表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/68

34

「ひっ…」


 思わず一歩後ずさると、全員が一斉にこちらを見る。


「どうしたんだ?」

「目が…」

「目?」


 地面を指さすと怪訝な顔をしていたフェリスが顔色を変えて叫んだ。よくよく見ると目以外にもかすかに体が透けて見えている。しょんぼりとしていたアリアはその目を見て、ぱっと顔を上げた。


「さっき見えた変なもの!」

「ちょっと、変とか言って怒らせたらどうするんだ」


 ネルが慌ててアリアの口をふさぐ。フェリスは二人の服の首元を掴んで、なりふり構わず玄関を開けた。置いてかれそうになったセシルの手をアリアがとっさに掴む。4人でもつれ合うように家の中に転がり込んだ。


「どうしたんだ、忘れ物か?」


 机で作業をしていたアネリが不思議そうに4人を見た。何かの薬を作っているようで苦く香ばしい香りが漂っている。思わずフェリスと顔を見合わせた。


「外になんか、変な目があって…」

「変な目?変な人じゃないのか?」

「目!目が合ったの!」


 慌てて言い募るアリアは当てにならないと師匠がこちらに顔を向けた。


「…本当に目があったんだ」

「私も見たわ」


 口々に妙なことを口走る子供に首を傾げながらも、とりあえず結界を起動しようとアネリは杖を取り出す。その瞬間に勢い良く扉が開き、黒い何かが転がり込んできた。その塊は勢い良く玄関に立てかけてあった箒にあたってその衝撃で落ちてきた花瓶の水を被る。ガラスの花瓶は割れずに床に転がった。

 少し前にセシルの母とリウがぶつかり合った時の損壊具合を見て、繊細な置物や道具には簡易の強化を施しておいたのが早くも役に立ったらしい。


「!?」

「いたぁ」


 先ほどの目が飛び込んできたのかと全員が警戒したとき、気の抜けるような涙声が聞こえてくる。その声を聞いたネルは、驚きと呆れが混じったような声でその塊に話しかけた。


「師匠、何やってるんだよ」

「冷たいねぇ、弟子のいるところに師匠がいるの。何もおかしくないでしょう?」


 塊だと思っていたのはネルの師匠であり、アネリの厄介な友人のアルフィだ。体をすっぽりと覆う真っ黒な外套の裾を払いながらのそりと起き上がったアルフィは乱れた髪を整えながら立ち上がった。アネリが杖を軽く振ると、空きっぱなしになっていた扉がひとりでに閉まる。閉まった瞬間に薄い膜のような靄が窓を覆った。結界が起動したのだ。


「で、何の用だ?何もないなら今すぐに追い出すが」


 冷たい声音で話しかけるアネリを気にする様子もなく、流れるような動きでアネリにぴたりとくっついてその頬を様々な色で彩られた爪でつついた。


「なんだか不穏な感じがしたから様子を見に来たのよ」

「どんなふうに?」

「子どもたちが慌てて家に入っていくのが見えたから、それで何がいたのか玄関を見たら血まみれの女が這いつくばっていてね。挨拶したら殴られてしまったわ」

「お前も見たのか、血まみれの女…?」


 ふと例の襲撃以前にこの家で散々暴れたセシルの母、チェルシーを思い出す。彼女だろうか。セシルはまだ母があのような状態になっていることは知らない。もし別の何かであればいいが、彼女が何かの拍子に出てきてしまっているのならば非常に複雑かつ面倒な説明が必要だ。


「実体があったのか」

「えぇ、かなり強いわね。それに里長の家の近くで似たような気配を感じたことがあったけど同じやつかしら」


 転がって入ってきた時とは打って変わって真剣な話し合いモードに突入した師匠の袖を引っ張る。


「これは外に出ない方がいいあんけん?」

「そうだな、お前らは中で遊んでな。てかそんな言葉どこで覚えたんだ?」

「里長」

「やっぱりな」


 肩をすくめた師匠は階段の方を指さした。上で遊んで来いということなのだろう。


「わかった!」


 3人の元へ戻ると、人形作りを再開していたフェリスが顔を上げた。今作っているのはセシルの人形らしい。銀髪で鮮やかな夜空の目が付いている。師匠の方を気にしながらも、フェリスの鮮やかな針さばきに興味を引かれたらしいセシルはその手元をじっと見つめている。


「上行こう」

「あぁ、そうだね。フェリスは一回道具しまって」


 渋りながらもフェリスが気だるげに持っていた針と人形を空中に投げる。投げ出された人形と針は一旦宙で静止して、跡形もなく消えた。

 思わず感嘆の声を上げるセシルにフェリスは満更でもなさそうな様子でふん、と鼻を鳴らした。

 そんな2人の手を引きながら、階段を上る。ネルは自分の師匠と何やら話をしてから上がってきた。


「どうしたの?」

「なんでもない、どのくらいで終わるか聞いてただけだよ」

「ふーん…じゃ、行こう」


 あんまり気にしてない様子で返事をしたフェリスが、扉を開けた瞬間に1階で何かが壊れる音と耳が痛くなるような甲高い悲鳴が響き渡った。驚いたセシルは肩を大きく震わせて思わずアリアの手を握る。


「師匠…!?」


 思わず転びそうな勢いで階段を降りると、手をつないでいたセシルはその速さに反応できずにそのまま転んだ。そのまま数段、2人で転がり落ちる。顔の布がめくれていないことを確認して、セシルを確認する。その瞬間に体がすっと冷たくなる感じがした。慌てて覆いかぶさるような格好になってセシルの顔の布を直す。


「アリア!セシル!だいじょう…」


 しかしネルの途切れた言葉に一歩遅かったことを知る。見られてしまった事実をごまかそうと、一瞬の間にいくつかの言い訳が頭の中を駆け巡ったが、年上でアリアよりも頭がいいネルをなんとかできるような名案は思いつかなかった。


「何もないよ、ちょっとあぶなかったけど…」

「アリア、セシルは…」

「何でここにいる!上に逃げろ!」


 感情の消えた声音でアリアに語りかけたネルの声は、飛んできた師匠の鋭い声にかき消される。はっと顔をあげると同時にまた悲鳴が響き渡り、その次に師匠の舌打ちと声が聞こえてきた。その方向には異様な血塗れの女とその女に杖を構える師匠たちがいる。


「お前!やる気ないだろ!」

「いや~?なんかこの子、見覚えがあるのよねぇ」


 師匠の様子に比べて、いつものようなのんびりとした口調で返事をしたアルフィは、風を巻き起こしながら泣き叫ぶように耳ざわりな声を上げ続ける女を、片手で捕まえて鼻先が触れそうなほど近くで見つめた。意外だったのか女もその行動には思わず悲鳴を上げるのをやめて、血の涙を流したまま口を開いたまま首を傾げた。


「ぉ…カあ、さ…マ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ