10話「もう迷いません」
「これからどうされるのですか?」
「え。私、ですか」
「はい」
「ええと……ごめんなさい、正直あまり……考えていませんでした」
そこまで言って言葉を止めていると。
「良かったら、なのですけど。これからも一緒に過ごしませんか?」
意外な言葉をかけられて。
一瞬理解できずきょとんとした顔をしてしまう。
え……? ちょ、い、今、なんて言った……? ――そんな感じになってしまって負の意味ではないものの困惑。
「そ、それって……」
「貴女との未来、なんてものを、少し考えてしまって」
真面目なクリフィスがそう言うのだ、きっと嘘や冗談ではないだろう。
それでもなお素直には信じられない。
「無礼なら叱ってください、構いません」
「え……えっと、その……私今ちょっと混乱しています」
取り敢えず本当のことをそのまま伝えておいた。
「どういうことですか? つまり、嫌だということで?」
戸惑いを顔に滲ませるクリフィス。
「違います、そうではありません」
私は素早く首を横に振った。
そう、違うのだ。
これは拒否ではない。
それは確かなこと。
ただ、どうしても思考が追いつかず、それゆえいきなり言われても即座に返答はできなくて。特に人生に関わるようなことだからなおさら、ぱっとは決められないのである。
「では、はいでもいいえでもない、といったような……?」
「あ、はい、どちらかというとそれが近いかもしれません。でも、永遠にではなくてですね」
「……時間が欲しい?」
「そうです! それです!」
勢いよく発してしまった。
思っていたよりも大きな声が出て少し恥ずかしい、でもそんなことを気にしている余裕もあまりない。
「そうですね、いきなり答えろなんて酷いことですよね」
「いえ……酷いとは思いませんが……」
◆
――あれから五年。
「おはようクリフィス。今日はまたとっても良い天気ね」
今日は結婚記念日。
私と彼の特別な一日だ。
私たちはあの島で暮らしている。
でもこの島はもうかつてのような罪人のための島ではなくて――そう、すべてが変わって――今は多くの人が暮らす発展した島となっているのだ。
「波の音も良いですよね」
「クリフィスったらいつもそればかりね」
「好きなんです、波の音」
「そう。……まあ確かに結構良い音よね、海が近い島ならではだし。よくよく考えてみれば私も好きだわ」
あの後私たちは結ばれた。
そして今も幸せに二人生きている。
「貴方と聞けるなら、どんな音だって好きな音よ」
もう迷わないわ。
だってここに確かな幸せがあるんだもの。
◆終わり◆