5話「順調な日々の中で」
クリフィスがいつも見守ってくれているおかげで島での暮らしは順調そのものだ。
「おはようございます」
「クリフィスさん、朝早いですね!」
「……そうでしょうか、普通ではと思うのですが」
「あ、なんかすみませんちょっと、変なことを言ってしまって」
「いえいえ、お気になさらず」
クリフィスはかつて国に仕える仕事をしていたらしい。しかしある時上司の大きな失敗を押し付けられ、それによって島流しの刑に処されてしまったのだそうだ。自分ではない、そう言っても聞いてはもらえず、強制的にここへ連れられてきたのだとか。
境遇が似ているからか、私たちはすぐに親しくなっていった。
そして今は共に一つの屋根の下で暮らしている。
「夜は一人で外を歩かないように、引き続きお願いしますね」
「あ、はい」
彼はいつも私のことを心配してくれている。
ありがとうとは思っている。
そして彼に出会えて良かったとも思えている。
「すみません何度も言ってしまって。少し心配性なもので」
彼はいつもそう言って苦笑する。
「そんな……大丈夫ですよ。でも、夜はよほど危険なのですか? そこまで言われるなんて」
「そうですね、たまに良くない輩が出歩いているので」
「あ、そうなんですね」
「気をつけてくださいね。どうしても出たい時には声をかけてください、一緒に行きますから」
「あ、はい! ありがとうございます」
どうやら夜は物騒らしい。
だがまぁ……それはどこだってそうか。
街だって、田舎だって、暗い時間というのは何かしら物騒だったりするものだ。
ここだけが例外、なんてことはないだろう。
「おはよう!」
「あ、おはようございます」
今日もまた平凡な朝が来た。
島は平和そのものだ。
夜は物騒だなんて信じられないくらい。
島民も良くしてくれるし。
「良い朝だな!」
「そうですね」
「聞いたか? お嬢」
「何でしょうか」
「近く、王子が来るらしいぞ!」
井戸から水を汲んでいる島民の男性が教えてくれた。
「えっ……」
「イリなんとかとか言ってたが……知ってるやつか?」
嫌な予感が波のように押し寄せる。
「それって、もしかして」
思わずこぼれる硬直気味の低い声。
「お。知ってるか? お嬢は確か王子と親しかったんだよな。しっかしわざわざここへ来る王子なんて一体どんなや――」
「イリッシュ王子、ですよね」
「ああそうだ! 確かそうだった! 何だ? イリ……」
「イリッシュです」
「おお! イリッシュ! イリッシュだな!」
男性は知らない。
私と彼が婚約していたことなんて。
「彼は私が一番会いたくない人です」
それでもはっきりと言った。
何とも思われてもいい。
生きてきた道を隠す気なんてない。
「お……そ、そうだったのか」
「私はあの人嫌いなんです」
「お、おぉぅ……」
「私を切り捨てここへ追いやった張本人ですから」
あの男にはもう会いたくない――でも彼がここへ来るのならきっと会ってしまうのだろう、想像するだけでも気分が悪いが。
でもいいわ。
来るなら来ればいい。
……どんな顔で現れるつもり?