはいつもの雑草除けと小結界だ。どっかに喧嘩でも吹っ掛けに行くのかい?」

「いや、弟子が増えたから念には念を入れておかないとと思ってな」


 店の中の商品が気になってきょろきょろとしているセシルの頭に手を置きながら、言うと店主はセシルを見て複雑そうな顔をした。店主もセシルを引き取る会議に出席していた一人だったはずだ。


「それにしてもあんたも弟子をとったのか?」

「あ、あぁ…実はあんたに相談したくて…いや、今日はハロウィンだしやめておくけどね。ミライ、何してるんだ!わかんないことがあればすぐに呼べって言っただろう?」


 歯切れの悪い言葉を無理やり終わらせた店主は、ぎこちなく接客している少年を見やって少年の方へと忙しなく走っていった。アネリは渡された品々を確認している。

 店の中に隙間なく置かれ、壁をも埋め尽くす勢いで置かれた魔道具は、セシルには色とりどりの装飾品にしか見えなかったが、アリアは目を輝かせてその品々を見ていた。


「ねぇ、アリアはどんな魔道具が欲しいの?」

「うーん、買ってもらえないだろうけど、あそこに掛かってるきらきらしてるのが欲しい」


 アリアが指さしたのは橙色の石がついた耳飾りだ。どんな効果があるかはわからないが、値段の桁を見るにかなりの値打ちものだ。隣には読めぬ文字で何やら書いてある。


「なんだ?ほしいものでもあったか」

「師匠、あれほしい」


 耳飾りを指さしたアリアの指先をたどったアネリはそれを見て少し驚いた様子で考えこんだ。やはり少し高かったのだろうか。少し黙り込んでから口を開いたアネリの声は真剣な色を帯びていた。


「お前、あの耳飾りの意味わかってないだろ?」

「知ってるよ、だからセシルとつける!」

「あのなぁ…」


 間髪入れずに答えたアリアにアネリは盛大なため息をついた。こういう天真爛漫なところが愛らしく、同時に少し憎らしく思う時もある。


「アリア、お前はセシルに命預けられるか?」

「うん!」


 意味もよく分からずに頷いているであろう弟子に頭が痛くなる。今日は特別な日だ。だからねだられても何か一つくらいは買ってやる気持ちで連れてきたが、よりにもよってなものを選ぶものだ。


「セシルのことだって私がまもってあげるから大丈夫!」

「そういう問題じゃない…とにかくこれ以外のもので頼むよ」

「これが良い!」


 一人魔道具の効能を知らぬセシルは、弱り切った様子で懇願するアネリと頑として譲らないアリアのどちらに味方するか決めかねて、結局カウンターで新人を指導する店主を見る。こちらの視線に気づいた店主は、少年に一言何か注意をしてからこちらに戻ってきた。


「なんかあったかい?」

「あの耳飾りってどんなものなの?」

「あー…あぁ!それはねぇ、2人で片耳ずつにつけるんだよ、そうすれば一生離れられなくなるのさ。でもこれを買ってくのは相当なもの好きだねぇ」


 この耳飾りは、付けた者同士の絆を強固に結びつける不思議な(まじな)いが掛かっている。身につければ犬猿の仲であったものでさえも互いから離れることはできなくなるのだ。しかし、大抵の魔法使いは長い時を生き、単独行動を好む。友人となっても一生一緒にいるほど互いを想い合うことは少ないのだ。アリアは人懐こくほかのものと一緒にいることを好む性格だが、大人になるまでに何かのきっかけ性格が変わることも少なくない。

 それにこの魔道具(耳飾り)の厄介な所は相手の寿命を歪める点だ。ある時、これをつけた魔法使いがこの世を去ったとき、もう片方をつけていた魔法使いはその者の手を握りながら同じ日にこの世を去った。寿命が長い魔法使い同士であれば大して気にならない事だが、人間と魔法使いで付けたとき、これがどうなるかはわからない。何しろ前例のないことだからだ。


「店主、こいつを説得してやってくれ」


 弟子のおねだりに弱い師匠は、自分が折れてしまう前に店主に丸投げした。微笑ましげに二人の子供を見た店主はしゃがみこんで視線を合わせる。


「お嬢ちゃん、これが欲しいのかい?」

「セシルと一緒につけるの。そうすれば離れずに済むんでしょ?」


 少しはっとした。アリアは来年には里を去るセシルとどうしても離れたくないのだ。ただそれだけのひどく無邪気で健気な願いのために、魔法使いの長い寿命を捨てようとしている。


「アリア、これをつけたとしてこの子とはいつまで一緒にいるんだい?」

「一生!」

「セシルは?」

「…出来るだけ長く」

「途中で嫌いになったりしないかい?」

「しないよ!」

「それは大丈夫」

「今日は他の人と遊ぼうとかってならないかい?」

「しない!多分…」

「まあ、今はない、かな」


 少し歯切れが悪くなったアリアとセシルの頭を撫でながら店主は、にこりと笑って子供たちに言い聞かせた。


「いいかい、魔法使いの一生は長い。だから今のうちに人生を決めるなんて早すぎるんだ。だから、もしあんたたちが大人になってその時にまだ一緒にいたいと思うのであればまたここにおいで」

「それじゃ、わたしがおとなになる前に売れちゃうじゃん」

「大丈夫、アリアみたいな子はそうそういないからね。心配だったら取り置きしておくかい?」


 店主の言葉にぱっと笑顔になったアリアは、大きく頷いた。その瞬間に耳飾りを半透明の青色の膜が覆う。この店における取り置き中の商品であることを示す証だ。


「きっと今だけだ。すまないな」


 興味津々に耳飾りを見ている二人に聞こえぬ声で、アネリは礼を言う。苦笑を返事とした店主は毎度あり、とだけ返した。

お気付きの方もいると思いますが、語呂が悪いなと思ったのでタイトルを変更しました。

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