29わ
「そこの人間よ」
「私の名前はクリストスだ」
「…クリストスか。相当な手練れとお見受けする。お前がこの戦況につけば均衡は簡単に崩れるだろう。いずれにせよ、我らの負けだ」
魔人の長は顔を上げたが、膝をついたまま潔く告げる。
「私は争いを終わらせに来たのだ。どちらかに加担するために来たのではない」
「しかしお前は人間で、私は魔人だ」
「関係ない。同じこのビューティな世界に生きる魂だ」
魔人の長が私の顔を見る。
信じてもいいのか、と問うてきた気がしたので、私は歯を見せてニカっと笑った。
「気持ち悪」
少女から笑顔を否定されて、しょぼくれた。
一方で、魔族の長は私の言葉を受け止めてくれたようだった。
「…魂は、種族の壁を越えられるというのか、クリストス殿」
「少なくとも君の生き様はレアに届いているし、君の言葉も私にちゃんと届いている。壁なんて、初めからないんだ」
「…壁はあるさ。見えない壁だ。何百年も続く、血と闘争に満ちた泥の壁だ」
「確かに、そう簡単にフラットにできるものではないのかもしれない。だが、わかりあうことはできるはずだ」
人間は美しい。
その信念でやってきた私だが、先の戦闘から魔人たちに思うところがあった。
魔『人』だって『人』なのだ。
初めて魔人を魔人と呼んだ先人たちも、分かり合える可能性を感じていたからこそ、魔族ではなく人と呼んだのではないだろうか。
「…正気か、クリストス」
「もちろん」
少女の問いに、ふたつ返事で答える。
「俺たちは、分かり合えるのか」
「もちろんだ、魔人の長よ」
私は爽やかに微笑んだ。
どんな戦場よりも過酷で長い戦闘を続けていたこの場所だからこそ、彼らは他のどの国よりも長い間、魔人と接してきた。
ここならば、人と魔人の架け橋になれる。
きっとなれる。
そう私は確信し、心躍らせた。
事件は、その矢先に起こった。
「うぐっ」
とん、とん、とまな板の上で大根でも切るかのような、軽やかな音がふたつ鳴った。
と同時に、短い悲鳴が届いた。
パチリと弾ける雷の槍が、魔人の長と、治療したばかりの男に突き刺さっている。
「…っ!ヒーリン…」
私が回復魔法を使おうと前に出た。
しかし、正面に魔人の長、背後に人間の男。
どっちが先だ?
ためらったのは、1秒の10分の1にも満たない僅かな時間。
のに。
「なっ…」
尋常ならざる電圧が槍から放たれる気配を覚えた。
私はそれから周囲の人を守るため、大地にアースを作るので精一杯だった。
男たちは、瞬く間に肉片すら残さぬ焦土と化した。




