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本気で惚れてしまった男の話  作者: 波月カジマ
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本気で惚れていた女の話

私には憧れの人がいた。

幼い頃、暴れ出した馬車馬から身を挺して守ってくれた、一つ歳上の従兄。

その一件の後、あの人は事故に怒った伯母様によってお城に来ることを禁止されてしまい、それ以来会えなくなった。

だから今のあの人がどんな人なのかは解らない。


あれから幾つも齢を重ねてきても、あの人のような人には会えなかった。

だから私はお父様に相談して、あの人の通う学校への転入を願い出た。

もしまだあの時のままのあの人ならば、嫁に行きたい。


お父様は盛大に渋ったが、お母様を味方に付けていたので押し切った。

ただ、身分を隠すことを条件にされた。

あの人は、私が王女だから守ったのかもしれない、と。

王女でなくても同じように接するものかを見ろ、と。


顔を地味に見せる化粧もされた。

あり得ないほどダサい眼鏡も掛けさせられた。

髪型も昔の形の三つ編み以外を禁止された。

描き込むそばかすの数まで決めようとしたところでお母様が止めてくれた。

いろいろあったが、私はなんとかあの人の通う学校へと通うことが決まった。


いざ通い始めると、あの人はとんでも無いことになっていた。

いや、あの人自体は変わっていなかった。

ただ、どう見てもライバルになりそうな女が周りに何人もいたのだ。

状況はとんでも無く悪かった。


あの人はとても無骨な顔をしている。

先代辺境伯であるお祖父様の若い頃の写し絵にそっくりだ。

だから私は安心していた。

顔が良いお兄様にうつつを抜かすようなご令嬢たちばかりを見ていた私は、あの人はきっと人気が無いと思い込んでいたのだ。


あの人の良さは私だけが解っていれば良い、そう思っていたのに蓋を開けてみれば状況はまったく違っていた。

よくよく考えれば分かることだ。

私のように、切っ掛けがあればあの人の良さに気付いてしまう。

私は編入早々、猛勉強して飛び級した。

そして人の悪意というものを初めて知った。


王女という肩書きが無いと、こんなにも私は無力なのだ。

虐められていることに気付いた私は、悪意を向けてきたクラスメイトに抗議した。

そして嘲笑われた。頬を叩かれた。


頬の痛みはなかなか引かなかった。

悔しかった。情けなかった。そして涙が出た。

破かれた教科書を胸に抱いて、いつか復讐してやると心に誓った。

そしてあの人に声を掛けられた。


あの人と同じクラスに入れたことで安心しきっていた私は学力テストの順位を落としてしまっていた。

あの人は虐めが原因だと思ったらしく、勉強を教えてくれるようになった。

破られた教科書の代わりも、「金はあるから気にするな」と用意してくれた。

何も言わず、何も聞かずに私の勉強を見てくれた。

私はまた惚れた。


そんなある日、私は教室の雰囲気がどんどん悪くなっていることに気付いた。

具体的にはあの人と、私を嫌っているグループの5人が声を交わすことが無くなった。

言い争っているわけではない。ただ誰一人目を合わせることも無いのだ。

たぶん、私の知らない所で何かがあったのだろう。


私は気付いていなかった。

あの人が孤立していたことに。私を庇うことで、孤立してしまっていたことに。

私はあの人を止めた。聞いてくれなかった。

だから私はあの人から距離を置くことにした。


寂しかったが勉強は一人でした。

心配掛けたらあの人はまた私のそばに来てしまう。

本当は一緒にいたいけど、それは私の我儘なのだ。

私は絶対にあの人と結婚する。だからあの人にとって一番良い道を考えなければならないのだ。

今はあの人に楽しんで学校に通って欲しい。


あの人がまた新しい女を救って惚れられていた。

殺意がわく。


その後、何人の女があの人に惚れたか数えるのも億劫になってきた。

諦めて身分を明かし、あの人が売約済みであることをその都度説明した。

あの人に惚れた同士でもあるので、あの人の友人や良さげな騎士との仲を取り持っていたら、いつしか仲人王女と呼ばれていた。

そしてかつてのライバルたちは婚約者持ちの友人となり、友人たちとのお茶会でつい「顔で選ばなければ良人はいっぱいいる」と言ってしまったがために、さらに友人たちの姉妹や縁者の仲人もする羽目になった。

いつしか学校内に私の派閥が出来ていた。


そしてあの日。

私は派閥の子に教えて貰ったかつての苛めっ子たちの悪巧みの証拠を掴むべく、友人たちと隠れて教室を見張っていた。

そこにあの人が踏み込んだ。


止める間も無かった。

気が付いたら苛めっ子たちが泣いて謝っていた。

あの人の瞳が見たこともないほど冷たかったのを覚えている。

このままにしていては恐ろしいことになる。そう確信した私たちは、大声を上げて先生を呼んだ。

あの人は一度もこちらを振り返らなかった。


あの人は何も言い訳しなかった。殴った理由も言わず、何かを決意したような目をしていた。

怖気が走った。あの人は私のためにまた何かをしてしまうのではないかと。そして今度こそ取り返しがつかないことになるのではないかと。

あの冷たい目が忘れられない。

今度こそ、私が何とかしなければいけない。


あの人が放校処分を言い渡された。

私達が真実を伝えれば処分は取り消されるかもしれない。

でも、あの人は何かを決めているようだった。

今は学校から離れていたほうが良い。その間に問題を解決して、その後に呼び戻そう。

私達はそうしてあの人の放校処分を黙って見守った。


戻ってきた5人は早速動いた。

なのでお父様お母様に今までのことを報告してお願いした。

5人は逮捕され、あの人は学校に戻ってきた。


私はあの人に愛されていることを知っていた。

普通の感覚であれば、あれだけしてくれていれば気付く。

そして私はあの人に愛され続けていたかを知ることを恐れていた。

だから自分の身分を明かし、ライバルたちをどんどん婚約させていった。

自分から離れたくせに。


あの人は私を好きでい続けてくれていた。

そしてやはり怖いことを考えていた。


そこまで好きでい続けていてくれたのに、あの人からあの人のことを忘れてくれと言われて泣いた。

沸々と怒りがわいた。

それからは毎日毎日いかに自分が怒っているかを纏わりついて何度も詰った。

もちろん嫁探しなんてさせなかった。

両想いが決定したのでお母様と伯母様に報告して婚約を結んでもらった。

卒業式では制服のボタンをすべて強奪した。


これから私はあの人に会いに行く。

私も好きですと伝えるために。

王城で馬車馬から守ってくれた時から、学校で虐めから守ってくれた時から。

2回も好きになっていたことをちゃんと伝えるのだ。

あなたが好きになってくれたという私の笑顔を添えて。


いつかきっとあなたの笑顔も見られる日が来ますように。




‡‡‡‡‡‡‡‡

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