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第1話 あなたに逢いたくて 第3章

スクープの可能性に浜田と信子の興奮は高まった。


 だが、その興奮はすぐに消え失せた。


 警察署で話を聞かれた親子は、30分後には関係なしとしてそのまま帰されたのである。その後に行われた捜査状況の説明の中でも、親子については何も触れられなかった。


 警察側の発表が終ったあと、浜田は警察署の広報担当である副署長に詰め寄った。副署長は浜田と親しいようで笑顔で迎えてくれた。

「今朝のあの親子はスクープの可能性に浜田と信子の興奮は高まった。


 だが、その興奮はすぐに消え失せた。


 警察署で話を聞かれた親子は、30分後には関係なしとしてそのまま帰されたのである。その後に行われた捜査状況の説明の中でも、親子については何も触れられなかった。

どうしたんですか?」浜田は単刀直入に聞いた。

「ああ、あのK県の親子ね。あれは確かに行動がおかしかったんで署に連れてきて話を聞いたんだけどね、まったく関係ないよ」

「でも、あの少年は何か知っているよう口ぶりだったじゃないですか」

「ほう、近くにいた記者というのは君たちのことだったのか」

「ええそうですよ。近くでよく聞こえましたから、本当におかしなことを言っていましたよ」

 副署長は「ふふっ」とかすかに笑ったあと、少年について説明した。


 「関係なさそうだから名前も教えるけど、あの少年はK県の県庁所在地のK市に住む児玉こだま しんさん17歳で、一緒にいた女性は母親の児玉 岬(こだま みさき)さん43歳だ。説明によると、息子の心さんが1週間ほど前から女性が崖から転落するという不思議な

夢を見るようになったということだった。心さんは中学生のころから、いわゆ『霊感が強い」子どもだったという。このような夢は時々見るそうだが、ほとんどの場合は場所などが分からないままで終わるんだそうだ。しかし、今回はテレビのワイドショーでK県の女性がS県で遺体で見つかったというニュースが放送されたのを見て、『ひょっとしたらこれの夢だったんじゃないか』と思い、『現地を見ればはっきりする』として母親に運転を頼んでやってきたということだった」


 ここまで説明して、副署長は浜田と信子の顔をじっと見た後


「こんな変な話をされても、警察としては全く信じないよね。でしょう。『霊感で事件現場を見た』と言われてもね。かえって疑ってみるよ」


 予想もしなかった話に浜田は

「じゃあ、なぜ帰したんですか?」


「少年の住む、K県の県警に照会してみたんだよ。そしたらね、あの少年、児玉 心(こだま しん)さんはK県では有名なお騒がせ少年で、K県警としてはまったく相手にしていないという回答だった。県内で事件が発生すると警察を訪れ、彼が見た夢を事件の捜査に活用してほしいと言うんだそうだ。そんなことが何度もあってね。警察としては夢の話で捜査する訳にはいかないからね」


「はい、わかりました」

 そこまで聞いて、浜田記者も関係なしと判断したようだ。

「ありがとうございました。」そう言って立ち去ろうとしたところ

 副署長が一言気になることを話した。


「でもひとつだけ不思議なことがあるんだ。今回の女性転落について(しん)さんが夢を見たというのが1週間ぐらい前だというんだ。1週間前というと死亡推定の時期と重なるんだよね。まだ遺体が見つかる前だ。まあ、偶然の一致だろうけど。」


 今のところ事件の線が強いという訳でもないので警察も捜査本部を立ち上げるような状況ではないようだ。浜田と信子は昼の段階で地元反応などの原稿を送って、一応引き上げることになった。


「そういえば朝から何も食べてないな」

 近くには食堂らしきものも見当たらないので、きのう泊まった町営の宿泊施設を覗いてみることになった。

 そこにはあの車が停車していた。


「ねえ浜田さん!」

「なんだい?」

「あの車、今朝の親子のじゃない?」

「ああ、そのようだな。でももう関係ないよ」

「浜田さん、ちょっと話を聞いてみませんか」

「えっ ノブちゃん、オカルト話を聞くつもりかい? そんなの新聞には出せないよ。さあ、早く帰るよ」

「でも、不思議な話でしょう。ちょっと聞いてみましょうよ

。」

「ダメダメ新聞記者ははっきりしないことは書けないんだよ。分かっているだろう」

「でも、気になることをそのままにしてはおけないでしょう。浜田さん」

 必死に食い下がる私に根負けしたのか、10分だけという条件で親子から話を聞くことになった。


 霊感が強いというその少年、児玉 心(こだま しん)さんは毎年多くの東大合格者を誇るK県の有名進学校に通っていたが、1年ほど前の2年生の夏休みに異常な体験をするようになったということで、現在は高校を退学し自宅引きこもりのような状態だということだった。少し前髪が長く神経質そうな感じだが、それ以外はごく普通の男子高校生だなと信子は思った。


「心さんが最初に見た夢はどのような夢だったんですか?」

信子が聞いた。

「ああすみません」

 (しん)は、ちょっぴり困惑したような表情を見せた後、自分の体験について語り始めた。

「私は夢を見たんじゃないんです。いつもうまく説明できなくて困るんで、警察には分かりやすいように夢と言ったんですが、夢じゃなくて実際に体験したような感じが、突然起きるんです」

「実際に何を体験したような感じがするんですか?」

「その、自分以外の誰かわからないんですが別の誰かが怖いと感じたことを私も感じてしまうようなんです。」

「自分以外の誰かとは?」

「それがわからないから困るんです。気持ちが悪いんです。でも、同じような現象が何度かあるうちに、少しずつ分かってくるものもあるんです。例えばニュースになっているような事件、事故などの関係者と同じ体験を感じた場合、その現場に行くと、さらに強く感じるので、ああこの人が感じたことを自分も感じていたんだなと確信するわけです。」

「それで今回も現場に来て確かめたんですね」

「そうです。今回の亡くなった女性についても、崖のようなところから転落する情景を感じるようになったんですが、テレビや新聞をみてもそれらしきニュースがないので、そのままにしていたんです。それでも毎日、深夜の2時ごろになると、同じような転落のシーンが再生され、『転落したのは女性』とか『転落した場所は道路脇の崖』であることが少しずつわかってきていたんです。そして、昨日昼のニュースで映し出された現地の映像を見て『ここだ』と確信し、母にお願いしてこちらに来たんです」


 (しん)はこれまでの経緯を一気に説明してくれた。

 あまり時間がないので質問を急いだ。

「それで(しん)さん。亡くなった吉岡さんはどのようにして崖から転落したのかわかりますか?」

「それは分かりません。ただ女性の悲鳴が聞こえたのは確かです。もう少し時間がたてば分かるかもしれませんが」

 そこまで聞いたところで浜田が口をはさんだ。


(しん)さん、そしてお母さん。お話はよく分かりましたので、ありがとうございました。ただし、にわかには信じがたい話なので、このまま記事にすることはできないと思います。その点はどうかご了承ください」

「ええそれは分かります。何と言ったって僕自身が信じられないんですから」

 了解してくれたので、私たちはもし重大な変化があったら知らせてくださいとお願いして別れた。

                                   (つづく)


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