4話「嘘はほとほどにしないとですね」
「ウルリエ、よくも私を悪女扱いするような嘘をついたわね」
やがて彼女の前に現れたのは王族の女性。
三十代後半くらいの彼女の面には毒々しい怒りの色が滲んでいる。
「何なのよっ、こんなことして」
「貴女、さすがに勘違いし過ぎよ。……聞いた話によれば、イリッシュの婚約破棄も貴女の主張が引き金となったとか。貴女、王家にどれだけ迷惑をかけるつもり?」
女性は凛とした態度でウルリエに接する。
「いい加減になさい」
その声は品のあるものだった。
しかしその中にも怒りは確かに存在している。
「イリッシュを呼んで! すぐに! そうすればあんたみたいなババアには負けないわ!」
「……何の話をしているのかしら」
「イリッシュはあたしの味方よ! だからこそ! あたしはあんたなんかに屈したりしない! いつまでも王家の金で生きている行き遅れのくせに!」
ウルリエが暴言を吐き出しても、女性は動じない。
「……そんなことを言っていられるのも今だけよ」
彼女はそっと微笑んで、それから片手を掲げる。
すると背後の入り口から数人の屈強そうな男が入ってきた。
「あなたたち、この女に罰を与えなさい」
女性はそう命じる。
すると男たちはウルリエの方へと接近してゆく。
「ちょっ……な、何よ……何だっていうの……!?」
「今から罰を与えるわ」
「はぁ!? いい加減にしなさいよババア! 王子のお気に入りにこんなことして問題にならないと思っ――ッ、ヒッ!?」
ウルリエの頬を短剣がかすめた。
「覚悟なさい、ウルリエ」
王族の怒りを買ったウルリエにもはや逃げ場はない。
――それからウルリエはズタズタにされた。
「いやああああ! もうやめて! やめて! いやよ! 離して、怖い、お願いやめてええええええ!」
服を裂かれ、肌に傷をつけられ、彼女の威張ったような態度はあっという間に崩壊。
「誰か! 誰か! 助けてええええ! お願い、いやよおおおお、お願い助けてえええ! 暴力されてるの! 助けて! 助けてえええええ!」
涙やら何やらを垂れ流す、情けない姿を晒すこととなる。
「では次はお顔を」
「やっ、やだ、やめてっ……それだけは、それ、だけは……きゃああああああああ!!」
自慢の顔にまで傷をつけられ、ウルリエは本当に壊れてしまった。
「いやあああああああ!! ああああああああ!! いやあああああ!! やめてえええええええ!! いやよおおおおおお!! あぼあぼあぼあぼあぼらくふとふるふとふとすとおおおおおお!! あぼらあぼらあぼぼぼぼぼぼあぼばぼらふとするとくすとふううううう!!」
もはや自分が何を言っているのかすら認識していないだろう、本人は。
「あああああああ!! いだだだだだ!! あぼぼぼぼぼぼぼぼ!! あぼらあぼららららぼぼぼぼぼぼびふとととととと!! あああああああ!! うごららららららあああああああ!!」
王族の女性はその姿を見て呆れたように溜め息をついていた。
「あぼ! あぼ! あぼら! らぼぼぼ! あぼ! あぼぼぼ! あぼらふと! あてゅてて! あぼ! あぼら! らぼあ! あぼらら! あぼらら! ぼらら! あてゅら! あぼぼ! ぼらてゅらぼふと!」
――罰を何とか生き延びたウルリエだったが。
「がったん、ごっとん、ばしゃがとおりま~す」
すっかり幼児退行してしまい、イリッシュのことも忘れてしまった。