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 もぞもぞと隣で体を動かしている師匠の動きにつられて、いつもと違うベッドで目が覚める。すぐ横にある木をくりぬいて作られた窓からは、眩しい朝日が差し込んでいた。


「やあ、おはよう」

「ぁ、あ……おはよう」


 まだ眠たそうな声だ。ゆっくりと目を開けると、目の前にはまだ穏やかな寝息を立てるセシルがいた。昨夜外してから布はつけないままになっている。ふと興味が湧いてその髪に触れてみる。ここに来る前まではきっと大事に手入れされていたであろう銀髪は少し乱れているものの、さらさらと指の間を引っ掛かりもせずに流れていく感触が楽しい。

 セシルの髪で一通り遊んで、体を起こすと里長が師匠にちょっかいをかけている。迷惑そうに里長の顔を押さえながら起きた師匠は大きなあくびをした。

 部屋の中を見渡す。しかし、部屋の中に彼女はいない。毎朝起きるたびに挨拶をしていたもう一人の友達はやはり、アリアの前から姿を消してしまったようだった。


「アリアも起きたな」

「…?よく起きれたな」


 下を向き、背を向けながら師匠は目をこすっている。もし何かの間違いで布が落ちても誰も巻き込まないためだ。


「…ぅ」


 部屋の中に小さなうめき声が落ちる。まだ眠っているセシルはどうやらうなされていた。軽く揺さぶってみるが反応はあまりない。


「やだ…」


 震える肩に触れた手がぺしりと弾かれた。驚いて思わず手を引っこめる。叩かれた手をぼんやりと見ていると師匠がセシルをじっと見て、安心したように言った。


「うなされてるだけだろう。呪いの気配もない、そのうち目を覚ますよ」

「でも…」


 まだうなされているセシルを改めて見ると何かを探すように手を動かしている。

 

「と…さま…かあ…さま」

「…」


 部屋に重い沈黙が落ちた。アリアはもうどうしていいか分からなくなってセシルの手を握ることしかできなくなってしまった。両親の記憶はない。まだ赤ん坊のうちに里に来たからだ。けれどそれがアリアにとっての師匠やリウのような存在であることは知っている。セシルが目覚めるまで師匠が人間について語ってくれた話の中には親という存在の話もあった。

 手を握ったセシルの顔は少し和らぐ。ここに来る前の遭遇した悲劇の夢でも、昔の日の記憶の再現であっても夢の中の彼が救われたのだったらそれは良いことだと思う。


 2人の様子を見ていたレーナはおもむろに口を開いた。


「ねぇ、アネリ。あなたはセシルにどのくらい記憶が戻っているかわかる?」

「わからない。でも家族のことを話した時はあんまり動揺していなかったみたいだぞ」

「本人に聞いたことは?」

「無い。無理に聞いてトラウマを掘り返したら嫌われそうだからな」

「あのやんちゃだったアネリがこんなにも人を思いやる心を身につけたなんてね。私は涙が出そうだよ」

「またそんなこと言って。はいはい、あんたのおかげだよ師匠」


 感傷に浸りレーナに、軽く茶化すようにとどめを刺したアネリはため息をつきながら、弟子たちの方を見た。それと同時に涙をこぼしながら目覚めたセシルは茫然としている。


「おはよう、だいじょうぶ?」

「…」


 問いかけてもまだぼんやりとした瞳でこちらを見ている。星がまだ残っている、朝と夜の変わり目の空のような色をした目からまた一粒涙がこぼれた。その涙を袖で拭う。

 ふと袖を見ると、昨日着た服とは違うものだ。寝る前に師匠が着替えさせてくれていたらしい。洗濯物が増えるのを嫌う師匠の顔をうかがうと、何も気にしていないような顔でそっぽを向いた。


「朝から怖い夢を見たみたいだね。でも大丈夫、どんなに怖い夢でもおいしいご飯を食べれば薄らぐからね」

「ご飯できたよー」


 明るく言ったレーナに示し合わせたように、下の階からアキの声が響いてくる。あまりにも奇跡的なタイミングで、アリアと目を合わせたセシルは思わず笑った。







「それは大変だったな」


 一階に降りてきて、深刻な夢の内容もそこそこに意外と早く立ち直ったセシルと一同は食事を始めた。悲痛な顔をしながらアキがサンドイッチを頬張った。


「両親が…死んだ時のことはまだ思い出せないんだ。でも今日見た夢はその記憶の欠片みたいで…あれが本当に起きたなんて信じたくないけれど」

「待ってくれ、あの日の記憶は全くないと?」


 サンドイッチにかぶりつこうとしていたアネリが、頭を抑えながら聞き返す。


「私はお前に教えたときの反応を見て、てっきり…」

「あの時はびっくりして何も言えなくなって…でも初めて聞いた感じはしなかったから多分、そのときの驚きや悲しみだけ覚えてるんだと思う」


 思い出そうとしてもやはりつかみどころ無く、霧のように消えていく。その時、玄関を叩く音がした。


「昨夜の件だろうね。アキとセシルはあれをつけて」


 レーナは自分の目元を指しながら、来客の対応をするために部屋を出ていった。

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