2話「島流しはさすがに酷いです」
「我が友を虐め、さらに嘘を重ねる――そんな悪女は今すぐここから去ってもらう!!」
イリッシュは片手を前方へ大きく伸ばして勇ましく言い放った。
「待ってください! 話が分かりません!」
「黙れッ!!」
「あ……」
「お前は城から追放、そして、それだけではなく島流しだ!!」
彼はもう私を婚約者としては見ていない――否、それどころか、人間としてすら見ていないのかもしれない。
「えっ、そんな、どうして」
「心の穢れた女をこの国に置いておいたら国が不幸になるだろう。だから島流しさせてもらう! 二度とこの国の大地を踏ませない」
それはやり過ぎではないか? さすがに酷すぎるのでは? そんな風に疑問を抱く。でもそれを口にする権利などもはや私にはない。私は今、人権はく奪一歩手前だ。そんな私が何か言ったところで聞いてもらえるはずもない。現にここまで何一つとして受け入れてもらえていないではないか。言い返す方法なんてあるか? 主張を理解してもらう方法なんて存在するのか? そう考えた時、無理、とどうしても諦めが芽を出してくる。
その後私は拘束され、出ていくことを強要された。
城から出ていく時、偶然か否か私のところへやって来たウルリエは、にやりと笑みを浮かべて「お疲れ様でしたぁ」と呟いた。また、いきなりのことでこちらが戸惑っていると、さらに「もう邪魔させないからぁ、うふ、消えてちょうだいね」と付け加えてきたのだった。
どうやらすべては彼女の思い通りになってしまったようだ。
悔しい……。
でもこうなってしまった以上どうしようもない……。
今や私にできることなんてない。
「では島へ送る、これに乗れ」
「……はい」
両親の顔ももう見られないかもしれない、そう思うと悲しくて、涙がこぼれた。
何もしていない。
悪いことなんて。
ただ彼と婚約しただけよ。
――そう叫びたかった、でも叫べるはずもなくて。
「う、う……っ、う……」
その日はずっと泣いていた。
――だが、島流しの先である国から離れた島に到着してからは、色々しなくてはならないことがあったために少しは涙が止まった気がした。
「こちらの手続きを」
「あ、はい」
「荷物はあっちへ置きますね」
「ありがとうございます」
「長い時間お疲れ様でした」
「いえ……」
対応に当たってくれた青年クリフィス。
真面目そうな雰囲気をまとった彼は私を人として見てくれていて、そのことにかなり救われた。
「どうぞよろしく」
「あ、はい。ありがとうございますクリフィスさん。私はこんなぱっとしない人間ですが……でも、どうか、仲良くしていただければ嬉しいです」
知り合いがゼロだと心も折れそうになる。
けれどもそれがイチになったら。
気分はかなり軽くなるというものだ。
同性でなくてもいい、そんな贅沢は言わない。
「アイリーンさんでしたね。失礼かもしれませんが……よければここへ送られた理由をお聞きしても?」
「え……」
思わずきょとんとした顔をしてしまう。
「あ、いえ、言いづらいのなら無理に言わずとも構いませんよ」
「あの……聞いてくださいますか?」
まさか聞いてもらえるなんて。それも向こうから。私みたいな人間に興味を持ってもらえるなんて想定外で、泣いてしまいそうだ。いや、さすがに、いきなり泣いたりはしないけれど。
涙はもうここへ来るまでに流しきった。
「私は王子の婚約者で、でも、彼の友人の女性を虐めたと言われてしまって……嘘なんです、でも信じてもらえず、それで……婚約破棄されたうえ島流しにまでされてしまったのです」