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「さ、夜も遅い。今日はいろいろあって疲れてだろう、二階の部屋でお休み」
「そうだな、明日からは被害状況も確認しないと。あ、アネリにはこれを返そうと思ってたんだ」
アキが首掛けていたネックレスが師匠に手渡そうとしたとき、ふとこっちを見た。いたずら気に笑った顔はアネリガ浮かべる表情にどこか似ている。
「セシルはこれから先も使うだろ、つけてみるか?」
間近で見ると一つ一つの石の荒々しさが余計に引き立つ。個々の石は原石としては申し分なく、削ればきっと綺麗な装飾品になるであろう輝きを放っている。
渡されたネックレスの重さに驚きながら横を見ると、アリアも興味津々そうな顔で見ている。魔法が使えるものにはなじみのない道具なのだろうか。
「上品な坊ちゃんには見覚えがない感じの雰囲気だろうな。この石は私が作ったもので、形を整えると性能が低くなる不良品なんだ」
呆れたように言いながら、ネックレスをそのまま回収したアネリは帽子にそれを放り込んだ。もう少し見ていたかったと残念に思いながら、隣を見ると同じように少し残念そうに口の端を下げているアリアと目が合った。
「お前が使うものはもう少しきれいに作りたいと思うが、なにぶん私はそういうものの造詣に深いわけじゃないからな」
「僕のもちょっとコンパクトにしてほしいなぁ、なんて」
「あんたはあれで十分だ。てかレーナにもらったものをちゃんと身に着けていろよ」
「あぁ、今日はうっかりしてただけだっって。もう子供たちも眠そうだし、おやすみ」
「おやすみ」
軽口を交わしながら、2人に礼をして3人は部屋を出る。こうして挨拶をしたのは何年ぶりだろうか。歩くたびに彼女の弟子としてこの家で過ごした日々が蘇ってくる。入ってきた玄関の横にある階段を登りながら、ふと後ろを見ると2人は目をこすっている。一度は軽く眠ったものの、成長盛りな子供に足りるはずもない。
他人を信用せずに、レーナとアキの手を焼かせていた子供は今は弟子を二人も持つ魔法使いに成長した。2人がかつてのアネリなんかよりもよほど良い子であることは言うまでもないが。
「あと少し耐えてくれ。部屋はすぐそこだから、な?」
セシルの方が眠そうだ。アリアは、もう半分夢の世界に旅立ちかけている少年を支えながら、階段を登っている。苦笑しながら取り出した杖で2人を腕の中に手繰り寄せる。温かな子供たちの体温を感じると同時に甘美な睡魔が襲ってきた。
いよいよまずいと半分ほど残っている階段をなんとか上り、かつて過ごしていた部屋を開ける。散乱した本、試作しては破裂して無数の魔道具の破片が散乱した床。軽くその破片や本を部屋の片隅に追いやりながら、何十年ぶりかに戻ってきた部屋に懐かしさを感じる暇もなく、一人用のベッドに子供たちを寝かせて、ほこりをかぶった毛布を魔法で清潔にして掛けた。
お互いを抱き合うように寄り添って眠っている子供たちをぼんやりと眺めながら、帽子の中から布団を引っ張り出して広げると、ベッドの横に置く。
横になった瞬間にアネリは泥のような深い眠りに落ちていった。
一方でアリアたちと別れて家に帰ろうとしていたハヴィは己の弟子に少しためらいながら話しかけた。
「セシルとは仲良くできそう?」
「何?」
集中して人形を一針ずつ縫っていたフェリスは不愛想に返事をする。金髪に夜空のような瞳を持つその人形はほぼ完成に近い。フェリスが以前、アリアにあげると約束したものだ。
「なんでそんなこと気にするの」
「まぁ、悪い子ではなさそうだったよね」
自分の意思に大人の介入を受けるのを酷く嫌うフェリスは、持っていた針を宙に置いてハヴィを睨んだ。ハヴィはハッとして顔を背けた。ネルはそのぎこちない雰囲気に耐え切れず、その間に割って入る。じとりとしたフェリスの視線を受け止めつつハヴィを見ると、ネルの言葉に胸をなでおろしている。その様子を見て、フェリスの雰囲気がより一層鋭くなった。
「もしかしてあなたがあの子を助けてきたの?私みたいに」
「…えぇ、そうよ」
ハヴィは言い当てられて言葉に詰まったものの、直ぐに答えた。お互い見えぬ表情を探り合うような沈黙が落ちる。
ネルはこういう時ばかりは空気を読まずに好き勝手暴れ回る師匠がいれば便利だなと思った。当の本人は背後で安らかな寝息を立てていた。
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