file.004 ダークエネルギー?
研究室の一室、夢藤健一博士は立ち姿のまま静かに窓の外を眺めていた。
その窓の外には、前回の実験で壊れてしまったプレハブ実験室の再建作業が行われている光景が広がっていた。
夢藤博士は、その再建の様子をしばし見つめていたが、心の中では遠くの宇宙の奥深さを思い浮かべていた。
彼の目にはその宇宙の謎を解き明かそうとする決意と、宇宙の奥深さを感じ取るような輝きが宿っていた。
研究棟のこの室は彼にとって特別な場所であり、そこでの失敗も次の挑戦への糧として胸に秘めていた。
彼の新たな挑戦は、宇宙の謎のひとつである「ダークエネルギー」の採取だった。
研究室のソファーには、なぜかもう1人、夢藤博士が優雅にコーヒーを飲んでいた。
よく見るとソファーの博士は、ちょっとあちら側が透けて見える。
便宜上「薄博士」と呼ぶことにする。こちらの声は伝わっているが、薄博士の声は聞こえない。
研究室のスタッフたちは「また博士の新しい実験かな?」と、気にも留めず、作業を続けていた。
「宇宙の拡大を加速させているエネルギー、それがダークエネルギーです」と夢藤博士は研究仲間たちに語った。
「今まさに我々がいるここも膨張をしております、つまりどこにも行かずともダークエネルギーの取得はできます」
夢藤博士は、テーブルの上に簡単な装置を置いた。
ガラス管が何層にもなっているようなもので、ガラスには特殊コーティングがあり虹色に淡い光を反射していた。
「理論上、真空中にもそのエネルギーがある、そして少しでも取得できれば、この横についているLEDが光るはずだ」
「では、スイッチをオン!」
と夢藤博士がスイッチをオンしようとしたその瞬間、薄博士がそっと、スイッチを押さないように夢藤博士の手を止めた。
意外なことに、薄博士の身体には触れることができたのだ。
不思議に思った夢藤博士を尻目に、薄博士はホワイトボードに向かい、急いで式を書き始めた。
それは
「ダークエネルギー =(現在の真空のエネルギー)-(現在の真空より下の安定したエネルギー状態の真空のエネルギー)」
というものだった。
夢藤博士は式を見て驚愕した。
「この式が示す通り、もし我々がダークエネルギーを採取しようとすると、真空崩壊が発生し、ここの場所から連鎖反応を起こし宇宙の構造が根本から変わってしまう」と、冷静に分析した。
薄博士は真剣な顔で夢藤博士を見つめ、何かを伝えようとしているようだった。
夢藤博士は、その瞳の中に「やめておけ」という言葉を感じ取った。
失敗に終わったものの、夢藤博士は自分の方法は間違っていなかったとなぜか満足げだった。
そして、何事も無かったように奥のソファーに戻りコーヒーを飲む、薄博士がいた。
謎のままだ。