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診察室にて ~とある男性の場合~

作者: とよとよ

次の方ぁ、どうぞ


呼ばれた男性は診察室へと入ってきた。

医者に勧められるまま、男性は伏し目がちに、丸椅子に腰かけた。

顔色も悪そうで、少し動くのも辛そうだ。


「今日はどうしました?」

医者はそんな男性をちらりと一瞥した後、

カルテに目を落としたまま、

医者は当然のように、機械的に、質問を投げかけた。


「少し熱っぽくて、喉も痛いんですよ。」

「それはいつ頃からですか?」

「昨日からです。」


医者は読めない文字で何かしらサラサラとカルテに書き足した。

恐らく男の症状を書いているのだろう。


「、、、昨日は、昨晩は満月だったじゃないですか。」

医者が症状を書き終わる前に、男は話し始めた。

そうなんですか?という医者の問いに答えず、男性は断言した。


「それが原因だと思うんです!」


「・・・・・」

「・・・」



「知っていると思いますが、満月の日は、世界全体の魔力位置(マジックステイタス)が、満月の力(ルナティックパワー)によって、大きく変動するんです。その変動により、昨晩は一帯に凍結爆発(フロストノヴァ)が発生し、寝ているにも関わらず、私の体力(ヒットポイント)を否応なく奪っていったんです。」

男は思いのたけを吐き出すように、一気に説明した。


「・・・確かに昨晩は寒かったですからねぇ。」

「そうなんです!!」

男は医者の言葉を受けて、乗り出すように顔を上げた。

すでに男の顔は紅潮していた。


凍結爆発(フロストノヴァ)に乗じた闇の組織(ダークユニオン)の攻撃を受けたんです!ご存知でしょう!闇の組織(ダークユニオン)が今仲間を集めていることを!我々はそれを阻止するために立ち上がったんです!」


「・・・分かりました。とりあえず席についてください。喉を見ますんで、上を向いて口を大きく開けてください。」


男が素直に大きく口を開けると、医者は無遠慮に舌圧子ぜつあつしを差し入れた。


「・・・はほ、ほふほほにへふう、ひはらほ(我が奥底に眠る力を…)」


あぁそういうのは診察が終わってから言ってくださいねぇ。

医者は男の顎をしっかりと押さえながら、淡々と喉の奥の方を見ていった。ひとしきり見た後、医者は席についた。


「・・・うぇ、ぅっえほっ」

「診察中に無理やり話そうとするからですよ。風邪ですね。あとでお薬だしておきますから。」

「・・・ぅは、、そ、そうか、我が転生したことにより、異世界との間に亀裂が生じ、それにより、、、」

「あぁ、そうでしたね、確か5歳の時に?この世界、中つ国(ミドルアース)に降り立ったんだっけ?世界を救うために?13歳ぐらいの時から、そういう設定だったよね?お前も変わんないね。」


男の言葉を遮り医者がそう話すと、男は熱っぽい顔を更に紅潮させて立ち上がった。


「設定ではない!!!」


男の言葉に、医者はやれやれという感じで肩をすくめた。


「これより50年後、1000年前に勇者ジークフリートにより封印されし、世界を滅ぼす魔王ラプラスが復活するのだ。復活に向け闇の組織(ダークユニオン)もすでに動き出している!我々が食い止めずに、誰が動くというのだ!・・・うぇ、ゲホッ!ゲホッ!」

「ほら、風邪なのにそんな大声出すから・・・座って?落ち着いて?」


医者は咳き込む男の肩を優しくおさえながら、席につかせた。


「・・・ゲホッ!、お、お前も、、、白衣(そんなカッコ)してないで、早く治癒魔術を覚えてくれよぅ、、お前がちゃんとしてくれないと、俺たち黒狼の牙ブラックウルフ・ファングは先に進めないんだよ、、、」

「はいはい、分かりました。それだけ元気があれば大丈夫ですね、薬は3日分あるから、3日たっても治んなかったら、また来てくださいね。」


まだ、話は終わっていない!と喚く男を無理やり診察室から追い出した。



「ふぅ・・・」


医者は椅子に座り一息ついた。

まったく、サービス業も楽じゃないね、、、

医者はそう独りごちすると、気を取り直すように姿勢を正して

「次の方、どうぞぉ」と声をかけた。



次に入ってきたのは女性だった。

しかも豊満な胸をお持ちのナイスバディ。


もちろん医者の立場として、邪な感情は持ち合わせない。

あくまで患者、あくまで医者 である。


女性は何も言わずに、すっと丸椅子に腰かけた。


「今日はどうされましたか?」

「・・・・」


医者は答えない女性をしっかりと見つめた。

顔色は悪くない。

姿勢もしっかりと伸ばしている。

そして素敵なバディ。

隙なくロングソードを帯刀していて

細かな傷のついた鎧が歴戦の戦士であることを示していた。


なにより長耳!

私は長耳族(エルフ)がタイプなのだ!


、、、いかん、いかん、私は医者、彼女は患者なのだ。

医者は邪念を振り払うかのように頭を振った。


「・・・・ねぇ、ちょっといい加減にしてくれない?!」

長耳族(エルフ)の女性が不機嫌そうに口を開いた。



「戦闘が終わる度に、こういうやり取りすんのが、もうイライラすんのよ!」

ん?彼女も顔が紅潮している。風邪ですかねぇ。昨晩は凍結爆発(フロストノヴァ)が発生してましたから、、、


「なに?5歳の時に?異世界から転生してきて?前世の仕事は治癒術師?何ていうのか忘れちゃったけど。その知識を生かして、この世を救うんだったっけ?」

「治癒術などという怪しげな術ではない!これはれっきとした科学(サイエンス)なのだ!!」

「サイエンスだか、ホイエンスだかよく分かんないけど、いい加減先に進まないと本当に間に合わないのよ。分かるでしょ?」

科学(サイエンス)を愚弄するのか!いいか!正しい知識こそ力なのだ!私が邪悪な知識の蔓延るこの中つ国を、、、まて!何をする!離せ!」


女性は無言で医者を羽交い絞めにして、部屋の外に連れ出した。

パーティの旅はまだ始まったばかりである。

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