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ラスボス登場!!

「ふぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!しねええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!ぶらあああああああああああああああああああああああああ!!」


『敵のスカウトをキルしました。敵生存者は残り、四名です』


 淡々とした脳内アナウンスが脳内に響き、プレーヤーネーム「KamiKaze」は更に敵陣の奥深くに侵入する。顔は塩顔の美男子風であるが、その目は血走り、舌はあるべき場所を大きく逸脱しおり、涎を周囲にまき散らしていた。服装はあまりにも目立つ真っ白のTシャツに地味な灰色のズボンであり、いわゆる初期スキンと呼ばれるもの呼ばれるものであった。

 曲がり角を曲がると瓦礫の中に待ち構えていた敵が飛び出してきた。


「KK!!この馬鹿がッ!死ねッッ!!」


「あはぁ~ッ!!みづげた!!」


「ひッ!?」


 KamiKaze、通称KKは人外じみた挙動で空中に飛び上がると、敵から放たれたショットガンの散弾を回避し、瓦礫の後ろに着地した。


「むふふ、おいしそう。おで、もう我慢できないっ!いだだきますッ!!」


「ぐあああああああああああああッッッ!クソがあああああッッ!」


「ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク。むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃ、ゴクン。ごちそうさまでした」


「あ……俺の…………身体を……食べて…………誰か……カバーを…………」


 敵は背後からのナイフによる刺突でヒットポイントを大幅に減らし、光と共に原子レベルに分解され、死亡した。食われゆく自身の肉体を見て最後に敵は思った。こいつ、漫画の敵キャラにたまにいる大食いキャラみたいだな、と。

 

『ダブルキル!敵のハンターをキルしました。敵生存者は残り、三名です』


 KKは正確には敵の身体を食べているのではなく、敵の死後に出現した「タマシイ」と呼ばれる卵によく似た物体を、塩をふりかけてもぐもぐと食べていた。これはKKの役職、「バーサーカー」のスキルであり、敵を倒すたびに生まれる卵、もといタマシイを食べるとステータスが大幅に上昇するという効果がある。


「ああ、ああああああッッ!んほおおおおおおおおおおッ!きくううううううううううううううううううッッ!きんもちいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッッ!」


 KKは恍惚とした表情で絶頂した。身体が少し軽くなり、感覚が鋭敏になったと錯覚する程度の効果しかないはずが、完全に危ないクスリをキめた中毒者の様相を呈していた。


『KK~、そっちに二人行ってるよ~ん』


 無線で聞きなれた甘ったるい声が聞こえると同時に、KKは前方の廃墟に窓を蹴り割って侵入し、壁を背にして窓から首を少し覗かせる。


「うぎゃッ!?」


 マズルフラッシュが光リ、慌ててしゃがんだKKの頭上を銃弾が通り抜ける。敵は足音を隠す必要がなくなったとばかりに廃墟の窓とドア、二つの入り口から同時に接近してきた。


「死ねこのいかれ野郎ッッ!!」


「おいッ!先走んじゃねぇッッ!」


「とうッッ!だだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ」


 敵の挟み撃ちの連携のずれを確認したKKは、廃墟にあったテーブルを窓側に倒して盾にすると、ドア側の敵にアサルトライフルを連射した。リコイルを完璧に制御したKKの放った銃弾は、敵をハチの巣にした。


「だだだだだだだだだだだだ、ありゃ」


 あと一発で倒せるというところで、カチッという乾いた音と共に、アサルトライフルが弾切れを起こしてしまう。


「喰らえええええええええええッッ!!」


 背後から迫ってきた銃弾をKKは敵を盾にして防御するが、相手は味方ごとこちらを撃ちまくり、貫通した銃弾が右腕に命中し、ヒットポイントと片腕を失う。


『敵の同士討ち!敵生存者は残り、二名です』


「弾切れまで撃ちやがってこの間抜けがッ!キルポイントもらったああああああああああッッ!」


 KKはもはやリロードする余裕はないと、アサルトライフルをその場に捨て、無手で脱兎のごとく逃げ出した。凄まじいスピードで左右に身体を動かし、弾を必死に避けようとする。

 その間抜けな姿に完全に油断しきった敵は、逃げ回るKKをゆっくりと追い回し、ついには障害物のない荒野のエリアまで追い詰めた。


「お前、あのKKだろ?ランキング二位の」


「ひ、ひひひひひひひひとちがいだよ?ぼ、僕は悪いKKじゃないよ?」


「てめえッ!舐めやがってッッ!」


 壊れた人形のように首を振り、目をウルウルさせて否定するKKに煽られたと思った敵は、片腕で荒野に這いつくばるKKの頭に丁寧に照準を合わせる。


「バンッ!」


「え…………なんれ…………」


『サードキル!敵のレンジャーをキルしました。敵生存者は残り、一名です』


 KKは先程の盾にした敵の懐から拝借した拳銃で、頭を正確に打ち抜いた。

 タマシイが生成され、KKは先程までとは打って変わって、真顔でそれを黙々と咀嚼する。


「最上位帯でこれか……そろそろ潮時かもな」


「ちょっとちょっと~っ!」


 甘ったるい声にKKが後ろを振り向くと、ウサギのお面を被った女が立っていた。


「今の『そろそろ潮時かもな』(キリッ)って台詞、明らかにキャラ崩壊してるよぉ~っ!ウチの憧れた狂人KKは、そんな共感性羞恥感じること言わない~」


「…………」


 KKは耳を赤くして沈黙し、唯一生存している味方の女、「ラビ」の喋るたび揺れる豊満な二つのメロンを目で追うことしかできなかった。


「まだ一人残ってるでしょ~?例の君のライバル(笑)が!」


「おいラビッ!!このネカマ野郎ッッ!今笑いやがったなっ!今に見てろよっ!サービス終了までに、あのチート野郎を、絶対に倒してやるからなっ!」


「あいつがチートって~もう何年前の疑惑よ~。あんな有名プレイヤーのチート検証なんて~とっくにされてるって~。それより腕見せてみぃ~?」


 ラビは仮面越しだが恐らくはにやにやとした笑いを浮かべたまま、自身のスキルでKKの右腕を回復し始めた。しばらくして、にょきにょきとKKの腕が生えてくると、ラビは再び口を開いた。


「感謝の言葉が聞こえないなぁ~?」


「…………ありがとう」


「え?愛してる?むふふ~照れるな~」


「お前ッ!いつも―――」


 KKが言い終える前に空気を裂くような音が聞こえたかと思えば、目の前にラビの首が転がった。それは生き別れの身体と共に光の粒となって消滅した。


『敵のフォースキル!味方のヒーラーがキルされました。味方生存者はあなただけです』


 KKは瞬時に荒野で突っ伏すが、障害物がないばかりか、どこから撃ってきたかも全く分からなかった。そもそもここで目視できない敵に撃たれるというのは初めてであったし、射程の最も長い狙撃銃でも届かないという仕様上の観点から言っても、遠距離狙撃は不可能であった。不可能であるはずだった。


「あの野郎ッ!どこにいやがるうううううううううううううッ!!………まさか、あれかッ!?」


 KKがスコープを覗いて遠くにうっすらと見える、六階建てで黒塗りの建造物、「セントラルタワー」。その屋上に黒光りするヤツがいた。ヤツはどこにでも現れ、自身に不快な思いをさせる。KKが心の中でG扱いするヤツの名は「Moonlight」。現ランキング一位であり、世界的に有名なプレイヤーであり、人気の配信者でもある。


「こ、この野郎ッ!!今度は狙撃を極めやがったのかッ!?なんで届くんだッ!?ありえねぇッ!そんなの……………………クソかっこいいじゃねえかああああああああああああああああああッ!!!」


 KKはムーンライトという最強のプレイヤーに対抗意識を持ち敵視していたのだが、強さの秘訣を探るため配信を見に行ったことがきっかけで、今ではムーンライト「ちゃん」の熱烈な隠れファンであった。でなければこんな過疎ゲーをプレイしてなどいない。「ちゃん」と付けたのは、ラビと違って正真正銘の女性プレイヤーだからである。ちなみに顔出しはしていないが、かなりの美人という噂だ。


「ムーンライトちゃんんんんんんんんんんんッ!今度こそ君に認められてみせるッッ!」


 KKは左右に小刻みなステップを入れながら、爆発的な速度でセントラルタワーへと向かう。近づけば近づくほどKKの身体をかすめている銃弾は正確になっていき、ついには右足を打ち抜かれる。


「ぐあッ!?クソがあああああああああッ!あとちょっとなのにッ!」


 そこでセントラルタワーの自動ドアが開閉し、中から黒い人影がゆっくりと出てきた。どのゲームでもトレードマークとなっている黒いトレンチコートに顔の大部分を覆いつくす程のでかすぎるサングラス。背中に背負った革のリュックサックにはアサルトライフルが突き刺さっている。


「やあッ!久しいね、KK」


「…………今度はスナイパー極めたのかよ。さすが天才、ムーンライトだな」


「私は天才ではないよ。少しタガが外れてるだけさ」


 KKは配信でよく聞くハスキーボイスを間近で聞けたことによる高揚を必死に抑え、嫌み風のただの賛辞を送る。ムーンライトは微笑みながら銃口をKKに向ける。


「あら、もう諦めムードかい?君ならもうちょっと粘ると思っていたけど」


「他の奴ならともかく、お前相手に足なしじゃ無理だ。さっさと殺せ」


「ふふ、じゃあ遠慮なく」


「…………なんで俺は、お前に勝てないんだ」


 ほとんど独り言であったKKの呟きを目ざとく拾ったムーンライトは、少し考えて言った。


「君、飽きてるだろう?ゲームに限らず、自身の生活、成長、人間関係、社会、娯楽。それら全てを総括した、現実、というものに退屈している。いや、その可能性の限界を理解したつもりになり、諦めて見限っている、のほうが正確かな?」


「なんで…………お前にそんなこと分かるんだよッ!分かったようなことを言ってんじゃねえッ!お、俺はッ!飽きてなんか―――」


『敵のスナイパーにキルされました。味方がいなくなりました。あなたのチームの敗北です』


「ま、て…………」


 KKは暗転する視界の中、ムーンナイトを必死に見上げ、手を伸ばす。ムーンライトは優しい微笑みを浮かべた。


「安心するといい。もうすぐ君の退屈を吹き飛ばすような、面白いことが起きるからね…………」


 KKの視界は完全に暗転し、意識は仮想現実から切り離された。



 




 







 


 


 











 


 






 

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