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 確かに掴んでいたドレスの感触が完全に消えるまでその場に立ち尽くしていたセシルは、その後もしばらく座り込んで呆然としていた。

 アリアもそのそばでセシルの手を握りながら一緒に座り込んでいた。物心ついた時からアリアを見守っていた一番の友達が、もういないということが信じられない。いつも気付けば傍にいた彼女、花や薬草を摘むアリアを見守っていた彼女、師匠に叱られたときに慰めてくれた彼女。ふらりと表れて、ふらりと消える。そんな気まぐれな一面もあった彼女。ここで泣いていたらまたふらりと表れてくれるかもしれない、という根拠のない期待は虚しくどこを見ても彼女は居ない。


「リウは神さまになんて言ったんだろう?」


 ふと零れた疑問に、セシルが顔を上げる。そのとき、それまで一言も発さずに一連の流れを見守っていたネルが立ち上がった。服が汚れるのも気にせずに床に腰を下ろしていたアルフィは、手を伸ばして弟子の頬を撫でる。


「あら、帰るの?」

「僕らはここにいない方が良さそうだ。そう思わない、フェリス?」


 腕を組みながら肩をすくめて、フェリスに同意を求めたネルの口元は引きつっていた。フェリスは絶えずアリアの方を気にしてはいたが、ネルの様子を見てとりあえず同意する。何も知らないフェリスはあまりにも多くのことが目の前で起こって、少し気疲れしていたからだ。


「…えぇ、そうね。でも、落ち着いたら全部教えてもらうから」

「そうね、じゃあ私はこの子たちを送っていこうかしら」

「お前は残れ、洗いざらい吐いてもらうからな」


 何事もなかったように立ち上がったアルフィの首根っこをアネリが鷲掴みにして持ち上げた。しっかりとした体つきではあるが、その見た目からは考えられないほどの怪力だ。

 宙に浮かされたまま、楽しそうに手足をじたばたとさせて幼子のように暴れたアルフィは、先ほど二児の母であることが明かされた女にはとても思えない。逃げないよう、魔法で光の縄を作って彼女を縛る。動けば動くほどにきつく締め付ける便利な機能付きだ。


「お前らはレーナに送らせよう」

「?」


 この場にいない人物の名前に全員が首を傾げたが、それと同時に玄関が開いて、噂の本人が何とも言えない顔で入ってきた。


「分かってたか」

「そりゃ分かるさ。伊達にあんたの弟子を200年やってない」

「50年くらいは家出してたでしょ」


 少し前からアネリはレーナでなくとも誰かに監視されている感覚は常に感じていた。

 魔法を使う時、その力の流れ方は魔法使いによって微妙に異なる。どんなに極めても多かれ少なかれその者独特の癖が出る。そのため魔法を使った痕跡があればすぐに誰が魔法を使ったかが分かるのだ。レーナの場合、特にその癖が強い。そうでなくても長年見続けていれば分けられるようになるだろう。


「ずっとこの部屋を覗いていたんだろ?まぁ、なんとも高尚な趣味だな」

「違うって!いや違わないけど…まぁ、あの子を逃がしてしまったのは私だったが、かえってその方が良かったようだね」

「…どうせ、もうほぼ解決したようなものだ。特に困ったことにはなっていないし、詫びがしたいならこの子達を送っていってくれ。アルフィにはまだ説教が残ってるからな」


 光の縄に拘束したアルフィは微動だにしない。おおかた動けないのをいいことに昼寝でもするつもりなのだろう。ほどなくして安らかな寝息が聞こえてくる。


「この子は…まあ、私は一応部外者だし口出しするのも違うね。どうにもならなくなったら持ってきてくれれば代わりに話を聞いておくけど」

「ひとまずこっちでどうにかする。ハヴィへの説明と子どもたちを頼んだ」

「あぁ、それもあったね。了解、じゃあネルとフェリスはこっちにおいで」


 3人は家を出ていく。部屋にはアネリとまだぼんやりとしている子どもたち、それに吞気に眠っている魔女が残された。


「2人とも大丈夫か?」

「…まだあまり気持ちが追い付いていないみたいです」

「…」


 一筋の涙がその白い頬を伝う。まだ幼い子どもが家族の死を受け入れて前を向いた矢先にこれだ。彼女にも悪気はなく、子を思う一心だったのだろうが神とやらの設計ミスによってセシルは二重の悲しみを味わった。アリアはセシルの手を握ったままぼんやりとして話さない。いつも元気いっぱいなアリアにもさすがに堪えたらしい。


「はぁ、こんなことばかりだな…だがお前たちはよくやってるよ。泣いたって誰も咎めやしないさ」


 床に座り込んで二人の子供の頭を撫でる。ふと、アリアの小さな頭が揺れた。下を見るとアリアがこちらを見上げていた。


「ん?どうかしたのか」

「こんな時に言うことじゃないかもしれないけど…」


 表裏がなく、すぐに言いたいことを行ってくるアリアにしては珍しく言い渋っている迷った様子でセシルの方をちらちらとみるアリアに対してセシルは何のことかあまり分かっていないようだった。


「気にしない、どうしたんだ?」

「ネルにセシルの目、見られちゃったかも」

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