〜譲れぬ願いを求めて〜
重苦しい空気の中を目を覚ます。
いや、この機械の身体では厳密には目を開けたと言った方がいいのかもしれない。
私は、この重苦しい空気の原因を知ってる。
隣に掛けていた刀を腰に差し、部屋から出る。
部屋から出ると、広い部屋の中心に机がある。
そこには、【マスター】が机に地図を開いていた。
背が高く、貧弱な体付きの男。
コイツが私の生みの親。
「あ……ラン。」
「また一人でどうにか出来るとでも?」
「だって君は……」
余計な事を言いたげなマスターを睨めつけ、黙らせる。
私は、マスターの机を挟んで正面に座る。
そして、地図に目を落とす。
「結構コチラ側へ入ってきてるな」
地図にはここら一帯の地形が示されている。
私達が住んでいる場所と人間達が住んでいる場所は離れている。
私達は、人間達と対立している。
理由は、この国の現状のせいだろうか。
私の国【バレンティナ】は、機械業が発達した国だった。
昔は、至る所で機械が蠢いていた。
そんな国が産んだ最高傑作【オートマタ】
頑丈で、よく働く。
自分達が動かなくても国が回る。
そんな味をしめた人間達は、オートマタを国を上げて作成した。
その結果は愚かなものだった。
オートマタは多くの貴重な鉱石で造られている。
その鉱石を採掘するため多くの山をダメにした。
それでも鉱石が取れなくなると今度は鉄に目をつけた。
鉄は少量精製するだけでも、多くの木が消費され、やはり山が消える。
そのせいで、この国から緑は消えた。
そして、土地は痩せていった。
そこまで状況が悪化してから人間達は機械が原因なのだと気づいた。
気づいた人間達は次に何をしたかと言うと、【機械は悪】だという信念の元、オートマタを抹殺し始めた。
愚かな人間達のせいで多くのオートマタが壊された。
それに伴ってオートマタを創る機械技師も消えていった。
今、ここに居るマスターがこの国最後の機械技師かもしれないほど。
ここには、マスター以外人間はいない。
マスターだけなら人間の街で過ごすことができる。
だが、コイツは家族を捨てれないと。
人間達と戦う道を選んだ。
人間は、国の為と戦い。私達は、自分達の生活を守る為に戦っている。
まぁ、もう一つだけ私達には人間達と戦わなくてはいけない理由があるが……。
「時間の猶予はないんだ。直ぐにでもいける?」
「あぁ……。」
私は、席を立ち壁にかかっている仮面を付ける。
この家から出る時には仮面を付けるよう義務付けられている。
一度、仮面を付けずに戦いに行こうとしたらマスターから止められた。
挙句の果てには、約束を守ってくれないのなら自分が戦うとまで言い始めた。
そして、マスターは机の引き出しから古びた拳銃を持ち出してきた。
だが、言葉とは裏腹に拳銃を握る手は震えていた。
元々頭は良いが、戦闘向きではないマスターが私に変わって戦うなど到底無理な事だった。
だが、私はマスターが拳銃を持っていた事に驚いた。
私が生まれて初めてあの拳銃を見た。
護身用に持っていた可能性もあるが、マトモに使えない物を持ち続けるのだろうか。
ともあれ、そんな事があった以降は私は仮面をきちんと付けるようになった。
私が、玄関を出る前にマスターは心配そうな目で見つめ「気をつけて」と言う。
これも毎回の事だった。
だが、何故かマスターの目には私じゃない誰かが写っているような気がしてならない。
一体お前は誰を見ているんだ?
そんな事を聞く勇気は私にはない。
玄関のドアを開けると、乾いた風が私を取り巻く。
遠くの方では人間達が作った兵器が見え隠れする。
淡々とコチラへ近づいているようだった。
私は、家から少し離れた場所にある小屋の鍵を開ける。
中には、犬のような形をした戦闘用オートマタが多く居た。
ここは、この子達の家の様なものだがここではこの子達は造られていない。
実際に、この子達が造られるのは家の地下室だ。
そこから地下道を通ってここへ来ている。
もし、人間共がこの小屋の存在に気づいてもこの子達が逃げれるようにしている。
本当は、家に集めておくのが最善策だが百体近くのオートマタが入るスペースはない。
昔、何故犬のような形にしたのか聞いた事があった。
マスターの返事は「犬は噛む力嗅覚、察知能力どれをとっても優秀なんだ」
こんな事を言っていた。
傷がなく戦闘準備が出来ている子から小屋を出る。
小屋を出る度に、毎回皆私の足に擦り付く。
壊れるかもしれない。
そんな思いからなのだろうか。
最後に小屋から出ようとしたのは右足を引きづる子だった。
「お前はダメだ。」
以前の戦いの時に負傷したのだろう。
マスターが必死に直しているが、一人では厳しいのが現実だ。
私がいくら小屋に返そうとしても帰ってくれない。
小屋に居る傷が酷い子達も手伝ってくれたが、それでも戻ろうとしない。
負傷したまま戦いに出れば、壊れる確率は高くなる。
それでも戦おうとする。
「お前も家族を守りたいのか?」
私の声に反応するかのように、皆と同じように足に擦り付く。
私は優しく頭を撫でる。
「無理はするなよ」
私は多くのオートマタを引き連れ、人間達を迎え撃つ為に歩き出す。
近づくと段々と輪郭がはっきりとしてくる。
「へぇ……豪華もんだな。」
人間達は戦車を三台引き連れて、私の前に立つ。
「悪魔達を焼き払え!」
そんな人間達の声が聞こえる。
私は、愚かだと哀れんだ。
今から死ぬだけなのに、自分たちを神の下僕だと勘違いでもしているのだろうか。
私は、腰に指した刀を引き抜く。
私の合図の元、オートマタは人間達へ襲いかかる。
鼻につくのは火薬の匂い。
目の前に広がるのは、焦げた地面と横転した戦車。
逃げ帰った人間達は殺すなとマスターから言われている。
まぁ、ここで殺す分には何も言われていないが。
足元に転がる肉塊を避けることも無く、その上を歩く。
負傷した子は居るが、今のところ壊れた子は見ていない。
負傷した子は小屋へ戻り、マスターからの治療を待つ。
無事だった子は戦車や人間の持ち物から使える物を探す。
戦車は私やオートマタには敵わないが、中の基盤などは使える。
ある程度回収が終わると、みんな私の元へ集まってくる。
私は、三つあった戦車の一つへ近づく。
あらかたは、回収し終わってるみたいだ。
横転した戦車の下を見ようと屈んだ時、私は言葉を飲んだ。
そこには、戦車に潰されたオートマタの姿。
助け出して上げたいが、戦車に身体が挟まれ動かす事が出来ない。
どこかの負傷だけならまだ直る。
だが、この子は【コア】が機能を失っている。
人間と同じ。
コアが壊れたらもう二度と直らない。
その時、右足の傷が目に入った。
「お前は……」
最後に小屋から出た子だった。
足を負傷しており、上手く戦車から逃げられなかったのだろう。
私は、あの子に向かって必死に手を伸ばす。
もう少しで、届きそうと言う時だった。
私の耳にか細い声が入った。
刀に手を伸ばし、辺りを見渡す。
その時もう一度か細い声が聞こえた。
今度はハッキリと。
「助けてくれ」
声の発生源は、あの子と同じ様に戦車に下半身を潰された人間だった。
コイツはあの子の横で潰れていた。
私の姿を見ると必死に命乞いをする。
「助けてくれ!俺が悪かった!」
私は、コイツの足を見る。
戦車に潰された両足はもう二度と使えないだろう。
「俺は本当はこんな事をしたくなかったんだ!上からの命令で仕方なく……。本当はオートマタの事が好きなんだよ!」
私は、コイツの周りを歩く。
コイツの足が挟まっているおかげで、地面から少しだけ戦車が浮いている。
まだ、ちぎれてはなかったようだ。
「おい!聞いてないのか!?助けてくれよ……お前も俺と同じ人間なら……!」
私は、口笛でオートマタを数体呼ぶ。
その子達と、地面と戦車の間の空間に刀を差し込む。
「助けてく……?」
その言葉を聞く前に、私は力を入れ戦車を浮かす。
その時、人間から大きな悲鳴が聞こえた。
それと、足に圧が掛かりちぎれるような音も。
戦車を少し浮かせたおかげであの子を動かす事が出来た。
だが、人間の方は顔が青白くなっていた。
それもそのはずだろう。
あの子を助ける為に無理やり戦車を浮かせた。
そのせいで人間の足の方へ戦車の重さが掛かり、完全に潰れちぎれた。
「その子を家へ」
私も家へ帰ろうとした時、足を掴まれた。
掴んだのは死にかけの人間。
「お前は……俺よりそんなガラクタが大事だと言うのか!?」
ガラクタ……。私は怒りを抑え冷静を装う。
「あぁ。それが何か変か?」
そう言うと、さっきまで青白く死にそうだったのに段々と顔が赤くなっていった。
青くなったり赤くなったり、人間とは不思議な生体だ。
「お前は人間だろ!?」
本当は、掴んでる手を蹴り飛ばし帰ろうと思ったがやめた。
私は、刀を抜き人間の首元に刃を当てる。
「私は、ヒューマンオートマタ。人間でもオートマタでもない。」
人間よりも丈夫で、オートマタより賢い。
それが私。
人間でもオートマタでもない。
「な、なんだよ……それ。」
今度は青白くなった。
死を覚悟したのか。
私は、そのまま刀を水平へ動かした。
人間の頭は二、三回バウンドした後止まった。
私は、自分の足を見る。
砂と血で汚れた靴。
掴んでる手を蹴り飛ばし、人間の服で靴に付いた血を拭き取る。
今度こそ帰ろうとした時、後ろの戦車から微かな音がした。
振り返る前に、私は爆風で前方へ吹き飛んだ。
あの人間が死んだら戦車に設置していた自爆スイッチが入るようにしていたのか。
なんにせよ、あの周りにオートマタがいなくて良かった。
私は、痛む体を起こす。
さっきまで居た場所が遠くなっている。
大分吹き飛ばされた。
咄嗟に避けたが、それでも無傷まではいかない。
それに、服が破れてしまった。
「また、怒られるな……」
私は、憂鬱な気分のまま家に帰った。
玄関の扉を開けると、マスターが悲しい顔をして私を出迎える。
「また……傷ついて……」
そして、自分が羽織っていた上着を優しく私に着させる。
「ランも女性なんだからもっと自分を大切にするんだ。」
マスターは、私を人として扱う。
私が何度人間ではないと言っても、今度は家族だからと同じような事を繰り返す。
私は、マスターから貸してもらった上着を握りしめる。
「すまない……一体壊れた……」
「……そう。」
それ以上何も言わずに、マスターは優しく抱きしめる。
「急いで直すから」
「私よりも他の子を……!」
直してくれ。
そう言いたかったが、強い眼差しで口止めされた。
理由は分かっている。
だが、本当に私が先に治療を受けていいのだろうか。
その時、部屋の奥からコチラを見ている視線を感じた。
「げっ……。H‐18……」
頭にHが付くオートマタは、マスターが非戦闘オートマタとして造った子達。
その中で18は、裁縫が得意な子だ。
私が今着ている服も18が作ったものだった。
今は見る影もないが……。
いつもは恥ずかしがり屋な18だが服の事になると性格が変わる……。
「あ、いや……大事にしていたつもりなんだが……」
部屋の奥から勢いよく現れる18。
そして、私の前で止まる。
身長は私の腰までもない。
だが、その身長で腕を振り上げ叩かれると腹に綺麗に当たる。
力自体は子供の様だが、傷ついた体には応える。
「悪かったよ……。」
他の子も私が帰ったと聞くと奥から出てきてくれる。
私は、この時間が1番好きだ。
家族といられるこの場所が。
「ほら、着替えておいで」
私は、部屋に入りボロボロの服を脱ぐ。
この部屋も私の為に空けてくれた。
マスターは使っていないと言っていたが、床が少し傷んでいる。
他の子が使っていたのだろうか。
私は、白いワンピースに袖を通す。
部屋を出て、ボロボロの服を18に渡す。
18は服を持って、部屋の端で縫い直してくれる。
その光景に少し暖かさを感じる。
そして、私は地下室へ向かう。
地下室はほの暗く、湿っている。
狭い空間に色々な機材が置かれている。
ここにある機材は全てオートマタを造る時に必要な物だ。
部品などは、人間達の戦車や武器の基盤を盗んで使っている。
「じゃあ、そこで寝てて」
空間の中心には簡易的なベッドがある。
仰向けで横になり私は、そこで治療を受ける。
翌朝、私は直ったばかりの体を休ませる為に部屋で安静にしていた。
だが、玄関の扉が開く音がし、部屋を出ると既にマスターは居なかった。
恐らく街へ行っているのだろう。
私やオートマタは食事を必要としないが、マスターはそうはいかない。
たまに、街へ出て仕事と食料を買ってくる。
私は、マスターが帰ってくるまで戦闘用オートマタの子達の所に居た。
未だ修理が終わっていない子も多い。
体の一部を破損してる子でも、必死に身体を動かし私の側へやってきてくれる。
私は時々考える。
私とこの子達の差は何なのだろうと。
簡単に言えば、【感情】があるかどうか。
だが、この子達は確かに感情が芽生えている。
だとすると、私とこの子達の差は無いはずだ。
「……私は明日には居なくなる。その時はマスターの事を頼む。」
そう告げ、私はここから去る。
家に戻ると、マスターが古ぼけた時計を直している。
「それが次の仕事か?」
「うん。思い出の時計の修理をね。」
マスターは街に行くと、修理屋として街の人間達から時計や武器を預かる。
それを修理する事でお金を貰っている。
時計はいいが、武器を修理する時のマスターの顔は強ばっている。
私は、マスターの正面に座りその作業を眺める。
慣れた手つきで修理している。
だが、少しおぼつかない。
顔を見ると目の下にクマが出来ている。
また寝ずにあの子達を直していたのだろう。
「よし……これで終了!」
直してもらった時計は、淡々と時間を刻んでいる。
次の物を修理しようとすると伸ばすマスターの手を止める。
「寝ろ」
「だけど……」
「明日の朝寝坊するとまた12から頭を殴られるぞ?」
「うっ……。分かったよ……。」
H‐12はいつもマスターを起こしているが、起こし方が雑なのが特徴だ。
いつも頭を殴って起こしている為いつも頭に大きなタンコブを作ってる。
それが嫌なマスターは渋々部屋へ戻った。
私は、部屋へ戻る前に家の中を見て回った。
少しの食料と、綺麗に整理されているキッチン、ヒビ入っている壁。
とても小さく、ボロボロの家だが私はここが好きだ。
私の居場所。
だが、明日から一時ここへ帰って来れない。
不安はあるが、きっと大丈夫だと自分に言い聞かせる。
一通り見て周り、私も自分の部屋へ戻った。
微かな光で目を開ける。
街から出ている鉄を作る際に出るスモッグの間から少しの光が漏れている。
この灰色の空も見れなくなる。
この国から開放されるのは嬉しいが、出ていきたいとは思わない。
ここには私を認めてくれる子達が居る。
部屋を出ると、机の上にコーヒーと一人分の朝食が用意されている。
私は、席に座りコーヒーを啜る。
「アイツ、アレだけ言ったのに寝坊したな。」
そう言った瞬間、短い悲鳴の後私の目の前にボサボサ頭のマスターが現れる。
その後ろには、H‐12。
「懲りないな」
「いやぁ……」
照れくさそうに頭をかく、マスター。
私の正面に座り、用意された朝食を食べる。
きっと、あの後もオートマタの夜遅くまで修理していたのだろう。
「……ラン。」
マスターは、朝食を半分ほど食べた後食べることをやめた。
そして、私の方へ紙を差し出す。
「あぁ。」
その紙には誓約書と書いてある。
汝、世界を総べる【オリジナル】の世界の名のもとに【旅人】になることを誓う。
世界を正し、旅が終わった時汝の望みを叶えよう。
望み……。
私を意を決して自分の名前を書く。
すると、誓約書は姿を変え白く大きな扉になった。
「これが……」
ありとあらゆる世界を統べると言われている【オリジナル】へ続く扉。
「もう行くんだね。」
「まぁな。」
マスターは、席を立ち私の右手を握る。
そして、右手の薬指に付けた指輪を愛しそうに撫でる。
その時、部屋の奥からやって来たH‐18が直した服を私へ差し出す。
「ありがとう。」
部屋に戻るのが面倒くさく、その場でワンピースを脱ぐとマスターは顔を赤くして後ろを向いた。
私の体は一応人間の女性として造られているが、中身は無数の基盤の塊。
それで顔を赤くするマスターはどれだけウブなのか。
直してもらった服は私にフィットするように作られていた。
毎回どこか破いてしまうが、その都度18が私に合うように作り直してくれる。
腰に刀を差し、18にお礼をもう一度言う。
着替えた事をマスターに伝える。
コチラへ勢いよく振り向くマスターは顔を赤くして
「いい!?他の人の前でそんな事したらダメだからね!」と早口で責め立てる。
「はぁ……分かってる。」
長くなりそうな説教を程々に、私は白い扉に手をかける。
「行ってくるよ。」
「うん……。ランが帰ってくるまでここは僕が守るから」
そして、周りの子達の顔を見たあと、私は扉に身を投じた。
扉の先は一面何も無い。
ただ、白い空間がどこまでも続いていた。
「変な場所だな。」
私は、辺りを注意しながら先に進む。
下を見ると、無数の数字が列を成して処理されている。
同じ様な光景に先に進んでいるのか不安になり始めた頃、道の先に誰かが居るのが見えた。
三人。
アイツらも私と同じ様になにか目的があり、ここまで来たのだろうか。
三人の場所に着くと、私の腰までしかない兎のような耳をつけた人間が話し始めた。
「これで全員ウサね!」
ピョンピョンと飛び回るその姿は兎だ。
そして、残り二人は
ブロンドの髪の煌びやかな鎧を着ている女騎士。
その腰には女には似合わない両手剣がぶら下がっている。
青髪に、ワンピースを着ている女。
さっきから下ばかりを向いている。
「まずは自己紹介ウサね!私はウサビ!【オリジナル】から来たみんなの可愛いナビゲーションウサ!」
自分で可愛いという兎。
馬鹿馬鹿しい。
「えっと……じゃあ次は私が。私はネル・ラシャール。魔法と剣で発展した【ラネール】の皇女です。皆さんとはこれから仲間として共に成長して行けたらと思います。」
皇女。
装飾品から身分は高いだろうと推測していたが、まさか王族とはな。
そして、次は青髪が話し始めたが話している事に気づいたのは喋り始めて少し経ってからだった。
それ程声が小さかった。
「じゃ、じゃあ私も。私は水の国【アマンダ】から来ました。レイ・アクエリネスです。い、痛い事や争うのは嫌いだけど……皆さんの足を引っ張らないようにします……!。」
元よりコイツらに期待などしてなかったが、コイツは全く使い物にならないどころか足でまといになりそうだ。
「じゃあ、最後をどうぞ!」
テンション高くコチラへ話を振るウサビ。
「【バレンティナ】のランだ。」
「淡白ウサね〜」
不満げに上目遣いで私を見上げるウサビ。
私が目を逸らすと「コホン」とわざとらしい咳をする。
「さてさて!ある程度はみんな知ってると思うウサけど、ウサビからもう一度説明するウサ!君らが今さっき使ったのは【時空の扉】。これを使って他の国へ移動するウサ。契約書にも書いてあったと思うウサけど、君らは僕と一緒に多くの世界を旅し、救ってもらうウサ。そして旅が終わったらご褒美として君らの願いを叶えるウサ!説明はこれぐらいウサかな。何か質問あるウサ?」
早口で捲し立てるように話すウサビ。
息継ぎ無しで話したせいか、最後の方は掠れて聞こえずらかった。
「願いはなんでもいいのか?」
呼吸を整え、ウサビが今度はゆっくりと話す。
「原則として、【実現可能な願い】に限るウサ」
【実現可能な願い】
どうして、ここを強調して話したのだろうか。
それに、内容がボヤけている。
実現可能とはどこからどこまでなのだろうか。
それを聞き返そうとした時ブロンド髪に先を越された。
「では、私から1つ。訪れる世界はウサビさんが決めるのですか?」
「ウサビでいいウサよ!行く世界に関してはウサビが厳選して選ぶウサ!」
手を腰につけ、胸を張って威張るがこの身長だと子供が背伸びをしているようにしか見えない。
「もう質問は無いウサね!」
私が質問する前に、ウサビは話を切ってしまった。
まぁ、後ででも聞ける。
ウサビは、ポケットから何か鍵のような物を取り出す。
それを、私達には見えないように背を向けて使うと目の前にさっき使った【時空の扉】が現れる。
「最初の国は【アスミオ】ウサ!応援してるウサよ!」
そう言って、扉を開ける。
その先は、真っ黒な空間が広がっていた。
「こ、この中に入るの……?」
今まで喋らなかった青髪がここに来て怖気付く。
「怖いならやめればいい。」
そう言うと、泣きそうな顔で私を見る。
何か言いたいのか口を動かしている。
だが、言葉は出なかった。
「言う事がないなら今すぐ消えろ。」
「私達は、今から仲間なんです。そんな事を言わないでください。」
ブロンド髪は青髪の元へ行き、何か説得しているようだった。
大方、大丈夫だと言っているのだろう。
数分経ち、やっと青髪が扉の前に立つ。
「私が先に行きます。」
そう言って、ブロンド髪は一人扉へ入っていった。
私は、青髪の後ろで待っていたが一向に行く気配がない。
「行かないのならそこを退け。」
「い、行きます……!」
頑なに扉の前から動かない青髪。
私は、段々と面倒くさくなり、後ろから青髪を蹴飛ばした。
その時、一瞬悲鳴が聞こえたが直ぐに聞こえなくなった。
「あ〜あ。可哀想ウサね……」
私の後ろで、青髪を憐れむウサビ。
「さっさと行かないアイツが悪い。」
それだけ言って、私も扉へ身を投じる。
ここから私達の【唯世界物語】が始まる。
いかがでしたでしょうか?
初めましてキーラです。
この物語は一話完結の三部作となっています。
楽しんで頂けたのなら光栄です。
また、次の世界でお会いしましょう。